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リィンカーネーションクエスト  作者: シュガーロック
クエスト5 再起(集の大陸・シュティリ島編)
62/106

サブクエスト5 呪いの枷

この回はクエスト5-1、5-2の時間軸におけるフィンの話です。


 








 集の大陸、セデム島。










 海岸の波打ち際で、フィンは倒れていた。





 うつ伏せの体勢でフィンが視界を動かすと、そこは一面の砂浜だった。



「ふん……!」




 フィンは起き上がろうとして、地面に手をつく。

 しかし、彼女の身体は地に張り付いたように動かなかった。




 長時間荒波に揉まれ続け、体力を失ったフィンに、全身を防護する鎧は重すぎた。


 加えて、流されているうちに魔物や海底の岩にぶつかり、魔法による強化があっても防ぎきることのできなかった錆による腐食のせいで鎧も経年劣化した人形のように動かしにくくなっていたのだ。




「くっ……!」





 何度も起き上がろうとするが、自らの身体は動く気配が無い。





「はぁ……はぁ……」





 自身の身体が他人のものとすり替えられたような不気味な錯覚を覚えつつ、フィンは荒い息を吐きながら腕を地面へ投げ出す。





 身体が飢えと渇きを訴える中、フィンはこの場を脱する方法を必死に考える。

 だが、まともに身体が動かない状態で出来る事など無く、脳内で挙がったプランのことごとくにバツを記していく。






 急場を脱するための計画の立案は、いつしか何故この状況に陥ったかの詮索になり、やがてそれは自分で自分を追い詰めるセルフ魔女裁判と化す。




 何故魔法で魔王の拳を防ごうとしなかったのか。

 何故魔王に斬りかかるシンヤにプロテクションをかけられなかったのか。

 何故船乗りを疑わなかったのか。

 何故軽装にならなかったのか。

 何故、何故、何故……





 フィンのたらればを実行したとして、それが成功する保証はどこにも無い。

 しかし、もしかしたら今よりはマシな状況になるかもしれなかったという想像は、フィンの心ににひたすら刃を突き立てる事となった。





  「ごめん……な…さい……シンヤ……さん……トルカ……ちゃん……ピス……さん…………ごめん……な……さい…………ごめ……ん……な……さ……い…………」




 薄れゆく意識の中、消え入りそうな声でフィンは呟いた。





 離れ離れになった仲間に懺悔を繰り返しながら。

 何もできなかった自分自身を呪いながら。

 この運命は自身への罰だと言い聞かせながら。










 ……………………





 ………………








 フィンが目を開けると、見知らぬ屋内にいた。

 身体を動かしてみると、異様に軽い。




 フィンは自身が死んだと思い込む寸前、着けていたはずの鎧と鎧下が取り外され、見慣れないゆったりした服を着せられている事に気付く。





「ここは……?」




 上体を起こして周囲を見回してみると、編み物をしている赤髪を一つ結びにした、40代前後の女性と目が合う。



「ようやっと起きたかい。調子はどうだい?」

「あの……ここは……」

「ここ? ここはアタシの家だよ」




 思ってたものと違う回答が来てきょとんとしているフィンを見て、赤毛の女性は質問の意図に気付く。




「……ん? あー、そういう事か。ここはセデム島の町、モリオンさね」

「セデム……モリオン……」




 フィンは赤毛の女性の言葉を 繰り返し、状況を頭に叩き込む。




「という事は……流れ着いたのは集の大陸……こんな形でも一応目的地には到着できた、ということかしら……」

「何だいボソボソ喋って。聞きたい事があるならハッキリ言っておくれよ」

「あ、いえ……今のは独り言ですので……」

「そうかい。で、調子の方はどうだい?」

「えっと……」



 フィンは自身の身体を動かして具合を確かめる。

