表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が人を殺す理由  作者: アズキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

第13話「見たい」

虚無を感じることは、白石にとってはそんなに珍しい事ではない。

休みの日は特にだ。

天井を見つめ、何時間も睨めっこをしている時がある。

そして、アイディアが時たま降ってくるのだ。


日曜日の夕方、白石はそんな風にして時間を潰していた。

昨日、大川に言われたことが気にかかっている。


「何のために人を殺すのか?」


人を殺す理由…

自分だったら、どうだろう。

恨みがあるやつをぶち殺すため?

学校で自分にだけ嫌な顔をする割り切らないゴミに対して怒りを抱いたため?

快楽を得るため?


その理由は無限大のようだが、最後は絶対に無いなと白石は思った。

快楽で人を殺せるほどの人間ではないはずだと自身を評価していたからだ。

いざ、その場面になってしまえば、手が震えて殺す手前で辞めてしまうような気がする。

本当に変わるような出来事がない限り…。


布団から起き上がり、時計を見る。

もうそろそろ19時を迎えそうだ。

特にやることもなく、家事を終わらせて、自分のことをやって眠りにつく。

いつもならそうする。


モヤモヤした脳ではそれをしようという気にすらなれなかった。

気がつくと、服をきがえ、髪をとかし、靴を履き、外へ歩き出していたのだ。


自分は一体どこへ向かっているのだろう。

ただ、気の向くままに歩いてみることにした。

行先は明白だった。渋谷駅。

別に何かある訳でもなく、電車に乗る。


電車の中はある程度の人がいて、座ることはできなかった。

それよりも先に目に入ったのは優先席に座る若者2人。

いかにもチャラそうという見た目の2人は優先席を独占していた。

3人が座れる席を足を伸ばし、2人で座っているのだ。


そいつらの目の前には妊婦の姿がある。

譲るべきだ。

誰もがそう思っているはず。

チャラ男たちは声もデカく、周りの目を引く。

電車に乗っているほぼ全員がその状況を横目でチラチラと伺っているのが分かる。

でも、誰も動かない。


まるで注意することが犯罪かのようだ。

いい行いと分かっていても怖くてすることができない。

悪い行いと分かっていてやろうとするが、怖くてできない、白石が思っていたことと内容は逆だが似ている気がする。


やはり、どこかのネジが外れないと犯罪なんてできる訳じゃない。


いつもなら周りと同じように横目で見るだけ。

何もしない、何も出来ないと自分に言い聞かせる。

みんなそう思っているし、何より目立ちたくないというのが本心だ。

恥ずかしいという感情が善の行動を抑制する。


けれども今日は胸の中がザワついて仕方なかった。

その状況にイライラしているのか?

自分は今、何を求めている?


訳も分からないまま、動かなければこのモヤモヤを寝る時まで引きずり、出かける前よりも悲惨な心境になり得ないと感じた。


「この方に、席を譲ってあげたらどうですか?」


「はぁ?なんでだよ?」


「そこ、優先席ですよ。」


その男たちは後ろを振り向かない。

優先席だということを理解しようとしない。


2人を相手に怯むことなく、声をかけた。

自分でも驚いていたのだ。

心に一切の迷いや恐怖がなかった。

それどころか…


「あぁ?最初に座ってたの俺たちだろ?

それに、今日は歩きっぱなしで疲れてんだよ。」


「にしては元気にお喋りしてますね。

疲れてるんなら大人しく寝ていれば良かったんじゃないですか?」


2人のうち1人が立ち上がり、すごんできた。

白石のことをビビらせようとしたらしい。

が、少しビビったのは向こうだった。

チャラ男は白石の目を見て、ビビっていたのだ。


普通なら何をされてもおかしくない場面で、怖くて目を瞑りたくなるだろう。

だが、白石は何も感じずに、鬼のような目で彼らを睨む。

それに怯んだのだ。


少し後ろに仰け反り、2人がかりで白石を止めようとしてきた。


それをとあるサラリーマンの人が止める。

どうやら、白石が動いたのを見て、自分も動こうとなったようだ。

反撃をしようとするチャラ男たちだったが、周りがスマホを構えていることに気がつく。

行き場の無くなったチャラ男は渋々、別の車両に移っていった。


「どうぞ。」


妊婦さんに席を譲り「ありがとうございます。」と感謝された。

嬉しかった…でも、それだけだ。

いいことをすれば、感謝される。そんなことは知っている。


「いやぁ、ガッツがあるね。

君みたいな若者が増えるといいね。

あとからしか動けなかった自分が言うのもなんだけど…」


「いえ、助けに入ってくれてありがとうございました。」


嬉しい言葉をかけてくれる。

でも、やはりそれだけなのだ。

分かっているのとでは嬉しいの向こう側へと行くことはない。


白石はあの2人をできるなら殺してやりたいと思っていた。

もし、殺して妊婦の方に席を譲っていたとすれば、感謝されただろうか?


白石はいつからか「殺す」ということに対して執着を抱き始めている。

やってはいけないと分かっていることをやってしまった時に、周りから感謝されたら、どんな気持ちになれるのだろう?


そんなことが起きるのは小説や映画の中だけかなと、考えるのを放棄した。

小説を書いていて、変な考えが自分に憑依してしまったかのようだ。

考えていたことを思い返すと、何を自分は言っているのかと突っ込みたくなる。

でも、全てに突っ込めるかと言われると、そうでもない。


あの答えが欲しくて、そして、自分が変わりかけていることを感じ始めているのだ。


前までイラついても心の中で殺してやると、冗談で言っていた。

でも、今は本当に…

そんなわけと笑いで誤魔化す。


学校の最寄り駅に到着し、意味もなく、そこから渋谷駅に引き返す。

いつものルーティンをすれば、また出会えるかもしれないと思ったのだ。


気づけば渋谷駅。

降りて、夜の渋谷の街をブラブラと歩く。

警察が多いだけで、普段の町となんら変わりはない。

最近また、事件があったようだ。

アパートで人が襲われてしまったらしい。


道端にはパチンコで負けた人間が絶望していたり、ホームレスがダンボールの上に寝ていたりする。

こいつらなら殺しても誰も文句は言わないのではないかと思ってしまう。


人殺しが行われた路地裏へと白石は行っていた。

もちろんそこには何もいない。

でも、その場所に頭の中の映像が投影されるかのように殺しの場面が見える。


見たい…

もう一度、殺しを見たい…


今日得られたものといえば、1人が動けば周りも動こうとする、ということ。

たった1人が勇気を出すだけで、周りはそれについてくる。

ただそれは善の行いであることが条件。

悪の行いなら、ついてくるかは分からない。


それと、分かっていて狙っていた訳でもない感謝を貰っても「嬉しい」だけで感情が終わってしまうこと。


何を言っているのか分からないと思うが、本当に自分の求めていたものと違うものを得た時、ガッカリするんだということを学んで家に帰るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