22章 不知火 蓮
「あーもう、個々では強いのに、勘弁してくださいよ。」
蓮は呆れた表情で傷だらけの体を無理やり起こした。
「僕じゃ勝てないのなんて最初から解っています。情報ぐらいは聞き出したかったんですけど、その程度で勝てるほど菊様は半端に育っていたわけじゃない。この一撃で決めさせてもらいますね。鬼灯にあんな表情させてんじゃねぇ。はぁ、、、行きます。」
蓮は自分の体を、空を取り囲むように霊圧の矢を凝縮し始めた。
霊圧の矢が空へと続き、花火のように散って菊に集中する。
色鮮やかな蓮の霊圧の矢。生半可な訓練では得られない、凝縮された矢。
霊との契約から生まれる紫と蓮特有の桃色が調和した霊圧、光のように白く、細く、鋭い。
一瞬、綺麗だと思った。
ーー回想ーーー
「鬼灯ちゃん。いっしょにお外で遊ぼう?」
まだ、蓮が幼い頃。黒川家の一室で小さな蓮が無邪気に少女を遊びに誘っていた。
「ねぇ、お外で遊ぶの楽しいよ?」
黒い髪にやや赤みがかった髪の少女、鬼灯は喋ろうとはしない。
「鬼灯ちゃん?」
蓮がそう口にした瞬間、鬼灯の体がビクッと震え、周りを見渡しようやく口を開いた。
「...お外に出ちゃいけないんだよ。」
幼い蓮はその意味がわからなかった。
「どうして?お外、楽しいよ?怖くないよ?」
「悪い鬼が食べに来るんだよ」
「悪い鬼なんていないよ。僕、お家のお外からきたもん。」
「そう、なの?鬼、いないの?」
「いるわけないよ!いっしょに遊ぼう?」
「わかった、少し、だけ。」
その頃の蓮は霊と契約しておらず霊がみえなかった。今でも覚えている激しい後悔。あの時、なぜ外に連れ出してしまったのだろう。
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「さすがだな。負けてられねぇ。こっちも全力でいかないと割に合わないよな」
鼻先に屋が触れる瞬間、菊は体に霊圧の膜を貼る。これも紫月の装備のおかげだ。
矢は菊の霊圧で編み出された膜に弾かれ、地面に刺さると思いきや、曲がった。
蓮が矢を操作している。
「そんなこともできんのか。おもしれぇ。」
菊も負けじと剣を蓮に投げつける。
「当たりませんよ。舐めないで__なっ!」
剣が、軌道を変えて蓮の腹部に突き刺さった。
「油断大敵っと。お前にできて俺にできないのは癪だからな。」
蓮は口から大量の血を吐き、倒れこんだ。
「パクリなんて褒められることじゃないですね。」
悔しそうな表情を浮かべ、蓮が言う。
「いやぁ付け焼き刃に対応できるようになったら聞いてやんよ。クソメガネくん?」
「油断、、、大敵っ!」
その瞬間、上空に浮かんでいた矢が一斉に落下してきた。
「なっ自爆覚悟って、クソが、バカやってんじゃねぇよ」
(...ここで死なれたら困るんだよ)
菊は自分の霊圧を抑えるのをやめ、霊圧でできた矢を自分の霊圧で粉々にした。
「なんで、助けた...?いや、利用しようとしているんですね」
「黙ってろ。保険だ保険。とりあえず眠っててくれ」
菊は真剣ではなく、霊圧でできた剣で蓮を刺した。
ーー回想ーー
開門をくぐり、直ぐ側の公園に向かった。初めて見るであろう外の世界に鬼灯は目を輝かせていた。
「ここが、公園だよ?来たことないの?」
「うん、お父さんがだめだって。でも、いっぱい人がいるんだね。」
「人?今いるのは僕ら二人だけだよ?」
「え?でも、おじさんとか小さい子もいっぱいいるよ?蓮くんの隣にも」
「もう、嘘は良くないよ。誰もいないよ。」
周りを見渡しても何もいない。いや、何も見えない。
このときに、気づくべきだったんだ。彼女に見えていたものの意味を。
『ねぇ。私が見えるのね?一緒に遊んでくれるのね?ねぇ。ねぇ。』
「今、蓮くんと遊んで、、、、蓮、くん?」
幽霊と呼ばれる怨霊は、彼女を攫って、幻を見せた。
突然彼女が消えて怖くなった僕は逃げるように黒川家へ駆け込んだ。
「ごめ、ごめんなさい、鬼灯ちゃんが、いなくなっちゃった。」
その後、傷だらけで泣き腫らした顔をした彼女が大人たちに抱えられて帰ってきたこと。それを人づてに聞いた僕は自分を呪った。そしてこの時決めた。彼女を守ると。
その1年後に僕は家内の儀式を受ける年齢になりこの眼と力を手に入れた。
そして、三途川家のもとで強くなったはずだったのに、今度こそ守るはずだったのに。
僕はもう、いや、ずっと前からいらなかったのかもしれない。
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