20章 開戦
いよいよ、紫月の決行の日がやってきた。
鬼灯は菊のメッセージに従い、できる限りはやってきた。
固く握った手にじわりと汗が滲む。どうか、うまく収まってくれ。
失敗すれば多くの命がこぼれおちる。
そう思うだけで、胸が締め付けられるような焦燥感が押し寄せる。
「鬼灯様、準備は整いました」
静かに背後から響いた声に振り返ると、蓮がひざまずいて報告をしていた。鋭い目つきと凛とした姿勢から、彼もまたこの日の重みを感じ取っているのが分かった。
「ありがとう。みんなには……」
言葉を探している間に、蓮が首を横に振った。
「鬼灯様が何を思っていらっしゃるか、全員が理解しています。だからこそ、ここにいます」
その言葉に少し肩の力が抜けた。迷いや不安を抱えているのは自分だけではない。蓮は幼い頃からよく知っているからこういうところで嘘はつかない。菊をまだ知らない頃、ずっと一緒にいた気がする。私は怖いんだな。けれど、それでも前に進まなければならないのだ。
「分かった。行こう」
鬼灯の命令で、蓮がすぐに行動を開始する。
「無理はなさいませんように。我をお頼りください。また...昔のように。」
去り際、蓮は鬼灯に聞こえぬ声でそう呟いた。
陣営全体に作戦開始の合図が送られた。静まり返っていた夜が、一気にざわめきと緊張感に包まれていく。緊張が走る中、ついに禍々しいゲートが開いた。
「まぁすてき、大層な出迎えなことだわ。まるで進軍の日程を知っていたかのよう。」
そう紫月は呟いて菊の方を見つめる。
「あぁ?さぁーなぁー鬼灯もそこまで馬鹿じゃないてことだろ。」
菊は嫌そうな顔をして紫月の鋭い視線を受け流す。
「そう?ふっ、まぁ、いいわ。行きなさい。」
「命令されるのは好きじゃねぇんだよ。だまれ」
そう言って菊は黒いフードを被り、怪しげな面を被って飛び出した。
「さぁて、どのへんから散らしていくかなぁ。くくっ」
「菊ぅ?本当の悪役みたいだよぉ?w」
「そうか?まぁ、楽しくてしょうがねぇのは事実だな。俺はいま敵だし?いつもの三分の一でいいや。こいつらはやれるうちにしっかりやっときたいし一振りじゃもの足んねぇ」
「そうだねぇ〜まぁ、楽しそうで何よりぃ?wんじゃ、いっくよー」
そうして剣剥は三分の一の力をこめる。
菊は人情という言葉一つ見つからない不敵な笑みを浮かべ、一人ずつ切り倒す。
「なぁおい、この程度かぁ?湿気たことしてんじゃねぇぞぉお!」
何人がかりで菊に立ち向かおうとも、返り討ちにされる。
着々と体制は崩れてゆき、頭首まで残り3人となった。
「結局は三銃士様以外は底辺の雑魚ってことだなぁ?そうだろ?クソ親父。せっかくだし親子喧嘩でもしようぜ?高みの見物なんてしてねぇでよぉ?」
「っは、落ちぶれたものだな菊。下っ端を倒していい気になっているようだが三銃士で十分だろう。それに敵に使えるなんてこの恥知らずめが。」
互いの間に激しい火花が散る。その瞬間が隙だと言わんばかりに三銃士の一人がしかける。
「お?一人目は蓮か。いいぜ?やってやんよ。一撃当たれば褒めてやるよっ」
しかけてきたのはさっきまで鬼灯の隣りにいたはずの蓮だった。
目には霊媒師でも珍しい霊との契約印が浮かび上がっている。
蓮は一族代々が霊との契約を交わす仕来たりのある不知火家の次期当主だった。
つまり、菊と立場は同じだ。今は三途川家に修行としてつかえているが、理由あって昔から菊のことを毛嫌いしていた。
「あまりにもお遊びがすぎるんじゃないですか菊様。」
「けっ、その様づけやめろってなんべんいわすんだくそメガネ。今日は珍しく本気か?」
「その腐りきった反抗期頭叩き直して差し上げると申しているのですよ。」
「へぇ?やれるならやってみろよ。ビビリメガネ」
そうして激戦が始まる。蓮は霊との契約から得る身体的な力とともに霊力で作られた弓を引いた。蓮が一度距離を取り両腕を広げた瞬間、見たこともないほど大量の矢が菊を狙った。
「おもしれぇ、全部斬り伏せてやるぜ。」
そういい、菊も霊圧を込め、蓮に向かい構え直した。




