第18話 それは誰の責任か
その責任は、誰が持つのか。
その問いは、帰り道の間ずっと消えなかった。
「……」
誰も口を開かない。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
さっきまでのやり取りが、頭の中で何度も繰り返される。
――もし違う言い方をしていたら。
あの問いに、ちゃんと答えられなかった。
答えがなかったからじゃない。
簡単に答えていい気がしなかったからだ。
「……アオイ」
リナが小さく声をかけてくる。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃないです」
正直に答える。
「だよね……」
リナも、少しだけ顔を曇らせる。
「……なんかさ」
少し間を置いて、続ける。
「これ、誰のせいなんだろうね」
その問いが、そのまま刺さる。
「……」
僕は答えない。
答えられない。
「言った人?」
リナが指を折る。
「それとも……聞いた人?」
さらに続ける。
「それとも……」
少しだけ迷って。
「アオイ?」
「……」
言葉が出ない。
否定したい。
でも――
完全には否定できない。
「……違います」
やっと出た言葉は、それだった。
「……でも」
続ける。
「関係ないとも言えないです」
曖昧な答え。
でも、それが一番近い。
「……」
リナは、少しだけ何か言いかけて、やめた。
「……戻ったか」
村に着くと、すぐに声がかかる。
王都の男だ。
動かない。
ずっとそこにいたらしい。
「状況は確認した」
レオンが短く答える。
「そうか」
それだけで、通じる。
「……報告は」
「後でまとめる」
カイルが言う。
「現場優先だ」
「……」
男は少しだけ頷いた。
そして――
「結果は」
その一言で、空気が変わる。
「……」
レオンが、一歩前に出る。
「一件、事故が発生した」
簡潔に言う。
「原因は」
「言葉の解釈のズレ」
迷いなく答える。
「……」
男は、僕を見る。
その視線は、さっきよりも明確だった。
“対象”としての視線。
「君の影響か」
「……」
すぐには答えられない。
でも――
「……はい」
小さく答える。
完全ではない。
でも、無関係じゃない。
「……そうか」
それだけ言う。
責めるわけでも、評価するわけでもない。
ただ、事実として受け取る。
「……」
その反応が、逆に重かった。
「……では」
男が続ける。
「次の段階に進む」
「……次?」
リナが聞く。
「管理の段階だ」
短く言う。
「この現象は、すでに危険域に入っている」
「……危険域」
カイルが小さく復唱する。
「具体的には」
「意図と結果の乖離が確認された」
さっきの話だ。
「つまり」
少しだけ間を置く。
「制御不能の可能性がある」
「……」
誰もすぐには反応できない。
「だから」
男は、はっきりと言う。
「この現象は管理される」
「……管理って」
リナが少しだけ強く言う。
「どうするつもりなんですか」
「制限する」
即答だった。
「発言を」
「……え?」
「対象の発言を制限する」
その意味は――
「……アオイに、喋るなってことですか」
「そうなる」
あっさりと肯定される。
「……」
一瞬、理解が追いつかない。
「……待て」
レオンが口を開く。
「それは過剰だ」
「過剰ではない」
男は即答する。
「すでに被害が出ている」
「一件だ」
「一件でも十分だ」
冷たい論理。
でも、間違ってはいない。
「……」
レオンが、少しだけ眉を寄せる。
「……アオイ」
カイルが静かに言う。
「どうする」
またそれだ。
でも、今度は――
選ばないといけない。
「……」
考える。
喋らない。
それは、簡単だ。
何も起きない。
何も壊れない。
でも――
「……それだと」
ゆっくり言う。
「もう、何もわからなくなります」
「……」
「外で何が起きてるのかも」
「どうすればいいのかも」
「全部、わからないままになります」
それは――
嫌だった。
「……」
男は、何も言わない。
ただ、見ている。
「……だから」
少しだけ、息を吸う。
「喋ります」
はっきり言う。
「制限されても」
「……」
「それでも、見ないといけないので」
それが、今の結論だった。
「……」
少しだけ、沈黙。
そして――
「……なるほど」
男が言う。
ほんのわずかに。
評価が変わる。
「では」
次の言葉。
「条件付きで許可する」
「……条件?」
「監視下での発言」
それなら、まだマシだ。
「逸脱があれば、即時停止する」
「……」
完全な自由じゃない。
でも――
ゼロじゃない。
「……いい」
レオンが言う。
「それでいい」
「……」
カイルも、小さく頷いた。
ミラは、少しだけ楽しそうに笑っている。
「面白くなってきたわね」
「……」
全然面白くない。
でも――
止まらない。
もう、止められない。
言葉も。
そして――
この流れも。
「喋るな」という選択肢が出てきました。
でも、それを選べば何もわからない。
選ばなければ、また何かが起きるかもしれない。
ここから“管理と自由”の対立が始まります。
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次話では、この制限の中で何が起きるのかが動きます。




