表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

7話 新機能



マリーが出かけたあと、部屋には静けさが戻っていた。窓から射し込む陽光が白い床を照らし、風がカーテンを揺らす。その足元で、小さな影がぴょんと跳ねた。


「……また動いてるのか、お前」


 悠真が呟くと、青白いスライムは“ぷるん”と体を震わせて応える。

 丸い身体が床に落ちた埃を吸い込み、すぐに透明度を取り戻す。

 掃除している――それはもう、確信に近かった。


「……はは、偉いな。ちゃんと働いてくれてんのか」


悠真は苦笑しながら、机の上の本を整える。

その瞬間、スライムが突然跳ね上がり、机の脚にぶつかった。


「うおっ……。大丈、夫か───」


抱き起そうとした姿勢のまま続きの言葉を紡がず、その場で固まる。要因は目の前の光景にあった。

 机の上に置かれていた古びた金属のペンダントが床に落ち、かすかな“じゅっ”という音が空虚な部屋に響く。

 見ると、スライムがその金属に覆いかぶさり、細かく震えている。

 泡のような粒子が表面から立ちのぼり、次第に金属の黒ずみが消えていった。


「……錆を取ってる?」


 悠真が近づくと、スライムは一瞬だけ透け、その内部に微細な赤い粒が流れ込んでいるのが見えた。

腐食を“食べている”。


「掃除って、そういう意味だったのかよ……」


 感心している間にも、スライムは机の隅、壁のヒビ、床の焦げ跡など、あちこちを舐めるように這い回る。汚れが消えるだけでなく、壁のくすみや金属の光沢までもが甦っていく。


 そして数分後――。

 スライムが一度だけ大きく膨らみ、“ぷしゅん”と音を立てて縮んだ。

 その体表には淡く緑が混ざっていた。


「色が……変わった?」


 悠真は眉をひそめる。

 スライムは一瞬だけ床に伏せ、次の瞬間、“風”のようなものを吐き出した。


 空気が揺らぎ、部屋の中に漂っていた重たい匂い――古びたカーペットと湿気の混じったような臭気が、すっと消えていく。

 代わりに、微かに甘い、草のような香りが広がった。


「おい……お前、空気まで掃除してんのか?」


 スライムは小さく跳ねて“ぴちょん”と鳴く。

 それはまるで、「そうだ」と言わんばかりだった。


 悠真は腕を組み、しばらく考え込む。

 汚れだけじゃない。腐食、臭気、空気。

 すべてを“浄化”している――まるで、この部屋そのものを「清める」ように。


「……もしかして、これって」


 頭の片隅に、赤の部屋の残留物――あの不穏な気配を思い出す。このスライムも能力ならその“名残”すら食ってしまえるのかもしれない。


 そう思った瞬間、胸の奥で小さく冷たい感覚が走った。

 便利だ。

 けれど、あまりに“都合が良すぎる”。


「……お前、どこまでできるんだ?」


 呟きは静かに消え、スライムはただ陽の光の中でゆらりと揺れた。

 透明な体の奥で、光が淡く明滅している。

 それはまるで、呼吸をしているかのように――生きていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