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41話 ホール






 ユーマが3人の神官を連れて向かったのはルネサンス上階へ向かう螺旋階段の下。天井には豪華なガラス細工の照明が階段を照らしている。


「広間はこの階段先の二階だ。ただ荷物を運ぶには階段が少し狭い。だから外観を壊さない程度にエレベータもどきを設置する予定だ」

「えれ……?」


聞き覚えのない単語にベアトリスはコテン、と首を傾げた。


「……わかりやすく言うと、荷物を運ぶ機械みたいなもんだ」

「そんな。わざわざ申し訳ないわ」


イザベラは慌てて制止したが、ユーマは笑顔で応えた。


「もともと冒険者の武器用の運搬装置は作る予定だったんだ。むしろちょうど良い言い訳になったから気にしなくていい」


ダンジョンの深層に潜る冒険者は武器や防具、食料品や生活必需品などたくさんの荷物を抱えていることが多い。その為客室は一階にはない為、階段で運べないかさばる荷物はフロントで預かっていた。


「一応人も乗れるも大きめのエレベータを作りたいが……。出来るだけここにある階段をメインに置きたいから目立たない様に……」


ユーマは手元のメモに走り書きをしながら次々とアイデアをまとめていった。それを覗き込んだレイはある疑問を口にする。


「なんで階段横に大きな運搬装置を作らない?エントランスはこんなに広いんだから、いくらでも作れる」

「無茶言うな。主要な部屋が上階にある以上、あの階段はこの建物の根幹だ。下手に動かせん」

「……むぅ」


レイは眉を顰め、ユーマから顔を逸らした。


「そもそも大広間は人をもてなすとこ。なぜ入り口からこんなにも遠い。一階に作ればよかった」

「こ、こら!レイ」


ベアトリスは諌めるが、レイは無言で頬を膨らましたまま。青年はメモを一度止め、そんな不貞腐れた姿の彼女を凝視した。


「あ、あのユーマさん。彼女は人より少し無愛想な性格で────」

「するどいな。その通りなんだよ、レイ」

「「え?」」


レイとベアトリスの声が重なる。ユーマは持っていたペンをくるりと回した。


「少し話は逸れるが、大広間の起源について知っているか?」


彼女達は揃って首を横に振った。

ユーマは螺旋階段の支柱を軽く叩く。


「家にプライベートと言う概念が生まれる以前。初期の家の造りとして、高い天井に長方形の大きな部屋一つというのがスタンダードな設計だった」


部屋の中に軽い仕切りは存在したが、基本的にはその一部屋で使用人と家族が24時間生活をすることになる。


「はいはい!広い部屋に何人もは分かりますが、何故高い天井なんですか?」

「良い質問だ、ベアトリス。一番の要因は炉床だと言われている。中心部に置かれたそれが煙を部屋上部の格子戸から排出する仕組みになっていた。だから天井が馬鹿みたいに高かったんだ」


しかし魔法道具という革新的なものが発明され状況は一変する。火の使い勝手が格段に良くなった結果、本来天井部分だった空間に部屋を設けることができる様になった。


「それじゃあもう一つ問題だ。天井の馬鹿高い長方形の一部屋と聞いて何か思い出さないか」


突然の問いにレイとベアトリスはお互いを見て、目にハテナを浮かばせる。しかしイザベラはポカンとした後、小さく吹き出した。


「……ふふ、そういうことね」

「えぇ?わかったんですか、イザベラ姉さん!」

「えぇ、もちろん。良い子達にヒントを出すと、私達はその元大広間にはもう足を踏み入れているわ」

「「ええ!?」」

「さぁ、考えろ。お前達は何処を通ってきた?」


イザベラとユーマは互いに視線を交わし、悪戯な笑みを浮かべる。レイはその嫌味な微笑に男の身を蹴ろうとしたが、彼女の足より早くベアトリスが答えを出した。


「あ!!エントランス(玄関ホール)!?」

「大正解!あの広いエントランスは元大広間だったんだ」


エントランスと銘打っているが、元は大広間だったのを先代が改修したらしい。


普通この時代なら歓待の場や宴の場としてこの部屋を使うだろうが、先代のオーナーはこの有り余るほど贅沢な空間を丸ごとエントランスにした。


本来玄関ホールが誕生するのは18世紀頃だとされている為、彼はかなりの未来と惜しみない費用をかけてこの空間を誕生させたのだ。


「訪れる人に最大の歓待と感動を与える。それがルネサンスにおけるエントランスの役割だ。そして俺はそれを引き継ぎたいと思っている」


だから大々的なエレベータは許可できない。ユーマはそう言い切り、問題の争点となる階段へ足を向けた。


「この階段はその玄関ホールの感動を持続させ、奥に連なる部屋への期待感を高める重要な役割がある。下手に手は入れたくないんだ」


石段を一つ一つ上がりながら、青年は視線を上に向けた。神官達もその後を追う。確かに螺旋を描く階段は視界を少しずつ遮りながら上への期待感を増幅させていた。


ふとイザベラは、階段の横に設けられている灯りへ目を向けた。


「あら、これは普通の灯りじゃないわね」

「ん?……そうなのか」


イザベラの言葉にユーマは振り返り、彼女の指す間接照明を眺めた。ベアトリスとレイも身を乗り出し、灯りを凝視する。


「本当だ!神殿の聖堂にあるのとよく似てますね」

「青い石を中心に光を閉じ込める変なランプ。間違いない」

「驚いたわ、これは月光石よ」

「月光石?」


イザベラは頷く。


「古い教会でよく使われる照明よ。柔らかい光が服の見栄えを良くするし、目も疲れないから聖書を大衆の前で読む聖堂でよく使われるの」


外の建物で使われているのは初めて見たわ、と青い月光色の照明を凝視した。


「値打ちはそこまで高くないけれど、相当なルートが無い限りこの石は手に入らないわ。建設者の中に教会のツテを持ってる方がいたのかしら」


イザベラは興味深そうにそのランプを黙々と眺めた。天井のシャンデリアを邪魔しない簡素な造りのそれは彼女の熱い視線も気にせず青白い光を灯し続ける。


青白い光が足元を照らす中、足音が四重奏を鳴らしていく。その音がピタリと止んだ頃、4人の目の前には両開きの大きな扉が立ち塞がっていた。


ユーマは懐から鍵を取り出すと、鍵穴にそれを通した。重たい音が長い廊下へ響き、神官達はそれを宝物を開ける冒険者の様に眺めた。

扉の取手に手を添え、ユーマは言い放つ。


「お待たせ致しました、お客様方」


次いで扉の隙間から漏れ出る光が徐々に大きくなり、辺りを飲み込んだ。


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