第12話「無作為」
月明かりの下を歩き、暗がりで人を星にする彼は人を殺す意味について考えていた。
自分自身がなぜ仮面を被り、警察から逃げてまで人を殺すのか。
そもそも、なんでこんな悩みに出会ったのだろう?
それは人を殺したあとに来る虚無が彼を襲っていたためである。
前回の殺人はとても楽しいものだと感じていた。
いつもとは違う殺し方。
1回も聞いた事のないような殺し方。
それだけで満足していたはず…
自分は快楽のために人を殺す殺人鬼…のはずなのに、なぜこんなにも悩ましいのか。
自慰行為をした後の賢者タイムと呼ばれる時間のようだった。
殺した時、快楽に溺れ、この世の全てを悟ったかのような感覚に陥る。
その後にやってくるのは虚無だ。
虚無がやつまで来る理由をこう考えていた。
彼は今、理由が欲しい、と。
この世の全てには理由があり、それを知ることで新たなものに目覚めることが可能になる。
「理由などない。」と言うが、それすら理由になっていることに人々は気が付かない。
「殺す理由なんかあるかよ、ただ《《やりたい》》からやってる。」
なんて言葉を聞いた事があるかもしれないが、立派に理由を語っているではないか。
理由がないと言われるのはその行動に理由を人がつけたがらないだけ。
人を労るのにも理由があるし、動物に対して行う作業1つ1つにも理由がある。
ならば…殺しにも理由があるはず。
「快楽のため」という理由は彼にとってしっくりくるものではなかった。
途方にくれ、月の下を歩く。
人通りの少ない道で、目の前から歩いてくる学生たちが目に入る。
いつもなら品定めをする彼だったが、今回は自身の中にある悩みが殺意という形で浮き上がってしまったらしい。
仮面を被り、影に隠れる。
そして、学生3人を襲った。
初めて月の光に照らされた道の真ん中で人を殺した。
1人を刺し、動揺しているうちに他2人も刺す。
刺したところからは血が溢れ、服、地面を赤く染める。
悲鳴が響き渡り、すぐに周りの人間たちが騒動に気がつく。
警察を呼ばれる前に、ありったけ刺した。
指す度に血が吹き出し、体につかないようにするため必死に避ける。
さすがに全ては無理だが、できる限りの事をする。
刺す度に獲物からは苦しいを体現したかのような声が溢れた。
快楽の感覚は無いわけではないが、前に比べれば少ししか感じなく、やはり虚無が彼を襲う。
理由が分からないためであろう。
新しいことを試してみたが、やはり変わらない。
初めてのことなのに、何故か興奮ができない。
胸の高鳴り、自分を肯定できる気持ちが湧いてこない。
潮時を感じ、その場を離れ、走り出す。
もういいだろうと思って走るのをやめた時、路地裏に来ていた。
だが、運悪くそこには1人の刑事がいたのだ。
彼は仮面を外していなかったため、殺人犯であるとバレてしまう。
「おい!ちょっと待て!」
その場から走って逃走する彼を刑事は追いかけてくる。
人が多いところに出ては困る。
そこには前以上に多くの警官がいたからだ。
彼ら狭くて暗い建物と建物の間を行き来した。
刑事もそれを必死に追ってくる。
刑事が見落としていたのは、追っている相手がただ逃げるだけだと決めつけていたこと。
暗がりから待ち伏せをされた刑事は曲がり角で腹部を強く刺されその場に倒れ込んでしまった。
先を急いでいた彼は刑事にトドメを刺そうとはしない。
彼は刑事に背を向け、再び走り出す。
刑事は最後の力を振り絞り、拳銃を取りだし、撃った。
銃弾は彼の左腕に命中。
痛みで声をあげる彼だったが、すぐにその場を立ち去った。
刑事はそこで意識を失い、数分後に近くを通った人に通報され、警察に保護される形となる。
刺されたのは早乙女だった。
自分のうちへと戻った彼。
バレない位置で仮面を外し、腕にはハンカチを巻くことで血を流すのを極力抑えた。
腕に違和感があると困るので、痛みに耐えながら自宅に帰ったのである。
応急処置を済ませ、冷静になった時、彼の頭の中に湧き上がってきた感情は怒りだった。
自分をもうすぐで殺すところだったあの刑事に対しての怒り。
一時的な理由ができた。
殺す理由が。
理由ができたことが何よりも嬉しかった。
自分はそのために動けばいい。
それを達成してしまったあとのことなど考えようとも思わずにいた。
あの刑事を殺すことができた時、今までに感じたこともないぐらいの快楽を得られると信じていたのだ。
それが一時的なものだということを彼は知らない。




