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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト6 港町動乱(集の大陸・イェルデン島編)
73/106

サブクエスト7 氷解、瓦解

この回はサブクエスト4の続きです。

 



 トルカが目を覚ますと、目の前には彼女と同い年くらいの少女が顔を覗き込んでいた。



「あっ、やっと起きた!」

「!!」

「良かったー、魔物に襲われたところをごしゅじんさまがやっつけてくれなかったら今頃……あっ待って!」



 風邪が治らず重い身体を引きずるようにして慌てて逃げようとするトルカの腕を、兎の耳を生やした紅色の髪の少女が掴む。




 フォレストウルフの牙が迫る直前でトルカは無意識に魔法を放って退けたものの、そこで体力が尽きたところを、彼女を追いかけていた一団が救出していたのだ。






「だいじょーぶ! あたし達何もしないから! 傷つけたりしないからー!」



 腕を振っても全く離れない少女の握力に、トルカは戦慄を覚えた。




「大丈夫じゃ、耳長の。取って食うたりはせん。身体の調子も悪いじゃろう、座りんしゃい」




 暗い紫髮をツインテールにした、老婆じみた口調をした洞窟の民の少女がトルカに近付き、諭す。





 トルカの周囲には2人の少女に加え、鍋の備え付けられた焚き火の側で眠っている、橙色のふわっとした長髪に犬耳と尻尾を携えた少女がいた。




 3対1では分が悪い。




 そう悟ったトルカは、紫髮の少女を睨みつけながらも大人しくその場に座る。


 兎耳の少女はトルカから手を離し、トルカに予めかけてあった毛布を彼女の足元にかける。






「良い子じゃ。それにしても、1人で旅する中体調を損なうとは災難じゃったな。腹が減ったじゃろう。ほれ、これをお食べ」




 老婆口調の少女は微笑みながら側に寄り、鍋にあったスープを器に盛ってトルカに手渡す。








 が、トルカはそっぽを向いて受け取らない。







「大丈夫じゃ、毒は入っておらん。ほれ、見てみい」



 老婆口調の少女は、もう1つ器を用意して盛り付け、トルカの前で飲んで見せる。




 トルカは横目で老婆口調の少女を数秒睨むと、またそっぽを向く。







 老婆口調の少女の行動は毒を使っていない事の証明のためのものだが、マイティドッグ時代において薬草によく似た毒草を使わされた際に似たような行動を見せられ、騙された経歴を持つトルカにとって、それでは疑惑の暗雲を晴らすには至らなかった。







「食べないと元気出ないよ?」



 兎耳の少女が覗き込むが、トルカは無視を続ける。



「まあよい、ここに置いておく故、腹が減ったらいつでも食べるがよい。お主も、森の中で息絶えるのは本望ではなかろう?」

「……」







 トルカは焚き火に背を向け、杖を握って身体を横たえる。









 トルカが差し出された食事に手をつけなかったのは信用の面もあるが、不調で食事をする気力がない事と、彼女自身が重度の猫舌な事も関与していた。




「食べないの? 美味しいよ?」

「放ってやれ。恐らく、この子も虐げられた経験があったんじゃろう。お主やキィカのようにな」

「そうなんだ……」

「安易に接するのは逆効果じゃろう。向こうから心を開いてくるのを待つ方が良かろうて」

「うん、分かったよ」





 兎耳の少女と老婆口調の少女は、トルカから少し距離を置いた。





「この子とも仲良くなれるかな?」

「なれるとも。きっとの」




 彼女達の会話を、トルカは背を向けながら聞いていた。








 トルカも信じたい気持ちが無いわけではなかった。




 だが、安易に信じる事の恐ろしさを味わい、失う悲しさに今まさに打ちひしがれており、年上と接してばかりだった故に同世代との接し方が分からないトルカには、何が正しいのか分からなくなっていた。









