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僕の言葉がなぜか正解になる世界で ―無自覚の一言が、人も世界も動かしてしまう  作者: 三浦レン


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第17話 正しく使ったはずなのに

 間に合わなかった。


 その一言だけが、頭の中に残っていた。


「……」


 誰も、すぐには動けなかった。


 さっきまでの検証の空気は、もうどこにもない。


 残っているのは――


 結果だけだ。


「……行くぞ」


 レオンが言う。


 短く。


 それだけで、全員が動き出す。


「場所はわかるな」

「……ああ」


 さっきの男が、重い足取りで先に立つ。


 僕も、その後ろをついていく。


「……アオイ」


 リナが小さく声をかけてくる。


「無理しなくていいからね」


「……はい」


 でも、止まる気はなかった。


 見ないといけない。


 さっきの結果を。


 森を抜け、崖の上へと続く道に出る。


 足元が少しずつ不安定になる。


「ここだ……」


 男が立ち止まる。


 その先に――


「……」


 人が倒れていた。


 動かない。


 周囲には、誰もいない。


 ただ、静かに横たわっている。


「……」


 誰も、すぐには近づかなかった。


 さっきの話を、全員が理解している。


「……確認する」


 カイルが一歩前に出る。


 しゃがみ込み、状態を確かめる。


 しばらくして――


「……遅い」


 小さく呟いた。


 それだけで、十分だった。


「……」


 空気が、完全に止まる。


 何も言えない。


 何も言う資格がない気がした。


「……」


 レオンがゆっくりと周囲を見る。


 足場、位置、距離。


 全部を一度に確認している。


「……落ちたのは、ここか」


 崖の縁を見る。


 足跡が残っている。


「……」


 男が、何も言わずにうなずく。


「……状況は単純だ」


 レオンが言う。


「不安定な足場で作業」


「止める言葉が入る」


「だが、止まらない」


 短く整理する。


「……なぜ止まらなかった」


 その問いは、誰に向けたものでもない。


 でも――


 答えは、わかっている。


「……言葉が、そうさせたんです」


 気づけば、口にしていた。


 全員の視線がこちらに向く。


「“無理するな”が」


 続ける。


「“今は問題ない”って解釈された」


 だから、止まらなかった。


「……」


 レオンが、少しだけ目を細める。


「つまり」

「止めるつもりの言葉が、止めなかった」


 それが、結果だ。


「……」


 カイルが静かに言う。


「意図と結果の乖離」


 冷静な言葉。


 でも、その中身は重い。


「……」


 ミラが、少しだけ首を傾げる。


「でも、それだけかしら」


「……え?」


「その言葉を選んだのは誰?」


 軽く言う。


 でも、その問いは深い。


「……」


 男が顔を上げる。


「俺だ……」


 小さく言う。


「危ないと思って……」


「ええ」


 ミラは頷く。


「正しい判断ね」


「……」


「でも」


 少しだけ笑う。


「結果は違った」


「……」


 男は、何も言えない。


「……」


 僕も、同じだった。


 正しいつもりで言った言葉が、間違った結果を生む。


 それは――


「……怖いな」


 リナが、小さく言う。


 その一言が、全部を表していた。


「……」


 レオンが、ゆっくりと立ち上がる。


「結論は出ている」


「何が」


 リナが聞く。


「言葉は、正しくても足りない」


 短く言う。


「……足りない?」


「状況に合わせないと、意味がズレる」


 それは、さっきの検証とも繋がる。


「……」


 僕は、崖の縁を見る。


 あと一歩。


 ほんの少しの差。


 でも、その差が――


「……」


 胸の奥が、少しだけ痛む。


「……アオイ」


 レオンが呼ぶ。


 振り向く。


「お前は、どうする」


「……」


 答えは、簡単じゃない。


 でも――


「……同じことは、したくないです」


 それだけは、はっきりしていた。


「……そうか」


 レオンは、それ以上何も言わなかった。


「……戻るぞ」


 短く言う。


 全員が、静かに動き出す。


 来たときよりも、足取りが重い。


 でも――


 止まらない。


 そのときだった。


「……なあ」


 後ろから、声がした。


 さっきの男だ。


「……もしさ」


 顔を上げる。


「違う言い方をしてたら」


 少しだけ、震えている。


「助かってたのか?」


 その問いは、重かった。


 答えられない。


 誰も、すぐには答えられない。


「……」


 でも――


「……たぶん」


 僕は言った。


 自然に、言葉が出た。


「可能性は、あったと思います」


 それが、精一杯だった。


「……」


 男は、ゆっくりとうなずく。


 それ以上は、何も言わなかった。


 ただ――


 少しだけ、肩が落ちた。


「……」


 戻る道の途中。


 誰も話さない。


 でも――


 全員が、同じことを考えている気がした。


 言葉は、使える。


 でも――


 間違えれば、壊す。


 そして――


 その責任は、誰が持つのか。


 まだ、誰も答えを持っていない。

「正しい言葉でも、結果は正しくならない」


その現実が、はっきり見えてきました。


ここからは、“責任”の話に入っていきます。

もし続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次話では、この出来事に対する“反応”が動きます。

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