第1話「狂気」
東京都のとある動物の専門学校。
白石文也はその専門学校に入ったものの動物の仕事につくか迷っていた。
21歳になる彼の趣味はネットで小説を書くこと。
最初はほんの出来心だった。
映画鑑賞が趣味で1度ネットの演技などにも手を出してみたこともある。
しかし、彼が1番惹かれたのは「物語を作る」ということだった。
そして、ネットで小説を書き始めるようになったのだ。
いい時代になったもので、紙に書く必要もなく、スマホ1つあれば小説がかける。
ネットのXなどで宣伝すれば、読んでくれる読者だっているのだ。
白石が得意とするジャンルはミステリーやサスペンスだったが、彼は今とある悩みを抱えていた。
些細な悩みだと思うが、解決しようにも策が見つからないでいたのだ。
「よぉ、おはよ、白石。」
クラスメイトに声をかけられる。
スマホと睨めっこしていた白石は声をかけられたことでやっとクラスメイトが教室に入ってきたことを認知した。
軽くびっくりして、勢いよく顔をあげる。
「あぁ、おはよ。」
「お、また小説書いてるの?
今回も楽しみにしてますよ〜。」
クラスメイトの中にも自分の小説を読んでくれる友達は少なからずいる。
話しかけてきた友達のように続きや、新しい作品を楽しみにしてくれているやつもいるのだ。
しかし、動物の専門学校にいるのに小説を書いている自分は周りからすれば異端だった。
影でコソコソと趣味をバカにされているだろうと心のどこかで思っている。
というか、おそらくはそうだろう。
とあるクラスメイトと実習に行った時に「小説書いてるなんて変だから近ずかんとこって最初は思ってたよ。」って言われたのだ。
それで馬鹿にされてない方が不自然というもの。
そんな事で趣味を終わらせる気はサラサラなかったが。
「完結はもう少し後になるかなぁ〜、ちょっと詰まってるんだよねぇ。」
「どんな所が?」
「スプラッター描写って言うの?
人を殺すときの描写が上手く書けなくてさ。」
「そうかな?
この前、読んだやつの描写はかなりえげつなかったと思うけどな。」
「それは嬉しいんだけど…なんか満足できないって言うかさ。」
白石は小説で人を殺すときの描写にすごくこだわりがあった。
グロ映画を何本も見漁ってきた経験からそういう描写にものすごく惹かれる。
どうやってあんなに人を感動させられる描写を描けるのだろうと思う。
それを他人に話すと少しどころか、かなり引かれてしまう。
自分でも「狂人」である可能性は捨てきれない。
サイコパスだと何回言われてきたことか。
母親との会話もなかなかで、自分の中ではいい話のネタだと思っている。
「お前、小説の話してる時、ちょっと怖い時あるもんな。
本当に人を殺してないか心配になる時あるわ。」
「それが出来ないから、小説でやってるみたいな節はちょっとあるかもね。
だって、小説の中なら何したっていいんだし。
自分の思い通りに事を進められる。
あ、小説は1話づつ更新していく予定だから。」
時々、自分自身が運良く人を殺さないという道にいる気がしてならなかった。
人が殺される映画を観ることは好きだし、小説で人を殺すことにも抵抗はない。
けれども、いざ、死に直面すると心做しか目を逸らしてしまう自分がいた。
祖母や祖父が亡くなった時がその時だ。
葬式があるという現実から目を逸らしていたい。
見てしまえば、心が苦しくて気分が悪くなってしまう。
そういう心がまだある時点で、人殺しの道には進んでいかないだろうという謎の自信があったのだ。
そんなことを思っていると、友達が心配そうな顔で質問をしてきた。
「そういえば、大丈夫だった?」
「何が?」
「電車止まってなかったかなって。
白石って渋谷の電車使うよな?」
「使うけど、それがどうかしたの?」
「昨日の夜、渋谷で殺人が起きたらしくてさ。
犯人まだ捕まってないみたいだし、大丈夫かなって。」
「別にこれといって変わりはなかったけど、ちょっといつもより人混みが多かったりした気はしたけど。」
そろそろ授業が始まる。
友達は自分の席へと戻った。
先生が来るまでもう少し時間があるはずだ。
白石はスマホを取りだし、ニュースをチェックしてみる。
確かに昨日の夜に渋谷の街で殺人が起こっていた。
犯人はまだ捕まっておらず逃走中。
それにしても、あんな人が多いところで殺人をおかすなんて勇気があるなと少し感心してしまう。
いや、
逆にあれだけ大勢が通る道なら人が1人死んだぐらいじゃ周りの人間はそこまで反応しないのかもしれない。
近くにいた人間は悲鳴を上げたり、被害者を心配するかもしれないが、遠い場所にいたり、駅に入る寸前だとしたら、気にもとめないはずだ。
広く、人混みが多い場所で犯罪が行われようが、全てに目を通すことは不可能。
人混みに紛れて逃げるのも簡単なのかもしれない。
人が殺された場面に出会うことができたのなら、スプラッター描写をもっと上手く書けるだろうか?
不謹慎な考えだなと、思考を止めた。
先生が教室に入ってきて、脳みそは小説のことから授業へと変換される。
それでも、頭の片隅には自分が書いている小説の内容をどうしようかという考えが抜けないのがいつもの事だった。
そういえば、今書いている小説の舞台も渋谷だったな…




