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食えない爺さん


「おらっ!〈スラッシュ〉!」


俺の渾身のスラッシュはミノタウロスに簡単に止められる。だが――


「後ろがガラ空きだぞ?〈スタンプ〉!」


後ろからミノタウロスの脳天に鋼戦鎚を振り下ろす。やっぱ一対一でのこの戦い方は強すぎる。


とはいえ、スタンプをもろに食らったミノタウロスの体力は大して減ってない。流石はB級の魔物か?これでも攻撃力はかなり上がったんだがな。


ミノタウロスは脳天にスタンプを食らいながらも、鍔迫り合いからの俺の剣を弾く。


「グォー!」


大きな戦斧では攻撃が間に合わないと、普通に殴ってきやがった!その一瞬の判断に俺は間に合わない。大きな拳が迫り、そのまま顔に直撃する。


「おーすごい。VIT1000超えてるとはいえ、俺の体力を一割削ってる。戦斧なら二、三割ってとこかな?」


「グオッ!?」


ミノタウロスも渾身の拳だった自覚はあるのだろう。だからこそ、俺がよろめくどころか微動だにしない事に驚いていた。今の俺ならこれぐらいの敵は楽勝か。その後の戦闘は単純な殴り合いだが、俺には【HP自動回復】がある。まぁ負けることはない。


⋯⋯⋯

⋯⋯

⋯


「グ⋯オ⋯⋯」


「こっちは終わったな。あっちは⋯⋯あっちも終わっているな」


流石はミカさん&シルクちゃんだな。眷属も頼もしくて、一切近付けさせ無かったのか、メティスや御者、宰相の顔が完全に安心しきっている。


俺は馬車に戻ると


「ルヴァンシュさん、お疲れ様です!」


「ミカさんもお疲れ様」


「助けていただきありがとうございます」


「うむ、私からも礼を言おう」


「そんなの当然なのよ!」


と何故かメティスが胸を張っている。


「メティス殿は戦わないのかね?」


「私は生産職なのよ。二人のサポートをするのが私の役目なのよ!」


「なるほど。良い仲間達だな」


そう言いながら皆、馬車に乗り込み再び魔王国首都に向けて動き出す。


「それにしてもいきなり襲撃なんてびっくりしましたね!」


「まさか高級馬車で襲撃とは⋯魔王国の魔物は凶暴ってことかな?」


「いやそうではないの。恐らくこの私を狙った襲撃であろう」


「そうなんですか?」


「本来、高級馬車には魔物を寄せ付けない結界を張っている。あ(・)れ(・)ぐ(・)ら(・)い(・)の魔物なら近付かないのだが、近付いて襲ってきた。この原因に心当たりがある」


「心当たりですか?」


「うむ。それはあの魔物達が誰かに操られていた、もしくは洗脳されて、この高級馬車を襲えと命令されていたからであろう」


なるほど。誰かに操られていたり、洗脳されて命令されれば、本来襲ってくる事自体があり得ない魔物でも襲ってくると。


「その犯人とやらに心当たりがあるの?」


「ある」


俺とミカさんは驚いていたけど、メティスは冷静に受け止めている。


「実はな、魔王国領内の街の視察をしていたのだ。こっそりとな。ドライアースで温泉を堪能したのも、そのついでだ」


なるほど。だからドライアースにいたのか。宰相自ら抜き打ちテストってすげぇ怖いな。


「私が視察を行く事を知っているのは魔王様と四天魔王のみ。今回視察を私に頼んだのは魔王様なのだ。だから魔王様が私を狙ったのはあり得ない」


ん?どうしてだ?一応魔王様がわざと視察させるように指示してってのもあると思うのだが。俺はメティスの顔を見る。メティスやれやれといった様子で、ジルベルトの言葉を噛み砕いて説明する。


「ジルベルト様を動かせるのは魔王様だけって事なのよね。つまり魔王様がその気になれば、視察になんか出さなくても、人が来ない場所に一言来いと言えば、それだけでジルベルト様を連れ出せるのよ。逆に四天魔王とかいう連中はジルベルト様より下だから命令は出来ないのよ」


