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落馬して前世の記憶を取り戻したラスボス第二王子は、死亡フラグを折ったら兄弟妹に執着されました?!〜原作ゲームはもう当てになりません〜  作者: ぶるどっく
第二章 広がる波紋と堕ちた虎

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第五十五話



「(は、ははははいっ!!)」


「そう、緊張なさらなくても、取って喰いは致しませんわ。」


 クスクスと微笑む白龍に、黎深は固まってしまう。


「そうですわね…………今日は天気も良いですし、お茶でも如何かしら?

 妾は、工芸茶に嵌まっていますの。」


「(……工芸茶……?)」


「ふふ……実物を見た方が素敵ですわ」


 白龍が微笑み、手を叩けば、何処からともなく湯呑みや急須一式が現れる。


「(え……何処から……?)」


「細かいことは、気にしては負けでしてよ」


「(は、はあ……?)」


 心の中で戸惑う黎深の気持ちを読み取りながら、白龍は楽しそうに笑う。


「さあ、しっかりとご覧なさい」


「…………?」


 透明な湯呑みの中に丸い何か。

 その丸い何かへとお湯を注げば……湯呑の中で、美しく花開く。


「(わぁ…………丸いのは、蕾だったんだ……)」


「素敵でしょう?

 味覚、嗅覚、そして視覚でも楽しめるお茶。」


 お湯の中で花開いた蕾、その花の美しさに黎深は微かに口元を緩ませる。


「……お湯を掛けるまでは黒っぽくて丸いだけの何か。

 工芸茶を知らない者から見たら、きっとお茶だとは思わないでしょう。」


「(……確かに。

 僕も、こんな素敵なお茶は初めて見ました。

 お湯の中で揺らめいて、とても綺麗です……)」


「そうでしょう。

 知らない者達から見たら、お湯をかける前の丸い蕾は無価値だわ。

 でも……お湯を掛けた後の美しさを知る者にとっては、とても価値のあるお茶。」


 湯呑から視線を上げた白龍が、黎深へと優しく微笑む。


「人の心も同じですわ。

 蕾の状態では何もわからない。

 でも、言葉を交わし、想いが交われば、きっと美しい花を咲かせますわ」


「……それ、は……」


 白龍の言いたいことを何となく察した黎深が、何かを言おうとして口を開いて、閉じてしまう。


「もちろん、赤い花を想像していたのに、白い花だったということもあるでしょう。

 ですが、赤い花なのか、白い花なのかは、蕾が開いてみないと誰にもわからない。」


「…………」


「美しい花には棘がある。」


 湯気が昇る工芸茶を前に座る黎深に、白龍は一輪の白薔薇を差し出す。


「己を守るために茨を纏う花もまた美しい。

 ですが、己と他者を傷付ける茨ならば、少しだけ手入れをしても良いかもしれませんね。」


「…………」


「少なくとも、黒曜は貴方のことを放っておけないようですわ」


「(……黒さんが……?)」


「ええ。

 だって、長い時の中で貴方ほど黒曜に気に入られた人間は居ませんもの。」


 自然な仕草で黎深の髪に白薔薇を挿した白龍。


「覚えておきなさい、人の子よ。

 貴方が望むならば、逃げても良いのです。

 すべてを忘れ去り、妾と黒曜の雛として生まれ変わり生きる道も有るのですよ」


 甘い香りが立ち込める。

 黎深の思考を絡め取るように、甘い香りが眠りへと誘っていく。


「(……ひ、な……?)」


「ふふ……頑是ない人の子よ。

 今は静かに眠りなさい。」


 ゆっくりと傾いて行く黎深の身体を、白龍が危なげ無く受け止める。


「おやすみなさい、黎深。

 どうか、良い夢を……」


 細身の体からは想像もできない力で黎深を横抱きにし、白龍は東屋より姿を消すのだった。







「……酷い目にあった……」


 崩れ落ちた修練場の真ん中で、所々汚れて草臥れた凌善が天を仰いで呟く。


「……すまない、凌善……。

 少しばかり……我を忘れてしまっていた……」


「いえ……ご無事でなによりです、碧雲様……」


 凌善の隣には、何処か気不味そうな碧雲が叱られた子供のように体を小さくしていた。


「凌善さん!

 兄上に無礼を働いた輩は、何処ですかっ?!

 僕はまだ百足の大群をけしかけていません!!」


「黄河様っ!マジで勘弁してくださいっ!!

 草臥れ果てたおっさんには、黄河様の闇落ちに突っ込む気力はゼロですからっっ!!!」


 呪符を構えて殺る気満々の黄河が、瓦礫の下を覗き込んで動き回る。


「「っ……」」


 碧雲だけでなく、黄河の怒りまで買ってしまった近衛兵二人がビクリと震えて視線を逸らす。

 

 ……だが、そんな凌善に、いや、碧雲を含む崩壊した修練場に居る者たちの頭上に暗雲が立ち込める。


「っ?!」


「……デカいのが落ちましたね……」


 激しい雷鳴が轟き、青白い雷が落ちた。


 暗雲が坂巻き、烈風が吹き抜ける。


 あまりの強い風に腕で顔を覆えば、天を覆い尽くさんばかりの漆黒の龍が雲の合間から姿を現した。


「ひっ……なっ、なんだ……アレはっ……?!」


「黒い……龍……」


「龍神様……っ……」


 苛烈な神気を纏う神々しさと、恐怖と紙一重の奇跡の降臨に、人間たちはざわめき、平伏する。


「……え……黒龍様……?」


「第三王子っ……!」


「ちょっ!黄河様っ!

 頭を下げてっ!平伏してっっ!!」


 天にトグロを巻く黒龍を、ポカンと口を開けて見詰める黄河を両側に居る碧雲と凌善が引っ張り、頭を下げさせる。


「黒龍様っ!

 黎深兄上を知りませんか!

 仔細はわからないのですが、兄上に無礼を働いた阿呆が居るみたいなんです!!」


「第三王子っ?!」


「アンタ、何やってんですかっ?!」


 無理やり頭を下げさせようとする碧雲と凌善の腕を振り払い、黒龍に向かって黄河が叫ぶ。


『……我が契約者のことならば知っている。

 我が番である白龍と共にある。』


「白龍、さま……?

 黎深兄上が無事ならば良いです!

 あれ……でも、今日は何で大きな龍の姿なのですか?」


「「っ?!」」


 普通に黒龍も会話をしている黄河に、そして黒龍が黎深を契約者と言ったことに碧雲と凌善は目を見開き動揺する。


「黒龍様!

 上を見上げて喋るのは、首が疲れるので人間の姿になってもらう事ってダメですか……?」


「黄河様ぁぁぁぁぁっっ?!

 アンタっ!なんて命知らずな……!

 龍神様を相手に何を言って……」


『あー……しょうがねえな』


「は……?」


 眩い光が辺りを覆い尽くす。


「たくっ……!

 格好良く決めようとしてんのに、マイペースというか、なんつーか……。

 やっぱ、黄河お前って黎深の弟だよなー」


 光が収まれば、夜の闇を集めたような艷やかな漆黒の髪、褐色の肌の美丈夫が口角を上げて微笑んでいたのだった。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。

最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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