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僕が人を殺す理由  作者: アズキ


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第19話「終わり」

白石は学校の前に朝食を作っている。

朝食を自身で作るなんていつ以来のことだろうと考えた。

小学生の頃、祖母の家で作った時以来な気がする。


耳にはBluetoothのヘッドボンをして曲を聞く。

そして、手を動かし朝食を作る。

一限から授業があるというのに、それを全く気にしないで作ることができていた。

曲に合わせて体が勝手に動く。

料理を作っていなければ、間違いなく踊り出していたことだろう。


曲がサビに差し掛かり、ライブの最高潮のように高まる。

フライパンで焼かれている卵に水を入れるとまるで丸い会場でライブが行われているように見え、白石の心はより一層、絶頂の気分を手に入れることができた。


テーブルに料理と飲み物を運び、ヘッドホンのBluetoothを切る。

気分のいい朝食に手をつけた。


いつも食べないような時間に食べる食事に胃袋が少しびっくりしている感覚だったが、すぐに動き始め、グルグルと音を立てる。

気分がいい時の食事は体の細胞一つ一つに喜びを与えている感覚だった。


食べ終わり、いつもなら皿洗いは後回しにするのに、今日はすぐに終わらせたのだ。

皿洗いの時もヘッドホンを繋ぎ、お気に入りの曲を聞き、イントロの時点で体が反応を始めるほどだった。


顔を洗い、スキンケア。

髪の毛を濡らして乾かす。

アイロンで髪型を整えて、学校に行くだけなのにワックスで髪を固めた。

普段ならしない行動。

出かける時でもする時としない時があるぐらいの行動だ。


玄関に行き、靴を履いていると通知が来た。

小野からの連絡で今日の夜また一緒にいたいとの連絡だ。

白石はそれを了承し、さらに浮かれた気分で玄関を開けて学校へと向かった。


電車に乗る時も心は穏やかのまま。

窓の外を眺めていても、周りの人間の会話がスっと頭の中へと入ってくる。

渋谷では多少、心のどこかがザワついた。

この場所でまだ殺しの場面に出会えることを期待してないわけではなかったのだ。


でも、今は朝だし、学校に行くので見られてもガッツリと観察することはできないだろう。

見られなくても、あのUBSに入っているデータを見れば書けないこともない。

未だにアレを隠し持っているという事実が悪いことをしているという興奮を少しだが生み出している。


学校の教室には一番乗りで到着。

電気をつけ、好きな席に座り、スマホを眺める。

小説を書き始める前にネットの反応を確認した。


評判は絶好調のようで、今後の展開が大きく期待されている。

自身もここからが本番だと意気込みながら文字を打ち続けていた。


授業の15分前ぐらいになると、クラスメイトがゾロゾロと入ってくる。

いつもと同じ光景だ。


友達が自分の所へと歩み寄ってきて話しかけてくる。


「おはよ。白石、もう安心だな。」


「ん?何が?」


「渋谷の殺人事件の話だよ。

犯人が昨日捕まったらしいんだよ。

ニュースになってたけど、見てないの?」


「え…」


白石は急いでスマホの画面にニュースを映し出した。

確かにそこには、渋谷での殺人事件の犯人が逮捕されたというニュースが流れている。

犯人の名前、顔も全て出されていた。


「この人…」


「ん?どうした?」


「いや、なんでもないよ。

ほら、もう授業始まるから席つけよ。」


授業が始まり、クラスメイトの話し声は数秒の間、なくなる。

その静寂の中で自分の心臓の鼓動が教室中に響いているような気がした。

変な汗が体から吹き出し、特に脇が洪水を起こしている状態になる。


明らかにそれは冷や汗だった。

発表や過度な緊張の時に白石はよく冷や汗をかいていたのだが、その状況によく似た感覚だったのだろう。


いつもは小説のことや悩みのことで授業が頭に入ってこない時が多いのだが、今日はその事件のせいで授業が右から左に流れていってしまった。


授業が終わったあとの騒がしいクラスメイトの雑談も、授業で流された映像の音も、階段を上る自分の足音ですら、感じなくなっている。

虚無に襲われていた。

圧倒的虚無だ。


朝、買ったばかりの新しい服を着た時のような気分だったはずなのに、車が通りかかった時の泥水が服にかかったかのような気分になる。

気持ちの波がこんなにも浮き沈みすることは知っていた。

分かっていても沈むものは沈む。


ここで気がつく。

自分は何を言っているのだ?

