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落馬して前世の記憶を取り戻したラスボス第二王子は、死亡フラグを折ったら兄弟妹に執着されました?!〜原作ゲームはもう当てになりません〜  作者: ぶるどっく
第二章 広がる波紋と堕ちた虎

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第五十三話



 修練場から第四王子が走り去ったあと。


「あれ……黎深?」


 現れたのは、王太子・碧雲。

 そして、碧雲の近衛兵達だった。


「君も、鍛錬に来たのかい?」


 黎深に会えたことが嬉しいのか、微笑む碧雲。


「…………王太子殿下。

 (え゛……なんで、このタイミングで王太子殿下?)」


「あ゛ー……タイミングが良いのか、悪いのか、分かりゃしねぇな。」


 心の中で微妙に嫌な顔をした黎深に、黒龍は苦笑する。


「机の前に座ってばかりだと、身体が固まって痛くなってしまうよね。

 だから、体を動かしたくなる気持ちは私にもわかるよ。」


「……否定は、しません。

 (年寄り臭い考えかと思ってたけど、王太子殿下も同じかぁ……。

 ちょっとだけ、安心したかも……)」


 現代日本と違ってクッション性のない椅子に腰掛け、長時間執務をする。

 まだ若いとはいえ、疲労が溜まるのは碧雲も同じだと知った黎深が心の中で安心したように微笑む。


「そうだ……!」


 穏やかに会話を交わしていた碧雲が、何かを思い付いたように表情を輝かせる。


「黎深!

 もし良かったら、私と手合わせでもするかい?」


「(えっ?!

 手合わせって……王太子殿下と剣道の試合みたいなことをするってことっ?!)」


 いや、無理っ!

 黎深は心の中で叫んでしまう。


「ふふっ!

 黎深、君と手合わせができるなんて……何年ぶりだろう?」


 心からワクワクと嬉しそうに笑顔を浮かべる碧雲は、まるで子供の頃を思い出しているようだった。


「…………」


 その碧雲の笑顔は、黎深の目から見ても心から嬉しそうで……。

 

「(……王太子殿下は……僕と試合をするのが、嬉しいって……思ってくれているのかな……?)」


「だな!

 良かったじゃないか、黎深。

 ……前にチラッと言ったけどさ、お前は兄貴に嫌われてねぇぞ。」


「(……うん。

 黒さんが、そう言ってくれるなら……ちょっとだけでも、信じてみようかな……)」


 ……もう一度。

 もう一度、手を伸ばせば……仲違いしていた兄と、昔のように仲の良い兄弟に戻れるだろうか……?


「…………王太子殿下…………兄上、私も……」


「なりませんっ、王太子殿下っっ!」


 碧雲へと言葉を返そうとした黎深の声に被せるように、遮った近衛の強い声。

 

 同時に、碧雲と黎深の間を叫んだ近衛兵が遮るように割り込む。


「事故に見せかけて怪我をされたら何とします!」


 別の近衛兵も、立て続けに叫ぶ。


「(僕は…………)」


 ――背中に氷塊が落ちた。


 春の日向のような淡い温もりが、吹き飛ばされた。


「…………」


 時が止まったかのように、周囲が静まり返る。

 

「……興が削がれた」


 静寂を切り裂いた黎深の温度を失った声。


 黎深の瞳に灯りかけていた希望が、音を立てて再び凍り付く。


「っ……黎深っ……!!」


 怒鳴ることもせず。

 責めることもせず。


 ただ静かに、踵を返した黎深にハッとした碧雲が悲痛な声で、その名前を呼ぶ。


「……っ……れい、しん……!」


「殿下!危険です……!」


 しかし、碧雲の声に応えることも、振り返ることもせずに黎深は立ち去ってしまう。

 そんな黎深を追いかけようとした碧雲の前に近衛の一人が立ち塞がる。


「っ……………だっ……」


 黎深を追い掛けようとした碧雲を止めるために立ち塞がった近衛兵の肩がビクリと揺れる。

 

 震える程に拳を握り締めた碧雲の、怒りを隠そうともしない瞳に気圧された。



「……っ……誰、だ…?」


 少なくとも二人。

 目の前に立ち塞がった近衛と、もう一人違う声がした。


「……もう一人は、誰だ?」


 碧雲より湯気のように立ち上る怒り。

 

 ビシビシと空気が揺れ、火花が散る。


「で、でんか…………?」


 碧雲を中心に魔力の嵐が荒れ狂い始め、世界が揺れる。


「今、誰が私の大切な弟を侮辱したかと聞いているのだ……!!」


 髪の毛を逆立て、ブチ切れた碧雲の放った魔力が修練場の天井を吹き飛ばす。


「お止め下さい、王太子殿下っ……!」


 慌てた近衛兵達が碧雲を諫めようとする。

 ……だが、頭に血が上った碧雲の暴走は止まらない。


「碧雲様……!」


 その時、近衛兵達の一人が呼びに行った凌善が、修練場へと駆け込んで来た。


「ぐっ……碧雲様っ……!」


 鎌鼬のような魔力の嵐。

 その激しさに凌善は腕で顔を覆う。


「王太子殿下……?」


 偶然というには微妙だが、白虎団の件で一緒にいた黄河もまた修練場に駆け込み、その惨状に絶句する。


「いったい……何が……?」


「理由なんてどうでもいい!

 そんなことよりも、碧雲様を止めなければ……!」


 吹き荒れる魔力を帯びた烈風。

 険しい表情をした凌善に、黄河も気持ちを引き締める。


「碧雲様っ!

 お気をお鎮めくださいっ!!」


「五月蝿いっ!

 やっと、やっと!

 黎深が、私のことを兄と呼び、手を伸ばしてくれようとしたのにっ……!!」


 十年間もの長い月日を擦れ違っていた弟が、やっと碧雲に手を伸ばしてくれようとしたのだ……!


それを…………それをっ!!


「………………は?」


 低い声。

 

「黎深兄上に何かあったんですか?」


 まるで地獄の釜の蓋が開いたように、ものすごく低い声が凌善の側から聞こえた。


「あ゛……」


 凌善の顔が引き攣る。


「(しまったぁぁぁぁぁっっ!!

 第二王子案件で即闇落ちする爆弾王子が居たんだったぁぁぁぁぁっっ!!!)」


 前門の虎、後門の狼。

 

 魔力を暴走させる碧雲と光を失った瞳で呪符を構える黄河。


「あ゛ぁぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 近衛兵達の悲鳴が響き渡り、修練場が激しい音を立てて崩れ落ちるのだった。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。

最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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