第六話
暗雲が立ち込める空に、稲光が走る。
「我の封印を解いたのは、貴様か?」
大空を覆い尽くすほどの巨大な龍。
「…………」
天を見上げて無言を返す黎深。
「………………」
「………………」
お互いに睨み合って無言を貫く黒龍と黎深。
「(いっやぁぁぁぁぁぁっっっ!!!
何でどうして何でっっ?!
何で黒龍登場っっ?!
僕まだ黎深になって数時間だよ?!
数時間で何で死亡フラグを回収しちゃうのっっ?!
展開が早すぎて吐きそうなんだけどっっ?!)」
白目を剥いて内心では阿鼻叫喚の大騒ぎな黎深。
「…………」
ギャーギャーと心の中だけで騒ぐ黎深を見詰めていた黒龍の目が細まる。
「っ……?!」
「……お前さー……」
再び眩い光が現れたかと思えば、一瞬で消えてしまう。
「……心と表情諸々が違いすぎねえか?」
光が消えたあとには、空を覆っていた巨大な黒竜の姿は掻き消え、黎深の前に漆黒の衣装を身に纏った美丈夫が一人。
呆れたように黎深の顔をまじまじと見つめて呟いた。
「なに?
最近の人間って皆こうなの?
心の声と外側が全く正反対なのが流行りなわけ?
俺、結構さー……長生きしてるけど、お前みたいに騒がしい心の声の持ち主と初めて出会ったんだけど?」
「っ……」
黒龍の言葉に黎深の目が微かに見開かれ、その脳内にゲームの記憶が土石流のように蘇った。
所々が壊れ、血が飛び散って汚れた玉座の間。
壊れかけた玉座を背に立つ、傷だらけの"黎深"。
「この私が負けるなどあり得ぬ!
私は……私こそが、神となるのだっ!」
黒龍の力が黎深の身体を取り巻いていく。
「兄上!もうやめてください!」
山吹の花のような黄色に、青空のような瞳の主人公・第三王子か叫ぶ。
「五月蝿い!
黒龍よ!私にもっと力を寄越せっ!!」
黎深の身体から立ち上っていく魔力が空気を震わせる。
「ハ、ハハハ……!
そうだ!もっと!もっとだ……がはッ……?!」
二度の戦闘を経て、傷付いていた黎深の身体にどんどん力が溢れていく。
あまりの充足感に恍惚の笑みを浮かべかけた黎深だったが、迫り上がってきた鉄の味に胸元を押さえた。
「兄上?!」
突然、胸元を掻きむしるように苦しみ、血を吐いた黎深に、第三王子が目を見開く。
「力が……力があふれて……止まらない?!」
メキメキ……と黎深の身体が音を立てて変形していく。
「兄上っ兄上……!」
「駄目だ!第三王子!」
黎深の苦悶の絶叫が響く。
「兄上ぇぇぇぇぇっっ!!!」
第三王子の目から涙が零れ落ち、悲痛な叫びが木霊する。
……そして、黒龍に魂を食われてしまった黎深は人の姿を失い、呆気ない死を迎えたのだった。
無表情かつ無言を貫く黎深の前に立つ黒龍は、その頭の中で再生された身に覚えのない映像に頬を引き攣らせる。
「おいおいおい、人間……何だよ、この記憶!
俺には全く身に覚えのない出来事なんだがっ!
つーか、こんなに人の世の中を引っ掻き回したら白龍にボコボコにされるっつーの!」
しかも、よくよく頭の中を覗いてみれば、記憶の中の黒龍のために人間達の街が二桁ほど焼け野原になっている。
「お前ね、俺はおやつ程度に負の感情を摘むのが好きなんだよ!
どんな好物でも、街を焼け野原にした重すぎーる、濃ゆすぎーる負の感情を二桁も喰ったら腹いっぱいになるだろーが!
どんなモンでも、食べ過ぎ注意!
吐きそうなくらいに喰ったら、龍だって腹を下しちまうだろ!」
「(なんで……ゲームのこと……え、心を読まれてる……?)」
「まー……何万年単位で龍なんかやってるとな、人の頭の中くらいなら読めるようになっちまうと言うか……なあ?
つーか、マジでお前さ、心の中は大人しい?気が弱い?
そんな感じなのに、外見は鉄仮面並みの表情の無さって……ヤバくね?」
繁々と黒龍は、黎深の中にある魂を観察して首を傾げる。
「てゆーか……お前、他の世界からの流れ者の魂か?
何百年に一人くらいいるんだよなぁ……他所の世界から間違って流れて来ちまう奴。
ぶっちゃけ、お前……運悪いだろ?」
耳の穴をほじりながら面倒そうな黒龍。
「(うわぁぁぁぁん!!
やっと僕の気持ちを勘違いしないで会話できる人に出会えたよぉぉぉっっ!!!)」
「あ?
人間じゃねーし、龍だし。」
心の中で大号泣する黎深に、呆れたような視線を向ける黒龍はちょっとだけ困ってしまう。
「おいおい、落ち着けって……。
あぁ、まぁ……お前も苦労したんだな、どんまい。」
ますます泣き出した黎深に、黒龍は困り果てて一つの提案を思いつくのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