 自身に危害を与えないうちは、こちらも手を出さず、無闇に逃げたりはしない。



 トルカにとっては、それが現状出来る精一杯だった。








「あの子が起きたって本当か?」

「そうとも。じゃが、まだ本調子ではないようじゃ」

「そうか……」







 先程は無かった青年の声に、トルカはピクリと耳を立てる。



「今耳がピクッて……」

「そういう事くらいあるじゃろう。で、今度は何をしでかすつもりじゃ?」

「しでかすは無いだろ。ちょっとあの女の子の病気を治せないかな、って思っただけだよ」

「ごしゅじんさま、あの子の病気治せるの!?」

「多分、そんな感じのアクティブスキルがあったはず……」






 青年は手のひらに収まるサイズの板状の物体……日本では主にスマホと呼ばれるそれを取り出し、それを弄る。



「あったあった。状態異常回復……そこそこSPが多いなぁ……まあいいや。えーと、使い方は……」




 青年はスマホを見ながらトルカの方へ手を広げる。




「カーム!」



 青年の手から青白い光が放たれ、それはトルカをベールのように包み込む。






「!?」






 トルカは驚き、身体を起こして自身の状態を確認する。



「治った……治った! 治った!?」



 トルカの身体を蝕んでいた風邪の症状はたちまち消え去り、鉛のように重く感じられた彼女の身体は嘘のように軽くなった。




 トルカが振り返ると、視線の先にはシンヤと同年代と思われる、コートに似た黒いローブを纏った黒髪の青年の姿があった。




「どう? 調子良くなった?」



 トルカは驚きと不信の表情を見せながらも、コクリと頷く。




「流石です、ごしゅじんさま!」

「相変わらずお主は何でも出来るのう」

「ま、このくらいなら楽勝さ」



 兎耳の少女が褒め称え、老婆口調の少女はニヤリと笑う。

 青年は澄ました表情をするも、どこか得意気な様子を見せる。




「……ありがとう」


 何故助けたかは窺い知れないが、助けてくれた事実は変わりない。

 そう考えたトルカは、ひとまずお礼の言葉を口にした。




「どういたしまして。俺は立川泰則(たちかわやすのり)、こっちの兎っ子はイチゴ、こっちの紫髪のはルンフ、こっちで寝ているのはキィカだ」

「トルカ……」


 ヤスノリが軽く紹介を済ませると、トルカも簡潔に名乗る。



「トルカちゃん……か。いい名前だね。トルカちゃんは何で1人でいたんだい?」

「……探してる」



 トルカはそう切り出し、これまでの経緯を辿々しい言葉遣いで話す。




「船が破損して離れ離れか……そりゃまた災難じゃったのう」

「仲間はどんな人達だったんだ?」

「シンヤっていう、髪の黒い男の人と、フィンっていう、とっても背がおっきい女の人と、ピスっていう……緑の髪の男の人」

「うーん……」



 ヤスノリ、イチゴ、ルンフはそれぞれ空を睨んで記憶を探るが、程無くして全員が浮かない顔をする。




「ごめん、誰も見た記憶が無いや。シンヤっていう名前は何処かで聞いた気がするんだけどなぁ……」

「わしも心当たりは無しじゃ。すまんのう」

「私も……」




 3人の言葉に、トルカは肩を落とした。




「そうじゃ、わしらとこうどうを共にするのはどうじゃ? 魔法使いの1人旅は厳しかろう。それに、わしらも旅の途中じゃ、もしかしたら仲間が見つかるやもしれぬぞ?」

「いいねー! さんせー!」

「やれやれ、しょうがないなぁ」




 ルンフの提案に、トルカは腕を組んで思案する。



 彼女の言う事は的を射ていたが、トルカにはこの一行に対する不安はまだあった。





 しかし、助けられた恩があることや、シンヤ達に再会したい気持ち、何より死にたくない生物的本能は、彼女にとって無視できるものではなかった。




「……分かった。一緒に、行く」

「それがええ。旅は大人数の方が楽しいものじゃ」




 トルカが頷くと、ルンフは笑顔で答え、イチゴの顔がパッと明るくなる。

 その後ろには、仕方ないといった表情を浮かべるヤスノリの姿があった。



「やったー! トルカちゃん、よろしくね!」

「……離して……痛い……」



 笑顔で力一杯抱きつくイチゴの腕をしかめっ面でぺしぺしと叩くトルカ。


 絵面は微笑ましいものだが、絞め殺される恐怖を感じた当人にとっては必死だった。



「……」

