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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト5 再起(集の大陸・シュティリ島編)
67/106

サブクエスト6 詩人妖精の受難

この回はクエスト5-1、5-2の時間軸におけるピスの話です。

 







 集の大陸、イェルデン島。







「う……」





 その一角で、ピスは妖精態の姿で目を覚ます。





「ここは……どこデス……?」




 視覚からは情報を入手できず、足と頭には布の感触があった。


 音に意識を傾けると、虫の鳴き声と焚き火の音が聴こえてくる。






 自身の居場所の見当が付かず記憶を遡るピスに、誰かのが聞こえてきた。





「へっへっへ、こんなチンケな森で面白いものを拾えるとはな。闇市にでも売り飛ばせば、それなりの酒代になりそうだぜ」




 声の主は中年男性と思われるものだった。


 声に続き、ゴクゴクと何かを飲む音も聞こえる。





 ピスは気絶していたところを冒険者に捕まり、袋に入れられていたのだ。



「ボクは売り物じゃないのデス!」



 自身の状況と未来を察したピスは、人間態へと変身し、増大する体積に任せて強引に袋を破る。




「な、何だぁ!?」



 腰を抜かした冒険者には目もくれず、ピスは夜の暗闇の中を一直線に走る。




「この野郎待ちやがれ! 俺の酒代を返せ!!」

「誰がお前の酒代なんかになったりするものデスか!」




 悪態をつきながら再度妖精態に変身して高度を上げ、逃走経路を空へと移す。






「俺の酒代がぁーーーーーー!!」







 冒険者の叫びを背に、ピスは夜の闇へと姿を消した。






 ……………………






 ………………







「ふぅ……ここまで来れば平気へっちゃら、デスね」



 森の一角、冒険者のいた場所より奥に来たピスは、木の枝の上に妖精態の姿で立っていた。



「見透す眼よ! バイタルサーチ!」



 ピスはバイタルサーチを唱えつつ、地形をスキャンして周囲の様子を探る。



 ピスの意識の中に、自身を中心に動物、人間、魔物の位置を記したマップが形成される。





「ふむふむ……」




 ピスのマップが映し出したのは広大な森。


 周囲に人間はおらず、魔物や動物もまばらに存在するのみであった。






「むむむ、やはりはぐれてしまったようデスね……とりあえず、森を抜けて町に出るとしますデスか」




 ピスはマップに従い、夜の帳が下りた森の上空を巡航する。


 最初は悠々と飛行を続けていたが、進んでいくにつれて緩やかながら高度が落ちていった。





「むむむ……エネルギーが不足しているのデスか……」


 ピスはそう零しながら、近場にあった木の枝の上に着陸した。





 妖精態のピスは食事を必要としないが、太陽光あるいは意識を遮断する事実上の睡眠状態によって定期的にエネルギーを回復する必要がある。

 その間は当然無防備であり、狙われればひとたまりもない。



 これまでの冒険ではシンヤに腕輪としてくっついている事でエネルギーの回復と自己防衛には困らなかったが、彼らとはぐれた今ではどうしても隙を晒す事は避けられなかった。





「うーむ……こうなれば木の上で腕輪状態になるしかないようデスね……鳥や魔物は狙ってこないはずデスので、冒険者に見つかりさえしなければ……」




 睡眠状態が効力を発揮するのに形態は問わない。



 ピスはやむなく、木の枝にかけられる形で腕輪形態に変化して意識を遮断し、事実上の睡眠をとる事にした。








 ……………………






 ………………







 翌日、腕輪となったピスの身体はある冒険者達に持ち去られ、手に持たれて鋭い視線を向けられていた。



 視線の主は、緑のメッシュ混じりな赤髪オールバックに緑色の鱗を顎髭のように備え、蜥蜴のような尻尾を生やした、2mを優に超える大柄なやや軽装の男戦士。



「やはり勇者と名乗り好き勝手する連中の手がかりはありませんでしたわね……まあ、今回は信憑性の低い話だったので仕方ありませんが……」

「……」


 その隣で古びた本を読みながら半ば独り言のように話すのは、深紅のベレー帽を被り、同じく深紅のドレスとコートを合わせたような服を身に纏った女剣士。