 動かすと痛みが出る場所は無かったが、身体を動かすエネルギーが足りないような、全身がどことなくだるい感覚がフィンの身体を包んでいた。



「倦怠感を感じる事以外は特に異常はありませんね」

「そうかい。それなら、数日大人しくしてれば治るだろう。ずぶ濡れになってたアンタの服と鞄はベッドの横に置いといたからね」

「すみません、ありがとうございます……あっ、申し遅れました。私、シアルフィアと申します。フィンとお呼び下さい」


 余計な気遣いをしてほしくなかったフィンは、敢えて家名を名乗らず、自身が貴族の娘であることを伏せた。


「シアルフィア……ね、覚えたわ。私はアマンダ、事情は元気になったら聞くから、今は休むんだね」

「は、はい」




 フィンは再びベッドに身体を横たえた。






 天井を見つめながら、フィンは散り散りになった仲間のを考える。



 皆はバラバラになったのか、それとも自分だけが離れ離れになったのか。

 皆はちゃんと生きているのか。

 シンヤもトルカもピスも、自分ほど身体がタフではないからどこかで死んでしまっているかもしれない。




 だとすれば、自分が仲間を殺したようなものではないのか。





 フィンの脳内に、そのような考えが生まれた。




 唐突に生えてきたそれは、瞬く間にフィンの心に暗雲を生み、広げていく。



 フィンがいくら助ける事は出来なかった事を証明しようと脳内で弁明しても、もう1人の自分は言い訳だと全て切り捨てる。




 お前は人殺しだ。

 お前が守らないから大事な仲間は死んだのだ。

 騎士の風上にも置けぬ愚か者め。




 フィンは自分で自分を追い詰め、自ら不安を煽り立てる。


 それは臆病な性格と併せて、彼女が昔から持つ癖のようなものであった。



 どんな些細な事でも失敗に結びつけ、煽り立てる。

 お前は出来損ないの屑だと、行動を起こす、あるいは起こすのを躊躇する度にそう囁く。

 グループでの成功は自分以外のおかげだと言い、グループでの失敗はすべて自分のせいと言う。




 このように、ありとあらゆる形で自分の自尊心をへし折る、心の中に潜むもう1人の自分。






 それは決して悪い事だけではなく、誰に対しても礼儀正しい行動が取れるのも、増長せず謙虚でいられるのも、騎士学校時代に努力を惜しまずにいられたのも、その声が要因の1つであった。


 だが、他人の褒め言葉を素直に受け入れることが出来ず、自分を信じることも出来ず、行動を起こすのに二の足を踏む等、その声による失敗も少なくない。





 フィンはその声が大嫌いであった。

 だが、それを止める手立ては存在しなかった。


 生まれ持った資質は、そう簡単には変えられないのだ。






「腹は減ってるかい?」



 フィンが1人苦悶している中で、アマンダは食事を乗せたトレーを持った彼女の元へ現れた。





「え? あ、はい」

「ほら、食べな。おかわりもあるから、遠慮するんじゃないよ」

「ありがとうございます。では、いただきます……」


 トレーの上にあるのは、薄くスライスされ、バターの乗った黒パンと、野菜と豆の入ったスープ。


 漂ってくるパンとスープの香りに空腹を刺激されたフィンは、トレーを受け取ると早速食事に取り掛かる。





 パンもバターも、スープに使われた具材も、全てなんて事の無い、安い素材であった。豪華絢爛な食事をしていたわけではなかったが、カルネリアで生活していた頃の食事と比べれば素朴で貧相なものであった。




 しかし、空きっ腹はそのような事を感じさせず、意識を失っていたとはいえ久しく摂ってなかった食事に歓喜していた。



「どうだい? 味の方は」

「はい、とても美味しいです」

「そいつはよかった」



 下品な食べ方にならないよう気をつけながらも、フィンはパンとスープを頬張る。


 貧相ではあったが、カルネリアの屋敷での食事とも冒険者ギルドの食事とも違う、まさしく一般的な家庭の味といった具合の食事は、フィンにとって新鮮なものであり、美味しく感じられた。