「あ、キィカちゃん! この子新しく友達になったの! トルカちゃんって言うんだ!」

「友達、違う……!!」

「イチゴ」



 イチゴの声で起きたキィカは、イチゴからトルカを引き剥がす。




「その子、嫌がってる」

「え、あ……ごめんね、トルカちゃん」

「おまえ、嫌い……!」



 キィカは再び眠りに就き、イチゴはバツの悪そうな顔で謝る。

 平手打ちしてやりたい気分を抑えつつもトルカはイチゴを睨みつけ、怒りを込めた声で言い放った。




 ……………………





 ………………








 翌日。





 森を進むヤスノリ一行の後ろを、トルカが付いていく形で歩く。




 昨日よりはマシになったが、一行に対して未だに警戒心の解けないトルカは、彼らがどのような力を持っているかを推測していた。





 あの怪力からイチゴが物理攻撃を得意とするのは火を見るより明らかであり、キィカからそれほど魔力を感じない事から、彼女もイチゴと同じく物理型である事はなんとなく想像がつく。


 ヤスノリ達の3歩ほど後ろを歩くルンフは、魔法使いが着用するような薄紫のコートを羽織り、先端に青い宝石の付いた、彼女の身長ほどもある杖を背負っているのを見れば、トルカ自身と同じ魔法型で間違いない、と判断した。





 だが、ヤスノリがどういう能力を持っているかは全く想像がつかなった。






 彼は武器を所持しておらず、徒手空拳で戦う冒険者のように身軽で動きやすい服装でもない。魔法使いであったにしても、杖や魔道書を持たずに戦う者はそうそういない。


 厳密に言えば彼はスマートフォンを所持しているのだが、トルカから見ればただの金属板であり、とても武器や杖の役割を果たせる代物とは思えなかった。





「ヤスノリや」




 物思いに耽っていたトルカは、いつの間にか隣にいたルンフの声で我に帰る。




 同年代と比較しても体力が非常に少なく足取りも遅いトルカは、気付けば一行から随分と距離を離されていた。


「どうした?」

「もう少し歩く速さを落としてくれんか。この子がついていけん」

「うーん……これでも落とした方なんだけどなぁ……」




 ルンフの進言に、ヤスノリは頭を掻く。




「そうだ、トルカちゃんをあたしがおんぶすればいいんじゃない!?」

「その案自体は悪くないとわしは思うが……」



 ルンフは横目でトルカをちらりと見る。

 視線の先には、イチゴを視界に入れようとしないトルカの姿があった。



「彼女はこんな有様じゃ。お主ではなく、キィカに任せるのが無難じゃろうな」

「そっか……キィカちゃん、いい?」

「……ん」



 キィカはすたすたとトルカに近寄ると、



「ん」



 と、彼女に背を向けて背負う態勢を取る。




 少しの躊躇の後に、トルカはキィカに身体を預けた、背負われた。



「ひんやり」


 トルカを背負ったキィカが独り言を漏らす。



 キィカの髪から漂う、土と何かの果実のような匂いがトルカの鼻をくすぐった。







 ……………………






 ………………







 それから2時間後、先程までと同じく森の中を歩いていたヤスノリ一行だが……




「おかしいな……」

「のうヤスノリや……わしら、さっきから同じところをずっと回ってる気がするのじゃが……」

「俺も……そんな気がする……」




 彼らは道に迷っていた。





「何か考えがあったのかと思うとったが、考え無しと来たか……」

「違うんだ、さっきからナビが正常に機能しないんだよ。今までこんな事は無かったんだけどなぁ……」

「そういう事はもっと早く言わんか!」

「いやそんな事言ったってさぁ……」



 言い合いになるヤスノリとルンフの傍で、イチゴ達3人はそれぞれ自由行動を取っていた。

 キィカはトルカを下ろしてイチゴの膝を枕にして眠り、イチゴはキィカの頭を撫でつつ、時折トルカの方を見る。




「砕け氷よ、ブリザー……」


 トルカは2本の杖を両手に持ち、イチゴ達から少し離れたところで地面に向けて氷魔法を唱え、時折木の枝で地面に何かを書いていた。




「トルカちゃん、何してるの?」




 というイチゴの声には耳を貸さず、黙々とその作業を繰り返す。



 最初のうちはただの暇潰しであり、書いている内容も成功か失敗か程度であったが、それを繰り返すうちに何かが閃きそうな気がしたトルカは夢中で作業を繰り返し、気付いた事を事細かに書き記していた。




