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僕が人を殺す理由  作者: アズキ


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第22話「始まり」

人は簡単には変わらない。

長い時間をかけても、生まれ持って培ってきた性格を変えることは難しいのだ。


だが、この世は理不尽にできている。

とある出来事1つで、人間は変わってしまう。

いい方向に変えるには途方もない時間が必要。

けれど、悪い方向へと向かうのにそう時間はかからない。


悪い方向へなら、たった一つの些細なことでその方向へと歩み出す。

だから、人を殺したという情報が世間に回った時、動機を聞いた人々は皆、口を揃えてこう言う。


「そんなくだらない理由?」と。


理由はどうあれ、人々は自分ではない誰かがこの世で殺された時、その状況を手の届かぬところから見下ろし《《楽しむ。》》


ここがチャンスと言わんばかりに、犯人を叩き、なんなら警察をも叩く。

そして、それがネットでバズったら喜ぶ。

殺された人がもし、見ていたらどう思うだろうか?

溜まったものではないだろう。


こういうのですら人を変えてしまう火種になるのだ。

そして昨日は白石文也という人間が変わった。


世界にはまた1つ、凶悪な犯罪の芽が発芽したのだ。


あのアパートのすぐ近くで白石はフードを被り、スマホをいじりながら建物の壁に寄りかかり時間を潰していた。

待っているのはあの2人。

荷物の中には包丁を隠し持っている。


渋谷の街は警察の姿が見えなくなっていた。

大川が捕まったからだ。

いたところで、自分のことはバレやしない。

周りの人間は自分の存在なんか気にしてはいないはず。


ネット小説の方は賛否の否の方が多く上がった。

続きを楽しみにしていた小説がいきなり完結したとなれば、そうなるのも不思議ではない。

けれども、ネットの民は白石自身が「彼」になったこと、仮面の下には白石の顔があることを知ることはないのだ。


夜が耽った頃、2人がその場に現れる。

仲良く手を繋ぐその様子を見ても今は悲しいという気持ちは全く湧かなかった。


ただ、ひたすらに2人をぐちゃぐちゃにしてやりたいと感じていたのだ。

白石は仮面をつけた。


その仮面は白石の小説に出てきた「彼」と全く同じもの。


2人の後を追う。

セフレの男が家の鍵を開け、小野を先に中へ入れる。

男が次に入ろうとした瞬間に、白石がその扉をガシッと掴んで中へと入ってきた。


「な、なんだお前!」


白石は扉を閉め、鍵を閉める。

そして、躊躇いなく男の腹部を刺す。

「うぅ!」という声とともに玄関にうずくまる男。

逃げようとする小野。

白石はそのあとを追い、スタンガンで小野を気絶させることに成功する。


男の方がまだ息があり、声を上げていた。

隣人にバレてしまうと思い、顔を上に向けさせ、喉を狙い包丁を突き刺す。

言葉にならない悲鳴と血が口の中からこれでもかと言うほど溢れてくる。


頭の何かが完全にイカれてしまったらしい。

普通感じるはずの感情が全くやってこないのだ。

白石はたった1つの感情に支配され、その通りに体を動かした。


もう死にかけの男の体のありとあらゆる部分を刺していく。

まだ痛覚があるらしく、刺す度に反応する。


舌と声帯を失い、声が出なくなったが、必死に声を出そうとするが、出てくるのは血だけ。

苦しそうに濁点の着いた「ん」を連呼するのだ。

その反応が面白くて何度もやってしまう。

手の指の第一関節を1つ1つ切り落としていった。


気づいた頃には何をしても反応しなくなっていて、そこでようやく死んだことを理解する。

しかし、これでまだ終わってはいない。

次のターゲットがすぐ側で気を失っているのだから。


小野が目を覚ますと、自分はベットに縛り付けられており、口にはタオルが巻かれ、声が出せないようになっていることに気がつく。


この状況を彼女は知っている。

恋人と偽って関係を持った高校時代の先輩の小説で殺される人と同じ状況。

小野はすぐに自分の足の方を見る。


小説通り、そこには無惨に殺されたセフレの姿があった。

恐怖で目から涙が溢れ、必死に声をあげようとしたが、声が出せず唸り声のようになる。


次の展開を思い出していると奥から仮面を被った男が現れる。

ここまで完全に同じ展開だった。

もうこれは確信犯だと言っていいと思い、タオルを口に咥えたまま言葉を発する。


「誰なの!?先輩なの?」


その声は言葉とは言えないものだったが伝わる。

白石は仮面を取り、正体を明かす。

小野の目は眼球が見開き、呼吸がおぼつかなくなっていた。


「なんでって思ってる?これが理由だよ。」


椅子に座らされている死体の髪の毛を掴み、顔をグイッとあげる。


「でも、それは本質じゃない。

君のセフレを殺してて確信が持てた。

僕が感じたことは間違ってなかったって。」


包丁を取り出すと、小野は腕と足を震わせ、暴れようとする。

その滑稽さに白石は思わず笑いをこぼす。

暴れる足を掴み、親指の皮膚を剥ぎ取ってみせる。


痛みで呻き声がさらに喉の奥から溢れ出てきた。

剥ぎ取った皮を小野の頬に乗せる。

彼女は痛みからなのか恐怖からなのか分からない涙を浮かべていた。


その涙を白石は指でなぞり、その指を剥ぎ取った親指の傷に触れさせる。

小野は先程よりも強い痛みに襲われ、悶えた。

白石はベットに座り、語り始める。


「本当に色んなことを教えてもらったよ。

恋するって喜びも、失望と絶望も

それに、人殺しの本質まで。

本当に、本当に色んなことを経験させて貰った。

気づかせてくれたのは君だよ。

教えてくれたからには、ちゃんと返さないとね。」


小野は首を横に振りながら何か言葉を発している。

何を言っているのかはよく分かった。

けれども、白石はわざと分からないフリをする。


なぜならその言葉が「ごめんなさい」だったから。


そんなことを言われたいんじゃない。

「どういたしまして」「答えが見つかってよかった」ってそう言って欲しかった。

気づくことができたんだ、人殺しをする理由が、その本質を。


もう止めることはできない。

それは何らかのウイルスのように、白石のことを蝕み、人間ではない怪物へと変貌させてしまったのだ。


小野の上に馬乗りになり、腕を切り開く。

中には血管や骨が見える。

血も溢れ出し、ベットを赤く染めていく。

そして、指で切り口を触ったり、広げる度に、小野は泣き叫ぶ。


その光景を見て白石の口からとある言葉がこぼれる。


「楽しい。」


純粋な言葉だった。

子どもが遊んだ感想を言ったようなもの、そこに曇りなどは一切ない。


段々と小野の体を切り刻んでいく。

溢れる大量の血。

その血を白石は手袋をした手で受け止め、小野の顔へと流す。

自分が思いつく限りを試した。


その全てがあの感想へと行き着く。

腕をギリギリまで切っても、太ももに思いっきり包丁を突き刺しても、眼球を抉り出した時も、その度に上がる小野の悲鳴を聞く度に満足感に襲われる。

そして、心の中でまた呟くのだった。


「楽しい」と。

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