 彼女が歩くたび、毛先を縦にロールした薄紫のツインテールが揺れ、腰に携えたミスリル製のレイピアの柄が日光で煌めく。



 赤髪の戦士は女剣士の話に反応を示さず、金色の瞳でピスの腕輪を見つめる。



「連中は恐らく、異形の魔物と何らかの繋がりがあるはずです。奴らを追っていれば、異形の魔物の手がかりを掴めるかもしれませんわ」

「……」

「ウィルリアの予言は貴方も聞いたでしょう? 彼女の言っていた世界の終焉と異形の魔物……とても無関係とは思えませんわ」

「……」

「異形の魔物は、世界を破壊するに足る力を持っています。何としてでも食い止め……ちょっとロッソ、聞いていますの!?」





 女剣士は本を閉じ、ロッソと呼んだ赤髪の戦士に食ってかかる。





「既に知っている情報だ。いちいち反応するまでもない」




 ロッソと呼ばれた赤髪の戦士はようやく女剣士に反応を示す。




「それだけ重要な話……あら、その手に持っている腕輪は何ですの?」

「野営地の木の上で見つけた。お前が寝ている間にな」

「見せてくださいます? 何か手がかりがあるかもしれませんわ」

「……」

「ちょっと! 早く渡してくださる!?」



 女剣士を無視して、腕輪をまじまじと見つめるロッソ。

 しばらくした後、



「俺には分からん。お前が調べろ」



 と言って女剣士に投げるロッソ。




「まったく、最初からそうなさいな。頭と魔力を使う仕事は(わたくし)、メアシス・ラベンディアの出番でしてよ?」

「腕輪に違和感を覚えたから見ていただけだ」





 メアシスと名乗る女剣士はピスの扮する腕輪を見つめる。

 そんな中、睡眠状態になっていたピスの意識が少しずつ覚醒していく。



「ふむ……この腕輪、生物と同じような魔力の流れ方をしていますわね」

「魔物か?」

「その可能性は無いわけではありませんが……この魔力の感じは精霊、あるいは妖精ではなくて?」

「知らん」

「相変わらずつれない態度ですこと」

「で、そいつはどうするんだ」

「一応、然るべき所に売却すればどんなに低く見積もっても50,000pd……」

「どうして皆ボクを売り飛ばす腹積もりなんデスかー!?」



 売却というワードに反応したピスは妖精態に変身し、空へと逃亡した。




「ロッソ!」





 ロッソは近くの木の枝へ駆け登り、そこから体重と枝のしなりを利用して鉄砲玉のように飛ぶ。





「ぎゃっ! ぎゃーーー!」




 足を掴まれたピスは叫び声を上げながらロッソと共に落下する。

 ロッソは平然と着地すると、ピスの足を持ったままメアシスに突き出す。




「捕らえたぞ」

「離してほしいのデスー! ボクにはバラバラになったお仲間を探す義務があるのデスー!」


 陸地に上がった魚のように、ピスはジタバタと動いて抵抗するが、ロッソの掴んだ手は離れない。


「質問に答えてくだされば、離してさしあげてもよくってよ?」

「本当デスか!?」

「ええ。私達は精神を蝕むおぞましい姿の魔物と、勇者を名乗り好き勝手な振る舞いをする連中に心当たりはありませんこと?」

「どちらも知らないのデス。にしても、勇者様を偽るなんて許せない存在なのデス!」

「ええ、その通りですわ。時間を取らせて申し訳ありません、質問は以上ですわ。ロッソ、離してあげなさい」

「では、ボクはこれでー!」



 自由になったピスは再び森を飛んでいく。





「いいのか」

「ええ。さて、私達も行きますわよ」






 メアシスとロッソもまた、歩き出した。







 ……………………





 ………………






 森を抜けたピスは、1つの村を見つける。

 畑に覆われ、簡素な造りの建物が並ぶ、特段変わった特徴の無い村である。



「あそこで聞き込みデス!」




 ピスは人間態へと変身し、旅人として村を訪れた。







「おやおや、こんなところに旅のお方とは珍しい。ピルーマの村に何か御用ですかな?」




 30代前後の村人の男性がピスに話しかける。





「実は、獣の大陸から船でこの大陸に来ていたのデスが、船が難破してしまったのデス」

「ほー、それは災難でしたねぇ」

「それだ、一緒に船に乗っていた仲間を探しているのデス」



 ピスはシンヤ、トルカ、フィンの特徴を村人に伝える。




「……という方々なのデスが、心当たりはおありデスか?」

「うーむ……そのような方々は村には来ておりませんなぁ。ここ最近のこの村は平和ですから依頼を出す村人もおりませんし、こんな辺鄙な村にわざわざ来るような物好きもいないでしょうし……」