「気持ちのいい食べっぷりだねぇ。おかわりはいるかい?」

「あ、お願いします」



 夢中で食事を取るフィンを見て、アマンダは微笑んだ。






 ……………………






 ………………





「ご馳走様でした」

「はい、お粗末様でした。いやぁ、アンタは本当よく食べるねぇ。作り甲斐があるってもんだ。うちの娘と違って好き嫌いもしない」

「娘さん、ですか?」

「今は外にいるけど、じきに帰ってくるさね。そういえば、アンタを見つけたのもあの子だったねぇ」

「そうだったのですか。後でお礼を言わなければいけませんね」

「そんなもん後でいいからさっさと寝て体力を回復させな」

「あっ、はい……」




 フィンはトレーをアマンダに渡すと、再びベッドに横になる。





 シンヤ達の安否や現在の状況を詳しく確認したいが、それは叶わない。

 万が一の事を考えると知りたくない気もするが、その選択権は自分には無い。



 試験の結果を待つような緊張ともどかしさを抱えながら、フィンは瞳を閉じた。







 ……………………







 ………………









 フィンが目を覚ますと、空には朝日が昇っていた。



 彼女の身体を包んでいた倦怠感はすっかり消え失せ、元通りの感覚が戻ってきていた。



「これならもう大丈夫かな……」




 フィンは軽くストレッチをして状態を確かめると、改めて周囲を見回す。


 薄明かりに照らされた室内はフィンにとってはやや狭苦しく感じられる広さで、簡素な木製のチェストには服がやや乱雑に収納されていた。





「私の鎧……」





 フィンは自身が身に纏っていた鎧を探す。


 鎧を装備する際に着る鎧下と魔法加工を行ったコート調の戦闘服、鎧着用の際の専用のズボン、普段着や寝間着、道具などを入れていた頭陀袋は、アマンダの言う通りベッドの隣に置かれていたものの、鎧も兜も籠手も膝当てもグリーブも見当たらない。




