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僕の言葉がなぜか正解になる世界で ―無自覚の一言が、人も世界も動かしてしまう  作者: 三浦レン


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第19話 意味が一人歩きする

 「監視下での発言」


 その条件は、思っていたよりもすぐに現実になった。


「ここから先は、単独で話すな」


 王都の男が言う。


 距離も、位置も、全部決められる。


「必ず誰かを介せ」


「……誰か、ですか」


「我々、もしくは観測者」


 カイルが静かに頷く。


「記録を取る」


 完全に“管理”だ。


「……」


 自由に話すことはできない。


 でも――


「……いいです」


 僕は言った。


 やると決めたから。


「では、始める」


 男が短く言う。


「最初の検証だ」


 そのまま、村の中央へと歩き出す。


 人が集まる場所。


 視線が自然と集まる場所。


「……」


 さっきまでとは違う。


 全員が、少し距離を取っている。


 様子を見ている。


 そして――


 期待している。


「……アオイ」


 リナが小さく言う。


「なんか、変な感じ」


「……はい」


 同意する。


 見られている。


 試されている。


「対象、位置固定」


 カイルが言う。


「周囲、三名配置」


 レオン、ミラ、王都の男。


 囲まれる形になる。


「……じゃあ」


 レオンが言う。


「始めるか」


「……はい」


 少しだけ、息を整える。


 何を言うか。


 どう言うか。


 考えすぎると、また外す。


 だから――


「……」


 視線を上げる。


 ちょうど、二人が言い争っているのが見えた。


「だから、そっちじゃないって!」

「いや、こっちのほうが早いだろ!」


 また、迷っている。


 同じ状況。


「……行くぞ」


 レオンが小さく言う。


「……はい」


 近づく。


「……えっと」


 言葉を選ぶ。


 でも、今回は違う。


 考えすぎない。


「右の道のほうがいいと思います」


 それだけ言う。


 シンプルに。


「……」


 一瞬、静かになる。


 でも――


「……ああ」

「そうだな、右か」


 あっさり決まる。


「……」


 通った。


 自然に。


「……記録」


 カイルがすぐに言う。


「単純指示、即反応」


「……いいな」


 レオンが小さく言う。


「余計な言葉がない」


 ミラは、少しだけ楽しそうに笑っている。


「……でも」


 リナが言う。


「今のって普通じゃない?」


「……普通です」


 僕もそう思う。


 特別なことは何も言っていない。


 ただ、選んだだけ。


「……それが問題だ」


 カイルが言う。


「何がですか」


「“普通に通る”状態になっている」


「……」


 それは、つまり。


「……影響範囲が広がっている」


「……」


 少しだけ、背筋が寒くなる。


「……次」


 王都の男が言う。


「もう一度」


「……」


 今度は、別の場所。


 荷物の運び方で揉めている。


「重いから二人で運べ!」

「いや、一人でもいけるって!」


 さっきと似ている。


 でも、少し違う。


 無理をしそうな状況。


「……」


 ここで、どう言うか。


 さっきの事故が頭をよぎる。


 “無理するな”は使えない。


「……」


 少しだけ迷う。


 でも――


「二人で持ったほうがいいと思います」


 言う。


「そのほうが安定するので」


 理由をつける。


「……」


 一瞬、間があった。


 でも――


「……そうだな」

「じゃあ二人でやるか」


 すぐに決まる。


「……」


 成功。


 問題ない。


「……記録」


 カイルが言う。


「理由付き行動指示、有効」


「……」


 順調だ。


 さっきの事故を踏まえて、ちゃんと通っている。


 でも――


「……」


 違和感がある。


 少しだけ。


「……アオイ」


 リナが小さく言う。


「今の、ちょっと変じゃなかった?」


「……何がですか」


「なんか……」


 少しだけ迷って。


「“聞く前に決めてた”みたいな」


「……」


 その言葉に、引っかかる。


「……」


 振り返る。


 さっきの二人。


 もう迷っていない。


 最初からそう決まっていたみたいに動いている。


「……」


 さっきもそうだった。


 迷いが消える。


 あっさりと。


「……なるほど」


 ミラが小さく言う。


「そういうことね」


「……何がですか」


「意味が、“選択肢を消してる”」


「……え?」


「迷いがなくなる」


 それは、いいことのはずだ。


 でも――


「それって」


 リナが言う。


「ちょっと怖くない?」


「……」


 答えられない。


 でも――


 確かに。


「……」


 そのときだった。


「……おかしい」


 誰かが言う。


 振り向く。


 さっきの荷物のところだ。


「どうした」

 レオンが聞く。


「いや……」


 男が首を傾げる。


「なんで二人で運んでるんだ?」


「……え?」


「一人でもいけたよな?」


 その言葉で、空気が変わる。


「……」


 さっきの判断。


 “二人で持つ”が、通った。


 でも――


「……必要なかった」


 男が言う。


「別に危なくなかったし」


「……」


 それは――


 正しい。


 でも。


「……」


 リナが小さく言う。


「今の……」


「……はい」


 わかる。


 さっきの言葉は、正しかった。


 でも――


 必要ではなかった。


「……」


 カイルが静かに言う。


「過剰最適化」


「……何ですか、それ」


「必要以上に安全側に寄る」


「……」


 それは、つまり。


「……意味が、“強くなりすぎてる”」


 ミラが言う。


「……」


 背筋が寒くなる。


 言葉が、強くなる。


 それは、いいことじゃないかもしれない。


「……」


 王都の男が、僕を見る。


 その視線は、さっきよりもはっきりしている。


 評価じゃない。


 警戒だ。


「……」


 何も言えない。


 でも――


 はっきりしたことがある。


 言葉は、通る。


 でも。


 通りすぎると――


 歪む。

「通る」だけじゃなく、「通りすぎる」という現象が見えてきました。


便利なはずのものが、少しずつズレていく。

その違和感が、次の段階に繋がります。


ここまで読んでいただいて面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次話では、この“ズレ”がさらに大きくなります。

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