なぜ沈んでいるのだ?


連続殺人事件を起こした犯人が捕まり、平和が訪れたのはずなのに、ガッカリする部分がどこにあるのだろうか?


自分はずっと殺人鬼に取り憑かれていた。

全ては小説を書くため。

殺人の描写を上手く描くため。

それを探すために、自ら危険な場所をウロついていたのだ。

だが、犯人が捕まってしまったとあれば、叶わぬ願いになってしまったも同然。


1から4限まであったはずの授業があまりにも早く過ぎてしまった。

1人でとぼとぼと歩き、小野との集合場所を目指す。

足取りはいつもの10分の1ぐらいにまで狭くなってしまっている。


こんな気持ちで自分の彼女に会うとは、夢にも思わなかった。

歩幅が狭くなったせいであろう、集合場所には遅めに着いてしまった。


今まで集合場所に先に着いていたのは白石だったのだが、今日は小野の方が先にその場にいたのだ。

駆け寄ってくる小野は白石の顔を見て心配そうに眉を困らせた。


「先輩…何かありました?」


「なんで?」


「表情がなんというか、先輩じゃないっていうか。

最近、先輩が変わっていってしまってる気がして。」


「大丈夫だよ。」


ニコッと作り笑いを無理やり作り、小野を安心させようと努力する。

だが、小野の顔から心配の表情は消えなかった。


食事の席についても、小野は白石のことをずっと心配してくれている。

大丈夫だよと何回も伝えても、それは煙のように数分も相手を安心させられないような軽さの言葉だった。


料理が運ばれてくるまで会話はなく、なんとも言えない雰囲気が2人を包む。

何も考えていないわけじゃなかった。

それが公を奏し、1つのアイディアが頭の中で浮かんできて、脳の8割を埋め尽くす形になる。


「なぁ、由菜ゆな。聞きたいことがあるんだけど。」


急に表情が活き活きし始めた白石を見て小野は少し驚いた。


「なんですか?」


「犯罪者と面会って誰でもできるのかな?」


「ええ、ちょっと分かんないです。

Googleで調べてみますね。」


スマホを取りだし、調べ始める。


「あ、先輩できますよ。

接見禁止とかがなければ、あとは平日の日じゃないとできないみたいですね。

先輩、もしかして、小説のことで悩んでたんですか?」


「そうなんだ、何も言わずにごめんね。」


「びっくりしましたよ。

私に何か不満があるのかと…」


少し涙目になる小野を見て、白石は立ち上がるのを必死に堪えて声だけにとどめる。


「不満なんかないよ。

それに、由菜には助けて貰ってばかりだから。」


「良かったです。」


そこからは食事の味が戻ってきた気がする。

舌の味覚を感じる細胞が再び機能し始めたかのように美味しいと感じられるようになった。


「でも、何のためにやるんですか?」


「本格的なものを書くために、インタビュー的なことをしてみたくて。

殺人鬼と話せる機会なんてないからね。

本人も自分がやったって認めてるんだったし、確か。」


「私は先輩の小説好きですけどね。

最近の展開には驚かされてばっかりですし。

早乙女が死んだ時はあまりにあっさりすぎて開いた口が塞がらなかったです。

なかなかいい所で区切りますよね先輩。

続きが気になって仕方がないです。」


「まぁ、今後に期待しといて。」


食事を済ませて、店を出る2人。

白石は早速、明日にでもインタビューに行こうと思っていた。

必要なのは身分証。

明日も授業があるということで、その日は何もせずに解散をすることになった。


「先輩、さっき嬉しかったですよ。」


「何が?」


「名前で呼んでくれたことですよ。」


「なるほどね、全然呼ぶよ、これからたくさん。」


人目を気にせずに、その場でハグをする。

小野は赤面しながら、流れに身を任せてハグをし返してきた。


「私…怖かったんです。

なんだか、美術部だった頃の先輩が変わっていっちゃうようで。

別人になって、遠い人になっちゃったみたいで。」


声が震えていて、泣きそうになりかけているのが伝わってきた。


「何も変わってないよ。安心して。」


今回の言葉はしっかりと小野の中に届いたらしい。

その言葉の後、抱きしめる強さが格段に強くなったのを感じたからだ。


手を振り、解散したあと、白石の頭の中にあったのは面会のことだけだった。

小野のことは頭の片隅のどこかに放置している。


今日は小説を書くのはおやすみしよう…

白石はそう思いながら自分の家へと帰った。

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