「アマンダさんに聞けば分かるかしら……」



 フィンはそう零しながら、自分が所持していた普段着に着替える。

 旅に出てから鎧を纏ってばかりで長らく袖を通していなかったそれは、フィンにどことなくカルネリアでの生活を思い出させた。


 着替え終わると、フィンは頭陀袋の中身を確認する。

 金銭はそっくりそのまま残っていたが、薬草等の使い捨ての道具類は8割が使えないほどに傷んでいた。




「やっぱり……」





 傷んだ道具を纏めて、フィンが頭をぶつけないように屈んで部屋を出ると、アマンダに遭遇する。



「ひゃっ!? ……あ、アマンダさんでしたか」

「何だい急に大声出して、驚かせるんじゃないよ」


 声を上げて驚きの表情を見せるフィンに、アマンダはやや呆れ顔で言った。


「すみません、驚いてつい……」

「それより、具合の方は大丈夫なのかい?」

「はい、お陰様で」

「そうかい、随分と回復が早いんだねぇ。今朝食の支度をするから、ちょっと待ってな」

「あ、あの」



 その場を立ち去ろうとするアマンダを、フィンが呼び止める。



「何だい、何かあるのかい?」

「その、私の鎧を知りませんか? 倒れていた時には着けていたのですが……」

「あぁ……鎧ね。防具屋やってるアタシの旦那の店だったはずだよ。後で娘に弁当持って行かせるから、その時についていけばいいさ」

「はい、分かりました」



 ……………………





 ………………





「あ、鎧のお姉ちゃん起きたんだ!」



 フィンがリビングで寛いでいると、赤髪の少女が彼女に声をかける。

 長い髪をポニーテールにした、12歳前後の少女であった。




「貴方は……」

「私エリダ! 貴方を見つけたのは私なんだから、いっぱい感謝してくれていいわよ!」

「はい、その節はとても感謝しております。貴方がいなければ私は今頃どうなっていたことか……」



 フィンがにこやか微笑んでそう言うと、エリダは一瞬照れて目を逸らすが、すぐさま両手を腰に当てて胸を張り、ふんと鼻を鳴らす。



「ふふふ、もっともーっと褒め称えてもいいのよ!」

「アンタは見つけただけでしょうが、馬鹿なことやってないで飯にするよ!」



 そこへ朝食の支度を終えたアマンダが現れた。



「はーい」

「フィン、アンタもあまりエリダを甘やかさないでおくれ。この子はすーぐつけ上がるからね」

「は、はい……」




 フィンの隣にエリダが座り、向かい側にアマンダが座る。



 屋敷とも酒場とも違う雰囲気での食事に、フィンは新鮮さを覚えつつも、妙に落ち着かない感覚を覚えるのであった。





「そういや、アンタは何で海岸に打ち上げられてたんだい? 難破でもしたのかい?」

「ああ、それはですね……いえ、それよりも一度、改めて自己紹介をさせていただきます。私は故あって冒険者をやっております、シアルフィアと申します。フィンとお呼びください。あれに関してはですね……」





 フィンは改めて自己紹介をし、依然身分は伏せたままこれまでの経緯とシンヤ達を探している旨を2人に話す。




「へぇー! じゃあフィンお姉ちゃんは勇者様の仲間なのー!?」

「はい、そうなりますね」

「すっごーい! かっこいいー!」

「勇者ねぇ……」



 目を輝かせるエリダに対し、アマンダはどこか懐疑的な目を向ける。




「勇者って言っても、最近はそういう風に名乗る輩が増えてるからねぇ……」

「そう……なのですか?」

「噂に聞いたってだけだからアテにされすぎると困るけど、最近いるんだよ。俺は勇者だーって感じの事言う奴ら。アンタが本物の勇者一行かどうかは知らないけど、そういう連中には気をつけるんだよ」

