表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/47

8話 選択



 床の上で光るスライムを眺めながら、ユーマは小さく息を吐いた。

 ほんの少し前まで、ただの異物でしかなかったはずのそれが、今では“師匠”のように見えてくる。


「……なるほどな。動きの順序も、力の加減も……なんとなく法則がある」


 スライムは床を這いながら、同じ動きを何度も繰り返していた。右へ、左へ。小刻みに震え、吸い、戻る。


 ふと、ユーマは雑巾を取り上げる。

試しにスライムの動きを真似るように、布を軽く滑らせた。その瞬間───。指先から“何か”が流れ出した。


 ぞくり、と背筋を撫でるような感覚。体の奥で、小さな灯が点る。その光が掌を通り、雑巾へと染み渡っていった。


「……は?」


 次の瞬間、床にこびりついていた黒い染みが“溶けるように”消えていく。力を込めたわけではない。ただ拭いただけなのに、汚れは跡形もなく消失したのだ。


「いま、なにを……」


悠真は雑巾を見つめた。さっきまでのくすんだ白が、わずかに光沢を帯びている。まるで、スライムの透明な体を模したかのように。


 再び手を動かす。

 壁の汚れ、床のくすみ、家具の傷。

 ひと拭きするたび、部屋の空気が澄んでいく。


「……へぇ、なるほど。真似すりゃいいのか」


 ユーマの動きが速くなる。雑巾が床を滑る音、息のリズム、手の角度――すべてがスライムの動きと重なっていった。それはまるで演奏を合わせるような作業だった。


 そのうちに、空気が静電気のようにざわめいた。

 部屋の中の埃がふわりと浮かび、淡い光の粒子になって散っていく。

スライムが動きを止め、ユーマの方を見た。言外について来られるか、と煽られるてる気分になった。


苦笑しながらも、手を止められない。まるで“正解”を踏み当てた感覚がある。動かすほどに体が軽くなり、息を吸うほどに視界が澄む。


そのとき。

視界の端に、数字のようなものが浮かんだ。


 > 《清掃率:100%》

 > 《エリア浄化完了》

 > 《経験値 +120》

 > 《レベルアップしました》


「……またか」


 昨日、風呂を掃除したときと同じだ。

部屋の空気がふっと軽くなり、同時に胸の奥に“何か”が流れ込んでくる。暖かいような、微かな痛みを伴うような奇妙な感覚。


 ぼんやり呟く悠真の頭の中に、新しい選択肢が浮かんだ。


 > 【風呂エリア強化】

 > 清潔状態Lv2/未解放スキル:「ヘアケア」「ボディケア」「湯の効果」


 先ほどの浄化で、どうやらまたポイントが入ったらしい。


 悠真は床に腰を下ろし、壁にもたれた。

 まだ息は整っていないが、不思議と心は落ち着いていた。


「さて……どれを強化すりゃいいんだか」


 天井を見上げる。

 スライムは机の上に跳ね乗り、悠真を見下ろしている。その体は、ほんの少しだけ前より透き通っていた。


「そうか。レベルアップのやり方をお前は、俺に教えてくれたんだよな」


 スライムが小さく揺れる。

 まるで「そうだ」と言っているように。


「スラ……。いや、師匠……!」


 悠真は笑い、ゆっくり立ち上がった。

 光に包まれた部屋の中で、彼の手のひらにはまだ、微かに淡い輝きが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