第15話「UBSメモリ」
休みが4日間もあるというのは退屈なもの。
やることがあれば充実した1日1日を過ごすことができるのであろう。
友と遊ぶ機会も少なく、バイトもしていない白石にはそれはできない。
唯一の趣味である執筆だって、今は止まって閉まっている。
書いているうちに分からなくなってきてしまう。
それでも、書かなければという指名のようなものを感じては書く、そんなループに陥るのだ。
そんな時に書いた作品は自分でも何を言っているのかよく分からない内容になってしまうのは確かだった。
読者の方はその内容を理解するのに苦しむだろう。
一体自分は何を悩んでいるのか、どういう答えに辿り着きたくて渋谷に行ったのか…
日に日に分からなくなるのだ。
そして、まだ月曜日の昼だが、渋谷に行こうとした。
あの場所に行けばこの悩みの答えが見つかるかもしれないと信じているからだ。
カバンを持ち上げたとき、斜めになったカバンから何かが落ちる。
小さいもので、カコンという音を立てる。
それはUSBメモリだった。
それも、見覚えのないUSBメモリ。
「こんなもの持ってたっけな…?」
そう思いながら、中身を見ればそれが自分のものなのかが分かると思ったため、パソコンにUSBメモリを刺した。
中には大量の写真と動画が入っており、白石にはこんなに写真と動画をUSBメモリに移動した記憶はない。
やはり、誰かのものを持ってきてしまったのか?
一応、写真を1つ開いて見ることに。
そこには衝撃のものが写っていた。
人の死体。
どの写真を開いても見たことの無い死体の写真がゴロゴロと出てくる。
何枚か見覚えのある写真が出て来た。
渋谷で見たあの死体だ。
つまり、これは渋谷での殺人事件の犯人のもの。
それがたまたま白石のカバンの中へ?
そんな確率は低い。
じゃあ意図的に入れられた?
そっちの方がまだ現実味があると言えるかもしれない。
そんなことよりも、白石は写真に釘付けになっていた。
見たことのない死体。
見た事のない殺し方。
似た殺し方をされたものも数多くあるが、見たことのないものもあった。
動画を1個開いてみる。
映し出されたのは狭い部屋の真ん中に椅子があり、そこに座らされる1人の女。
口にはタオルを巻かれ、声が出せなくなっている。
手足は縛られ身動きができないようだ。
そこに1人の男?が現れた。
フードを被っていて顔は全く見えない。
包丁を握ったそいつは、女の顔を手で掴み、目を包丁で抉り出して見せた。
そして、抉り出した目玉をカメラの前に持ってきて見せびらかす。
白石はグロいと思いながらのその光景をジッと見ていた。
次は何をするんだろう…次にこのサイコパスは一体どんなことをしでかしてくれるのか、気になって仕方がなかったのだ。
吐き気を催すどころか、続きが気になり、ずっと見入ってしまう。
そいつは頭を切り始め、皮膚が段々と剥がれていき、頭蓋骨が露出し始める。
包丁を動かす度に、女が必死に出す声が大きくなっていく。
白石は隣人にバレないようにイヤホンをした。
サイコパスの目的は完全にその女を痛めつけることだ。
動きから何となく分かる。
痛めつければ痛めつけるほど、動きが軽やかになっているように思えた。
手際からしてもかなりの手練だろう。
躊躇なく包丁を女に走らせる姿はサイコパスそのもの。
罪悪感もなければ、犯罪をしているという意識すら内容に思える。
そして、包丁の進みは頭だけにとどまらず、体の方へと進行してく。
おそらくは全身の皮膚を剥がそうとしているものだと白石は思った。
剥ぎ取る度に血が出てくるが、刺した時よりも少量の血が体をつたい、体に模様を作り出す。
1つの芸術作品のように思えてくる。
その光景を見ている白石は気が付かないうちに下半身が反応をし始めていることも気にかけない。
体が無意識のうちに興奮を覚え始めていた。
体のありとあらゆる皮膚を剥がされたその女は全身から血が滲みだす。
涙を流してはいると思うが、そこまで鮮明には写っていない。
お世辞にも綺麗に皮膚を切り取っているとは言えない姿だ。