「その通りだ」


なるほどな。魔王様が犯人として、命令出来るのが魔王様だけなら、視察の途中でやるより、もっと良い場所に呼べばいいだけか。なら犯人は四天魔王の誰かになる。


「犯人って四天魔王の誰かなんですよね?目星は付いてるんですか?」


「今回の襲撃の件に関しては、誰がやったかはもう分かっている。問題は、私を狙っているのが恐らく四天魔王全員だということだ」


「そ、そうなんですか!?」


「襲撃は全員が直接手を下した訳ではない。しかし四天魔王全員が現政権に不満を持っているのは共通している」


ミカさんが驚くが俺も同じ気持ちだわ。ジルベルトさんは喋ってみるとまともだし、恨まれる要素なんてあるのか?


「なんで対立しているのよ?」


「それは現代の魔王様が平和主義者だからである」


「それっていい事じゃないのか?」


「そうだ。ただ、数百年前までは戦争ばかりだったのだ。その当時は力こそ正義というのが当たり前だったのだが、今は戦争もしなくなり、平和が続いている。現代の魔王様も力ではなく、知恵を活かして魔王国を運営なさっている。だが四天魔王達は血の気が多くてな、どうも昔の風習にまだ囚われている。今のやり方が気に食わんのだろう」


「つまり現代魔王派と過激四天魔王派が分かれているってことなのね」


これは厄介な問題だな。現代の魔王様と、四天魔王達が対立しているとなると、俺達も簡単には手出しはできない。


「ジルベルト様はこの後どうするのですか?」


ミカさんが心配そうに聞く。


「一度、魔王様の元へ戻るつもりだ」


「首都に戻るってことですよね?大丈夫なんですか?そこには四天魔王達がいるんですよね」


「問題ない。それよりあと少しの馬車旅を楽しもうではないか」


そう言ってニコッと笑うジルベルト。この余裕そうな顔は、四天魔王達が手出しできない秘策でもあるのか?まぁ何にせよ、本人が問題ないと言うのだから安心していいのかな?


「お客様、そろそろヒュンサイトに到着いたします」


「ヒュンサイトってどういう街なのよ」


なんかメティスがジルベルト宰相に結構馴れ馴れしいな。いやメティスらしいっちゃらしいがな。一応様を付けてるし。


「ふむ、ヒュンサイトは魔導具作りが盛んな街でな、色々な珍しい魔導具が多い街であるな」


「それは気になるな」


「魔導具職人を目指す者なら誰もが一度は訪れる街だからこそ、何か変わった魔導具が見つかるやもしれぬ。私も時々、顔を出すようにしているのだ」


この宰相、意外とフットワーク軽いな。


「一度観光してみたいな」


「そうなのよ!目的が一段落したら、ポータルストーンで観光してみるのもいいのよ!」


「そうですね!私もドライアースやヒュンサイトを観光してみたいです!」


そんな話をして盛り上がり、楽しく馬車に揺られるとヒュンサイトに到着する。


もちろんここでもポータルストーンを登録してすぐに馬車に戻る。観光はまた今度だな。


皆が戻るとまた馬車は動き出す。ジルベルトさんと俺達4人の旅はまったり進み、ようやく魔王国の首都が見えてくる。


「ほら、見えてきたぞ。あれが魔王国首都ヌヴェルヘルトだ」


そう言われて俺達は馬車の中からヌヴェルヘルトを見る。


「おぉー!やっぱ首都とあって大きいな!」


高い城壁がどこまでも続いているような、巨大な街である。そして何より目を引くのは、明るい街並みには似つかわしくない、巨大な黒い魔王城である。


魔王様としては街並みに合わないため、もっと明るい色に変えたいらしい。ただ、昔からこの色だったため、変えたくないという住人が多いらしい。魔王城は威厳がある方がいいのだとか。