 掴めそうで掴めない、もどかしい感覚に苛まれつつも記録を見返していた時、トルカの耳が物音を捉える。



 イチゴとキィカも反応し、立ち上がって周囲を警戒する。



「ごしゅじん、まもの」「ごしゅじんさま、魔物が来るよ!」

「マジで!? どこからだ!?」

「えっと……こっち!」



 イチゴが指差した方角にヤスノリが顔を向けた瞬間、4つの赤い光と共に、白く太い糸が彼に向けて飛ぶ。





「うぉっと!?」





 間一髪で回避したヤスノリは、よろけながらも糸から距離を取る。


 発射された糸は彼の元いた場所の背後にあった木に接着し、縦に波打たせたそれをレールにして何かが滑走する。

 木に激突する寸前で木を蹴り飛ばし、大きく跳躍して着地し、糸を引きちぎる。





 一行をヤスノリとルンフ、イチゴとキィカとトルカに分断するように位置取ったそれは、奇妙な足の形をした、全高2m、全長5m程の緑色をした巨大な蜘蛛の魔物、ウェイブスパイダーであった。



「分断されてしもうたか……!」

「最悪だ、蜘蛛苦手なのに……」





 ヤスノリとルンフの側へ頭胸部を向け、トルカ、イチゴ、 キィカの側からは腹部を見せる。


 腹部の先端からは太く鋭い針が生えており、滴る毒液が木漏れ日を反射して不気味な光沢を生む。



「魔物……!」

「ど、どうしよう……怖いよ……」



 怯えるイチゴとキィカを尻目に、トルカは詠唱を開始する。



「貫け、白き凍原の矢よ! フロスト・アロー!」



 トルカの放った冷凍光線は、糸を張ったウェイブスパイダーが先程のように滑走しようとした瞬間の左脚に命中し、その1本を凍らせる。



 ウェイブスパイダーはバランスを崩しながらも滑走を断行し、ヤスノリに向かっていく。


「俺かよ!?」

「させぬぞ! 遍く大地よ、かの者を飲み込み捕えよ! トラップ・ソイル!」




 飛びかかってきたウェイブスパイダーをヤスノリは走ってかわす。

 着地したウェイブスパイダーはルンフの放った魔法によって軟化した土に足を取られ、沈没する船のようにずぶずぶと地中に沈んでいく。




「今じゃ!」

「ちょっと待てよ……よし! レクスボルト!」



 ヤスノリがスマートフォンにタップとスワイプを繰り返し、右腕を上げてウェイブスパイダーに向けて振り下ろす。

 直後、大地を割らんばかりの強烈な雷鳴がウェイブスパイダーに突き刺さり、引き裂くように焼き焦がした。





 ウェイブスパイダーの後方にいたイチゴ達は目を瞑って耳を塞ぐ。

 トルカも同じようにするが、彼女は驚きの余り小さく飛び跳ねた。





 再びトルカが目を開けると、そこには消し炭となったウェイブスパイダーにスマートフォンの液晶部分を向けるヤスノリと、トルカ達へ駆け寄ってくるルンフの姿。




 スマートフォンの画面は発光したかと思えば、ウェイブスパイダーも同様に光り、光の粒子となって画面の中に吸い込まれた。





 魔力の扱いには自信のあるトルカですら詠唱無しでは制御できないであろう強烈な魔法を、詠唱を行わずして正確に放ち、更には未知の道具を行使するヤスノリ。



 そんな彼を、トルカはじっと見据える。







 トルカは心の奥で、魔法においては誰にも負けない自信を持っていた。


 実際、技術面は荒削りながらも彼女の魔力と創造は常人のそれを遥かに逸脱しており、これまでの戦いにおいても、彼女が全く活躍できなかった事は殆ど無い。





 だが、目の前にいる少年はそんな彼女でも詠唱が無ければ扱いきれないであろう強烈な魔法を無詠唱で正確に命中させ、補助があったとはいえ自分より大きい魔物をたった一撃で倒したのだ。