「そうデスか……」



 ピスは肩を落とした。




「人探しというなら、デルタポートに寄ってみてはどうでしょう?」

「デルタポート……デスか?」

「はい、この島の南端にある港町なのですが、あそこなら人も多いですし、情報も集まるでしょう」

「なるほど! ありがとうございますデス!」




 あからさまに落胆していたピスの顔がパッと輝く。




「陽も傾きかけています。今からですと遅いので、今日はこの村でゆっくりされるとよいでしょう」

「では、そうさせてもらうのデス! ……そうだ!」






 ……………………





 ………………







「そうして、旅人は新天地を目指して、新たな旅を始めたのでした……」




 ピスは広場に人を集め、楽曲を披露していた。



 ゲームやテレビどころか本や字さえ無い事が多いこの世界の村では、何かと娯楽が不足する。



 そんな中、弾き語りによって娯楽を提供したピスは、瞬く間に村人達の心を掴む事に成功した。





「すげぇ面白かった!」

「他には何か無いのかしら?」

「まあまあ落ち着いて。曲目は他にもありますデスから」



 次の曲を催促する村人達を手で制し、次の楽曲を奏で始める。



 彼のささやかなライブは、陽が落ちるまで続いた。







 ピスがこのような行動に出た事に、特にこれといった理由は無い。

 強いて言うなら、彼を動かしたのは誰かを楽しませたいというエンターテイメント精神であった。

















 弾き語りの後、シンヤ達の事を聞いて回ったが、めぼしい情報は無かった。



 その日は村人の経営する宿屋に泊まり、夜を過ごす。

 歌を気に入った宿屋の店主の好意により、宿代はサービスしてもらえた。







 ……………………






 ………………





「デルタポートへは、あの道を進んでいけばたどり着くでしょう」

「ありがとうございますデス!」





 ピルーマ村を後にして、ピスはデルタポートを目指す。










 村が見えないところまで来ると、ピスは妖精態へと変身し、空を飛んで道を行く。




「うーむむ……1人で行動というのは少し心細いデスね……ボクも自分の身を守れるような魔法を覚えなければ……」






 ピスは独り言を言いながら、デルタポートを目指した。








 草原を越え、川を越え、空飛ぶ魔物のテリトリーを掻い潜り、昼も夜も巡航を続け、丸1日半ほど飛び続けた果てに辿り着いたのはデルタポート……ではなく、村としては異様に規模の大きいペペロという村。