「ここには魔王国第一図書館もあるのよ!楽しみなのよ!」


「早く観光してみたいですね!」


「ふふ、まぁ待ちなさい。首都ヌヴェルヘルトは逃げはせん」


逸る気持ちを抑えて少しの間、馬車に揺られていると、首都ヌヴェルヘルトの門にたどりつく。


「首都ノルジストより大きいな」


そんな言葉を口にしていると、門番が近付いてきて馬車の中を確認する。そしてジルベルトさんの顔を確認すると慌てた顔になる。やっぱり立場的に上の人なんだな。


高級馬車なので特に手続きなく入国できる。入国するとジルベルトさんが笑顔で


「ようこそ、魔王国首都ヌヴェルヘルトへ。ここは魔王国第一図書館や闘技場など、目玉になる観光場所がある。楽しんでくれ。あぁ、それと聡明なメティス殿にこれを」


何やら紙とハンカチ?らしき物を渡される。紙は僅かだが魔力が込められているな。メティスは紙を開いて内容?を確認する。そしてその意図を理解したのか


「言っておくけど、私の一存だけでは決めきれないのよ?」


「分かっているとも。では私はこれで失礼する。ルヴァンシュ殿、フォルミカ殿、メティス殿、私や馬車を守ってくれて感謝する。また何処かで会えば、その時はよろしくお願いする」


そう言って馬車から降りて去っていく。その後ろを見ながら


「ほんと、食えないおじい様なのよ」


と、笑いながら言っている。今の紙とハンカチについて、聞いてもいいのかどうか悩んでいるとミカさんが


「メティスちゃん、さっきもらった紙?とハンカチはどういう意味なんです?」


ナイスだミカさん!俺も気になっていたんだ!メティスはクスッと笑いながら紙を広げる。そこには――


「ジルベルト・グランツ?」


「⋯名前だけですね」


そう、紙にはジルベルト宰相のフルネームが書かれているだけだった。


「ど、どういう意味なんでしょうか?」


「さ、さあ⋯?」


「これはNPCと念話する時のやり方なのよ」


ここで【念話】の詳しい使い方を説明される。プレイヤー同士は基本的に使わないが、プレイヤーとNPC、またはNPC同士で念話を繋ぐには独自の手順があるのだとか。


念話を覚えて、相手の名前を知ったからといって念話出来るわけじゃない。


念話は相手の魔力と自分の魔力を合わせる事で、魔力の繋がりを作るのだとか。


だからジルベルトさんからもらった紙には魔力が宿っていた。そこへ魔力を流す事で、メティスとジルベルトさんの魔力の繋がりを作る。


もちろん紙ではなくて、直接握手する事でも問題ない。ただジルベルトさんは魔王国でも立場的に高い人だ。誰が見てるか分からないからこそ、こういう紙でのやり方だ。


プレイヤーから見ると、フレンドリストの下に、念話出来るNPC一覧が追加される。そこからタップすると簡単にNPCと繋がる事が出来る。


メティスはNPCとよく交流していたから、こういう事も知っていたんだろうな。ちなみに【念話】は相手のフルネームを知らないと念話できない。


「じゃあハンカチは?」


「これは何かあればジルベルト宰相が後ろ盾になるってことなのよ」


「凄いですね!そんな方が後ろ盾になってくれるなんて!」


「何言ってるのよ⋯。魔力が宿った名前付きの紙を渡してきたって事は、いつでも念話出来るようにして、何か面倒事があったら助けてくれってすぐ言うためなのよ」


あー⋯だから私の一存では決められないのよ、か。


「でも私達ばっかジルベルト様を助けてたら不公平じゃない?だからハンカチを押し付けてきたのよ。どうせ私だけに渡してきたのも、私なら君達の説得に必ず成功するからと思っているのよ」


確かにメティスに説得されたら、俺やミカさんは納得させられる未来しか見えないわ。


その代わり、何かあった時にはジルベルト宰相が後ろ盾になる、と。いやほんと――


「食えない爺さんだな」


「全くなのよ」


「アハハ⋯」



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