 自身が初めて見た自分以上の資質を持つ彼に対し、トルカの心には恐怖心が芽生えつつあった。


 それと同時に、彼女の心の奥底にある対抗意識に火が灯った瞬間でもあった。






 ……………………







 ………………







 ルンフやトルカの魔力検知やイチゴやキィカの気配察知により、どうにかこうにか同じ箇所のループを抜け、森の中を進んでいった一行。







 夜を迎えて皆が寝静まった頃、トルカは見張りのついでに魔法の練習をしていた。




「ファイア! ブリザー! フロスト!」






 ヤスノリがやっていた無詠唱での魔法を練習するが、狙った方向へ飛ばない。

 ワーテルにいた頃よりかは流石にマシだが、実戦に持ち込むにはまだまだ頼りない命中率だった。




「…………」

「見張り番の時まで練習とは、お前さんも熱心じゃのう」

「!?」




 背後からの声に驚いて振り向くと、ルンフがすぐ後ろにいた。




「おぉ、驚かせてしもうたか。すまんすまん」

「……何?」

「大した事ではない。少し目が覚めてしもうただけじゃ」



 トルカに睨みつけられるのにも構わず、ルンフは彼女の隣に座る。


「お主も座ったらどうじゃ?」


 トルカは暫しルンフを見つめると、少し距離を開けて座った。




「しかし、お主も熱心じゃな。一応魔法使いの端くれでもあるわしとは比較にならん魔力を持ってるというのに」

「……まだ、足りない」

「ヤスノリのような無詠唱を習得するつもりかえ?」



 考えを見透かされたトルカは、目を丸くしてルンフの方を見た。



「図星のようじゃな。無理はするでない、あやつは色々と常識外れじゃ」

「……?」

「少し、話をしてやろう」


 眉をひそめるトルカに、ルンフは語り始める。



「わしとイチゴとキィカは元々、奴隷じゃった。厳密には今もじゃがの……」

「……」

「奴隷になれば、奴隷紋という印を身体に付けられる」

「どれい……もん?」



 首をかしげるトルカに、ルンフは胸元をはだけて見せる。

 首元の少し下、ちょうど鎖骨の辺りに蛇に似た青い紋章が烙印されているのが見て取れた。


「首元に青い紋章があるじゃろう? これが奴隷紋、奴隷の証じゃ。1度付けられてしまえば死ぬまで消えず、主人に逆らえば苦痛を与えられる……使役する側としては便利じゃろうが、される側としてはたまったもんではない」



 ため息を吐きながら、ルンフは服装を元に戻す。




「ともかく、わしは物としてとある貴族に使役されておった。とはいえ、奴隷の扱いは一律ではない。技能ある奴隷は下手な市民より優遇される。わし自身は魔法が使える故か、それなりに扱いは良かった。たまさかの暴力はあったがの」



 ルンフはそう言うと、すやすやと寝息を立てるイチゴとキィカを見る。




「じゃが、あの子達は違った。ある日、わしの主が新しく彼女らを買うたのじゃが……用途は憂さ晴らし用じゃった。おそらく、草原の民を忌み嫌ってたのだろうな」

「なんで?」

「さての。どうせ、大昔にあった差別でも引きずっとるんじゃろうて……その日からは、毎日のようにあの子達の悲鳴が聞こえてきた。何をされたのかは知らぬが……まあ聞かぬ方が良いじゃろう。わしとしても助けたかったが、そのような事をすれば今度はわしが殺されかねん」



 トルカはふと、マイティドッグ時代の事を思い出した。

 あのような感じだろうか、と思いを巡らせながら耳を傾ける。




「そんなある日の事じゃ。突然ヤスノリが現れての、主を殺してわしらを攫っていったのじゃ。私兵のいる屋敷を、たった1人でな」

「どうして?」

「我慢ならなかった、とあやつは言っておるが、詳しいことは語ってはくれぬ。今は奴隷紋を消すために、デモールという人物に会いに行く旅の途中じゃ」

「……」



 トルカはヤスノリをチラリと見る。

 彼女に背を向けて眠っているため、表情は見えないが、彼にそのような事を成し遂げそうと思わせるような風格は感じられなかった。




「あやつは常識外れで無鉄砲じゃが、それで助けられているのも事実じゃ。まあ、悪い奴では無かろうて。さて、そろそろ交代の時間じゃの。ゆっくり寝ることも大事だぞ?」

「……分かった」



 トルカは立ち上がって移動し、一行から少し離れた場所にある木にもたれて目を閉じる。





 ヤスノリに対する謎は尽きないが、それはそれとして明日は少しくらいイチゴ達に構ってやるのも悪くないかもしれない。




 意識を落とす間際、何故かは分からないが何となくそんな気がしたトルカであった。





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