 村が見えてきた辺りで人間態に変身し、旅人に扮して村に入ろうとしたピスを、偶然近くにいた4匹のゴブリンが襲い来る。




「ご、ゴブリンデスかっ!?」




 トルカのように攻撃魔法を一切覚えていないピスは、ゴブリンに背を向けて村の方向に全力で逃走する。





「むむっ、そういえばイヤーズポートで買った武器があったのを忘れていたのデス!」




 ピスは腰にあったフォースワンドという銀色の杖を取り出す。


 青銅とトパーズで作った杖を鉄で覆うような構造をしており、ただのハンマーにすら見えるほど無骨で飾り気の無いデザインのそれにピスは自らの魔力を流し込む。





「これがあればボクだって戦えるはずデス! ゴブリンめ、覚悟するのデス!」




 ピスは足を止めて振り返り、流し込まれた魔力によって白く輝くそれをゴルフのように思いっきり振り上げる。





「なぬっ!?」





 しかし、武術の心得も無ければ筋力も5の彼が放つ一撃は、ヘロヘロという表現が合いそうな大振りで遅い攻撃だった。




 単体のゴブリンは初心者でも倒せるほど弱い相手だが、そのような攻撃に必ず引っかかるほど間抜けでもない。



 回避のタイミングがズレた1体に命中した攻撃以外はことごとく回避され、3体のゴブリンが一斉に襲いかかる。




「この……うわぇっ、とっ、とぉ!?」



 二撃目を繰り出そうとして体勢を崩し、転倒して無防備になったピス。



 図らずも姿勢を低くしたことによって飛びかかってきたゴブリンを回避する事はできたものの、ピスはゴブリンに取り囲まれてしまう。




 仰向けになったピスをゴブリンが袋叩きにしようとした時、







「ほ、迸れ雷よ! サンダー!」






 少女の声が響き、細い雷が落ちる。

 雷はゴブリンに命中こそしなかったが、驚かせてピスが逃げる時間を稼ぐには十分だった。



「おーい!兄ちゃん大丈夫か!?」



 声の方を見ると、13歳前後の3人の少年少女がピスの方へと駆けていた。




「助かったのデス!」

「ゴブリンはおれ達に任せろ! 行くぞグルケ!」

「ああ。お兄さんはあそこの女の子の後ろにいて」

「お兄さん、こっちです!」



 3人の少年少女のうち、赤髪の少年はゴブリンへと駆け、深緑の髪の少年もピスに声をかけつつ後に続く。

 オレンジの髪の少女はピスに向かって手を振っていた。



 ピスは指示通り、少女の方へと駆け寄っていった。


「おらぁ! ベレン様のお通りだぁ!」

「とりゃぁ!」




 ベレンと名乗る赤髪の少年は徒手空拳で、グルケと呼ばれた深緑の髪の少年はやや細めの棍棒でゴブリンと戦う。



 相手がゴブリンとはいえ、両者ともに鮮やかな動きで敵の攻撃を回避し、的確に打撃を打ち込んでいき、瞬く間に打ち倒していく。



「ドラゴンアッパー!」



 最後に残った1体をベレンが炎を纏ったアッパーカットで仕留め、その場にいたゴブリンは全て地面へ倒れた。





「いやぁありがとうございました。おかげで助かったのデス。とってもお強いのデスね!」

「あったりめーだろ! おれはいずれ、ドラゴンをやっつけた冒険者として有名になる男だからな!」

「ほぼう、それは凄いデスね!」



 ベレンは皮製のグローブを付けた手でファイティングポーズを取る。





 多忙で娯楽の少ない村暮らしに嫌気がさし、町での自由な生活や一獲千金に憧れて冒険者を目指す村人は多い。

 特に英雄譚や冒険譚を聞いたことがある者や、弱小でも魔物を打ち倒した経験のある者であれば尚更である。



 この燃えるような赤髪ショートヘアの少年ベレンは、祖父がデルタポートから越してきたのもあってさまざまな冒険譚を聞かされており、更にある程度体術の才能もあった。



 そしてそれは、冒険者になろうとするには十分過ぎる動機であった。





「ベレン、遊んでないで剥ぎ取り手伝って」

「やめろ耳引っ張るな痛い痛いおれが悪かったから!」

「わたしは何をすればいい?」

「ランシアはこれ持ってて」



 癖っ毛気味な深緑の髪の少年グルケは、ベレンを引っ張ってゴブリンから魔核を取り出し、ゴブリンの死体を埋める。




「これでよし、と……」




 解体作業を終え、グルケは魔核をポケットに入れた。


「おれベレンってんだ! こっちの緑のはグルケで、こっちはランシア」

「よろしく」

「こ、こんにちは……」


 ベレンの紹介に合わせて、グルケは素っ気なく、ランシアはおどおどした様子で答えた。


「ボクはピーステールと申しますデス! ピスとお呼びくださいデス!」