「はい、分かりました」



 アマンダの言葉に一抹の不安を覚えながらも、フィンは頷く。



「それで、アンタの仲間の事だけど……えーと、黒髪で鉢金巻いた男の子に水色の髪で赤と青の目の女の子、緑髪で背の高い男の人……だっけ?」

「は、はい」

「悪いけど、アタシはそういった人は見かけてないねぇ。冒険者ギルドに行けば、何か分かるんじゃないかい?」

「一緒に行こうよ! 案内してあげる!」

「いいのですか?」

「うん!」

「エリダ、食事が終わったらお父さんの所に弁当持って行ってもらうから、その時に案内してやりな」

「はーい!」


 エリダは元気よく返事をすると、急いで朝食を平らげた。



「エリダ、言っとくけどアンタは冒険者ギルドに入っちゃ駄目だからね」

「えー、何でー?」



 先程の元気のいい返事とは対照的な、不服そうな顔でエリダが答える。



「あそこは乱暴で野蛮な連中が多いからね。痛い目見たくないだろ?」

「でもフィンお姉ちゃんは優しいよ?」

「そりゃ育ちがいいからだろう。見りゃある程度は分かるものさね、でもそんな奴は稀だよ。フィン」

「あ、はい」



 育ちがいいという発言から自分が貴族の出身である事が見破られているのではないかと思案していたフィンは、アマンダの呼びかけによって現実に引き戻される。



「エリダが冒険者ギルドに勝手に入らないように見張っててくれるかい」

「分かりました」

「むー……」



 エリダはふくれっ面をしながら、パンの最後のひとかけらを口の中に放り込んだ。


 ……………………







 ………………







 朝食を食べ終えたフィンとエリダは、弁当を持って家の外に出る。



 モリオンの町の規模はベルデン王国の一般的な町に比べてやや小さいが、活気はそれなりにあった。


 エリダは自身の居住区である市民区画を抜け、冒険者区画へ向かい、フィンもそれについていく。




 町の中央に位置する広場には、領主と思われる、高貴な衣装を纏ったふくよかな男性の銅像があった。



「あれは……」



 フィンが銅像の台に刻まれた名前を読もうとする前に、



「フィンお姉ちゃーん! 早く行こう!」

「えっ!? あ、ちょっと……!」




 エリダはフィンの手を引いて、走っていく。

 フィンは名前を確認する事も出来ないまま、その場を離れる事となった。





 ……………………





 ………………




 冒険者用の施設が立ち並ぶ大通りにある防具屋の前でエリダは足を止めた。


「ここがお父さんの経営してる防具屋! フィンお姉ちゃんの鎧もここだよ!」


 エリダはフィンの手を引き、裏口へと回る。

 様々な用具が置かれた



「お父さーん! お弁当ー!」

「おおエリダ、いつもすまんな。そちらの方は……おや、ついにお目覚めなされたのですな!」



 緑色の角の生えた帽子を被り、赤い髭を蓄えた洞窟の民の男性が話しかける。



「あ、えっと……初めまして、シアルフィアと申します。フィンとお呼びください」



 フィンはぺこりと頭を下げる。



「これはどうもご丁寧に。私はガストールと申します。その様子だと、もう大丈夫なようですな。娘から話を聞いた時はびっくりしましたが、無事で何よりですぞ。鎧の方は……結構派手にやられてましてね。元の素材が良質なもんで直せそうではあるんですが、ちょいと時間がかかりそうです」




 ガストールは奥からフィンの鎧を持ち出す。


 原型は残っているものの、凹みや錆が各所にあり、そのまま使うにはあまりに頼りない状態だった。


 それを見たフィンは、解体するしかない程破損はしていない事に対して安堵したものの、その胸中は複雑だった。



「そうですか……その、費用は払い」

「おーい! 弟よ! こいつを見てみろ! 凄いだろう!」



 フィンの言葉を遮り、誰かが防具屋の裏口から入り、レイピアを見せびらかす。

 その人物はガストールと瓜二つであり、彼と色の違う赤色の角の生えた帽子が無ければ見分けがつかない程であった。



「なんだ兄貴、今取り込み中なんだ」

「ついに完成したぞ! お貴族様に献上する珠玉のレイピアがな! おっと客人がいたのか。これは失礼しました。お前先に言えよ!」

「言ったわ!」

「初めまして、ガストールの兄でここの隣にある武器屋をやっとりますアストールと申します。どうぞよろしく」



 怒るガストールを尻目に、彼とそっくりの男性は挨拶をする。



「えっと、初めまして、シアルフィアと申します。フィンとお呼びください」

「おや、もしやこやつの娘が見つけた騎士の方ですかな? 武器と盾は私が修理しております。ロングソードは終わりましたが、大盾とポールアックスはもう少しかかりそうです。手斧は……完全に破損していましたね。こちらで処分しておくこともできますが、どうします?

「そうですか……では、お願いします」


 手斧が破損し、フィンにとって精神の安定を保つ存在でもある大盾も修理中な事に、彼女は肩を落とした。


「ロングソードは後で店に来ていただければお渡しします。もし手持ちが無いなら、支払いは待ちますよ」

「いえ、資金は大丈夫です。後で伺いますね」



 自身の装備の多くが修理中という報告を受け、フィンはこれからの行動計画を練り直すべく頭をひねる。


「で、何の用だ兄貴」

「これを見ろ! 今度来訪される領主様の親友の息子ソロル・ウィーゼ様に献上する武器がな! ミスリル銀で作られた軽くて丈夫、魔法もよく馴染む刃! 造形に拘った持ち手! 完璧だろう!」

「馬鹿、親友の息子じゃなくて甥だ。何をどうやったらそう間違えるんだ?」

「あれ? そうだったか? まあいい、どうだ、この出来栄え」



 アストールの口から出た名前、ソロル・ウィーゼ。



 その名を聞いて、フィンは戦慄した。




「どうしたの、フィンお姉ちゃん?」

「え? いや……賑やかだなぁ、と……」

「うちのお父さんと叔父さんいっつもこんな感じなんだー」





 フィンにとってのソロルは騎士学校の同期であり、元婚約者であり、彼女が生理的に最も嫌う人間であったからだ。




 そんな存在であるソロルがこの地を訪れる。




 フィンの心臓は、人知れず早鐘を打っていた。







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