それでも、白石はそれを見て「すごい」と声を漏らしていた。
そのことを本人は気がついていない。
その後の動画は満足したのか、包丁で数箇所をさして絶命させた。
女がタオル越しに声を上げると、白石の満足度は上がる。
溢れ出す血と内臓が地面に散らばる様子は普通の人間なら見るに耐えられない光景だろう。
動画を視聴し終わったあとの白石は、まだ興奮が抑えきれない状態であった。
そして、下半身が反応していることにやっと気づく。
「まさか…俺…」
心のざわめきが抑えきれない。
路地裏で殺人を見た時と同じような興奮を覚えている。
何かが崩れ始めるような音が自分の中で響き始めた。
これはまずい気がしてすぐに小野に連絡を取る。
小野と会えば心が落ち着くと思ったからだ。
一旦はこの心の興奮を抑えなくてはならなかった。
連絡をして返信は直ぐにきた。
また渋谷で待ち合わせをすることになる。
白石は渋谷に着くまで人の顔をできるだけ見ないように気をつけた。
なぜなのかは本人も理解していない。
だが、本能的に今の状況で見てはいけないと感じたのだ。
待ち合わせ場所に着いた時も、人の足が無数にその場を通り過ぎていくのを淡々と見ているだけだった。
目をつぶってしまった方がいいのかと思うほどだ。
「先輩!お待たせしました!」
小野の声を聞いてようやく白石は顔をあげる。
いつもと同じように小柄な姿で小走りで駆け寄ってくる小野の姿は可愛く思えた。
学校で飼っている動物が自分の元へ駆け寄ってくる時と似たような可愛さを感じる。
「じゃあ、行こうか。」
「先輩ってお酒、飲みます?」
「まぁ、ある程度は。」
「じゃあ、今日は居酒屋に行きませんか?」
小野の提案で居酒屋に行くことになった。
ある程度とは言ったものの、最近はそんなに飲んでいなかったなと白石は思う。
1番簡単な方法があったのを忘れていたのだ。
酒を飲めば、一時的に苦痛からは開放される。
ただ悩みを忘れるだけなのだが…
居酒屋の席につき、小野との話を弾ませる。
「今日はどうしたんですか?
私は先輩とお酒が飲めるの嬉しいんですけど。」
「最近ちょっと悩んでてさ…」
注文していたハイボールを片手に会話をスタートさせる。
「小説のことですか?」
「そう、だけど、よく分かったね。」
「最近の先輩の小説、なんだか迷走してるような気がして。
内容的には理解するのが難しいだけで言ってることは分かるんですよ。」
「兎にも角にも、今は理由が欲しくて。
小説の中で人を殺す自分は何のために人を殺してるのかなって。」
「何のためって、小説を書くためなんじゃないんですか?」
小野の言う通りだった。
何も無ければ、こんな悩み、彼女の一言で終わらせられていたであろう。
しかし、そうもいかない。
何度も自分に問いただしてみた。
しかし、「小説を書くため」「小説を書いているから」という理由は自分の中でしっくりこなかったのだ。
それも、あの大川という男から「殺す理由」を聞かれた時からだった。
そもそもなんで小説で人を殺すのだろうか?
そんなに深堀しなくてもいいじゃないかと思うが、深く深く深淵に入り込んだら最後、戻って来れなくなってしまっていたのだ。
「なんだかしっくりこなくて。」
「私はそうですね。
自分のために小説を書いてます。
今はいい成績とか取れるようにですけど。
その中で読んでくれる人のために書いてるって気持ちもたくさんあるんですよね。
先輩もそうなんじゃないですかね?」
何かが動き出したような音が白石の中で響く。
歯車と歯車が重なり動き出したかのような。
だが、まだ全てではない。
小野の言葉がヒントのようになっているかのようだった。
それだけで、今日2人で話せたのは収穫だと感じることができる。
飲み終わったあとは小野から「まだ帰りたくない」という見え見えの誘いに乗り、ラブホテルに直行。
歯車が回っていなければ、その行為も気持ちいいと感じることはできなかっただろうと、白石はホッとしていた。
なぜなら、その日の行為の満足度は高かったからだ。