「分かったぜピス兄ちゃん! そうだピス兄ちゃん、おれ達の村に来いよ! 旅人だろ!? 色々話聞かせてくれよ!」

「いいデスよ! 元々その予定デスので!」

「よーし、そうと決まれば出発だー!」



 ……………………







 ………………




 ペペロ村に着くと、ベレンは村を周り、ピスに自分の村を紹介していった。

 グルケとランシアもそれに続く。



「どうだ兄ちゃん! おれ達の村はおっきいだろ! あっちのでっかい家は村長の家で、あっちは教会! 向こうの2階建ての家は宿屋で、あとは……」

「くぉらベレン! 手伝いサボってどこをほっつき歩いてたんだい!」

「やっべ母ちゃんだ! 逃げろ!」



 母親の姿を見るや否やベレンは脱兎のごとく逃げ出し、あっという間に姿を消した。



「すみません旅のお方、うちの子がご迷惑を……」

「いえいえ、お気になさらず!」

「最近は魔物も増えてますし、大変でしょう。こんな村ですが、ゆっくりしていってください」



 ベレンの母親はそう言うと、何かを言いながら自分の家へ帰っていく。




「……行った?」



 ドアを閉める音の少し後で、近くにあった木箱の中からベレンが現れた。



「そんなところにいたの?」

「ベレン、お前また晩飯抜かれるぞ」

「へへっ、晩飯抜きが怖くて冒険者になれるかってんだ」

「だめだよ、謝ろうよ」

「やだね!」

「……ぼくはもう知らない」


 グルケは呆れてそっぽを向いた。




「それよりピス兄ちゃん! 何か話聞かせてくれよ!」

「そうデスねぇ、ではとある王国の姫を攫った大魔王と、それに立ち向かう立派な髭を持った英雄の話をいたしましょう」

「何だそれ!? 面白そうだな!」


 ベレンが目を輝かせ、グルケやランシアも興味ありげにピスを見る。



「折角デスし、広場でやりましょう。広場はどこデス?」

「こっちだぜ!」





 ……………………






 ………………





 広場の一角に案内されたピスは、小型のハープのような楽器キタラを取り出して弾き語りを始めた。



 キタラの音色と共に彼の口から紡がれる物語は、ベレンは勿論グルケとランシアも虜にし、さらには道行く人々の興味を引いた。






 気付けば、ピスの周囲にはちょっとした人だかりが出来ていた。




 ペペロ村は小さな町に匹敵するほどの人口と活気があり、冒険者や旅人が訪れる機会も村としては多い。


 そのためか、ピルーマ村ほど食い付きは良くなかったものの、それでもピスの楽曲に耳を傾ける人は決して少なくはなかった。






 陽も暮れてきた頃、少しばかりのおひねりを受け取って事実上スッカラカンの懐が少し潤ったピスは、ベレン達と別れて宿屋に向かう。


 弾き語りの終わりにピルーマ村の時と同じくシンヤ達の情報について聞き込みを行ったが、こちらでも成果は得られなかった。






 宿屋に着くと、ピスは一晩部屋を借りる旨を宿屋の主人であるスキンヘッドの男性に伝える。



「一晩なら40Pd(ペレダー)だぜ」

「がってんデス!」

「まいどあ……おいちょっと待て、こいつぁここじゃ使えねぇぞ」

「えっ!?」



 通貨の違いに気付かず、ピスの渡した40(ガルド)は宿屋の主人に突き返されてしまった。




「この大陸じゃ使えるのはこの辺だ。赤いのが1Pd、黒いのが10Pdだ。もっと高いのもあるが……まぁそれはいいか」



 宿屋の主人はそう言って赤い銅貨と黒い鉄貨を見せる。



「あ! さっき貰った硬貨デス! 色も形も違うと思ったらそういう事だったのデスね! えーっと……」


 ピスは貰ったおひねりから黒い鉄貨を4枚取り出し、渡す。




「へい、確かに。冒険者ギルドに行けば両替できるらしいから、早めに行っとけよ? ま、この村にはねぇけどな」

「がってんデス!」





 ピスは部屋の鍵を受け取ると早速布団に潜り込み、目を閉じる。

 人間態での睡眠は初めての体験だった。









 眠りの最中、ピスは夢を見た。





 シンヤとトルカとフィンと共に、再び旅をする夢を。




 彼らが楽しげに談笑するのを、腕輪の姿で見守る夢を。







 それは、ピスが生涯で初めて見た夢だった。




 ……………………






 ………………





 翌朝、夢が現実でない事の喪失感を引きずりつつもペペロ村を後にしたピスは、再びデルタポートへと急ぐ。


 今はその夢がただの幻影であったとしても、いつか真実となることを信じて。




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