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僕が人を殺す理由  作者: アズキ


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第21話「芽生え」

白石は面会の帰り、1人でカフェに居座っていた。

席に着いてから何回ため息を口から吐いたか分からない。


結局、大川が自分に何を伝えようとしていたのかはハッキリせず、自身の解釈でどうにかするしかなかった。

スマホを見ても、続きが見たいフォロワーで溢れかえっていて、余計に心が乱れてしまうだけ。


もうそろそろカフェを出なければと、席を立ち会計を済ませて外へ出る。

面会をした時から外は暗かったが、渋谷の街は空以外は明るい。

月明かりに照らされている訳ではなく、人工の光に街の人々が照らされている。


そうするとどんな人がいるのかが分かるのだ。

照らさなくてもいい部分までもを照らしだす。


見覚えのある顔が少し先に見えた。

小野だった。

こんな時間に会えるとは思ってはおらず、声をかけようと歩き出す。

1歩1歩近ずく、人混みの中にいるため、向こうは白石に気が付いていない。


人と人の間から見える景色。

そこから見えた景色の中に白石は唖然とする。

歩く人と人との間に手を繋いでいる光景が目に飛び込んできた。

そして、その手を見たまま視点を上に上げる。


その場所には小野がいた。

隣にいるのは見知らぬ男。

無数に動いている人々の真ん中で白石は立ち止まった。

肩がぶつかっても感覚がない。

止まっている自分のことを睨みつける人たちの顔がボヤける。


やっとの事で正気を取り戻し、白石はフードを被った。

2人のあとをつける。

バレないようにいくらか距離を保ちつつ尾行。

2人は何やら楽しげに会話をしているのが見える。

そして、繋いだ手をゆらゆらと揺らしていた。

ブランコのように揺れるその手を見る度に白石は何かが芽生えている感覚に陥る。


小野の横顔が見える度に、自分に見せていた、あの笑顔が蘇った。

あれは偽りだった?

誰にでも笑顔を見せるのか?

あの男は兄なのか?そうであってくれ。

兄弟でああいうことをするなら納得できる。


いや、でも、小野に兄妹なんかいなかった気が…


嫌な予感は次第に大きくなり、シロアリのように白石の心を蝕み続けた。

白石はシロアリに食い荒らされた木材のようになり、少し触られただけで崩れてしまいそうだ。


そのうち、2人は人気のない路地裏に入る。

白石もそのあとを追った。

人の数が少なくなり、2人の会話が聞こえ出す。


「ねぇ、本当にこんなところでするの?」


「いいじゃん、こっちの方がスリルがあって。」


「いいけど、ちゃんと付けてよ?

中にされるとバレちゃうから。」


「なんだよ、最近ノリ悪いじゃんか。

彼氏ができたから?俺らその前から関係持ってたじゃんか。」


「セフレの関係続けてるだけありがたく思ってよね。

まぁ、あんたの方が気持ちいいんだけどね。」


「なら俺でよくね?」


小野は少しニヤッと笑う。

路地裏の建物の影から白石はその様子と会話を覗いていた。

なるほど、そういう関係だったのかと、音を立てずにため息を吐く。


路地裏から見てはいけないものを見るのは初めてではなかった。

だが、今回は胸のざわつきが違う方向性だ。

2人が下半身を露出しだした時に「あぁ、嘘だと言ってくれ」と初めて神に祈った。


しかし、その後に聞こえてくるのは残酷なもので、路地裏の外にまで響きそうな声と行為をする音。

白石が今までに聞いた事のない小野の声が聞こえる。


泣きたいと思った。

だが、涙が出ることはなく、心の中が投影されるなら1つの芽が心から咲くのが見えるだろう。

その芽は鮮やかな緑色ではなく、血が固まったような、どす黒い色だ。


すぐにでもその場を立ち去りたいと思った。

けれど、やることがあったため、生き地獄のようなその場を離れることができずに行為が終わるまで、苦しみを嫌という程味わった。


時間が無限に感じ、一生終わらないのではないかと錯覚を起こす。

手の指は自身の手のひらを強く握り、皮膚を突き破る勢いだ。


やっとの事で、路地裏での行為が終わったらしく夜に響く喘ぎ声と音が止む。

白石はそっと手で胸を撫で下ろし、ため息をつく。


「ねぇ、明日もしたいな。これハマっちゃうかも。」


小野がそう言ったのが聞こえた。

もう辛いという感覚を失い、この時に感じたのは「好都合だ」という思いだけ。


「この後どうする?家でやる?」


「そうする。」


随分と乗り気だな、その方がいいけど、と強がりなのか本心なのか分からない独り言を心の中で呟く。

やることとは2人が行く家の特定。

なぜそんなことをするのかは明確だった。


路地裏から移動する2人にバレないようにまた距離を保つ。

一瞬、小野がこちらを見てきてバレたかと思い焦った。

しかし、バレることはなく、そのままあっさりと家を特定することができたのだ。


その光景をどこかで見たような気がする。

まるで自分の小説の中にいるようだった。

2人がアパートの階段をのぼり、玄関の鍵を開けて中へと入っていく。

それを見守ったあと、白石は自分の家へと帰った。


電車の中で感じた感情は悲しみでも辛さでもない。

涙も出ない自分はこの状況を辛いとは思っていないらしいのだ。

だが、新たな芽が自分の心に発芽したことで「楽しみ」という感情が湧き上がっていた。


家に帰り、玄関先でスマホで小説アプリを開く。


何も付け足しをせずに小説を完結させた。

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