第四十七話
「それで、第三王子殿……黄河様、何に気が付かれたのですか?」
凌善の執務室の机いっぱいに広がった木簡の山。
「白虎団に関する担当部署が分からない僕に、どの部署に行けば良いか教えて下さったでしょう?」
「あ、はい……って、まさか……!」
「はい!
早速、王太子殿下に頂いた社会科見学の許可証を持って、この数日間で見学をさせて頂きました!」
「……………」
何という行動力だ……!と、頭を抱える凌善。
担当部署の役人達も、王太子殿下のお墨付きを持った第三王子に突撃されてビックリ仰天だったろうな……と、遠い目をしてしまう。
「それで!
幾つか気になった資料の写しを貰ってきました!」
「……気になったこと、とは?」
王太子・碧雲に貰った幾つかのバツ印が付いた王国の地図も広げ、指差しながら黄河は話す。
「判明している限りで、最初の犯行現場は此処です。
この地方で、恐らく白虎団は結成され、月に一度の配分で三回ほど盗みを働いています。
手口としては、盗みに入った貴族の家の当主が鍵を出せと脅されたことくらいでしょうか?
蔵の鍵の在処を知っていた時も有るみたいです。」
「月に一度……下見を丁寧に行って、余計な犠牲者が出ないように配慮しているって感じですね」
はい!と元気に答えつつ、黄河の言葉は止まらない。
「そして、徐々に移動をしつつ……一つの街で一件か二件。
バツ印同士の間で移動に必要な時間も教えて貰いました!
その移動する時間を差し引いて、犯行と犯行の間にかかる時間は、二十日から三十日ほど。」
「移動しつつも、下見は変わらずに丁寧に行なっている。
……つまり、この時点ではまだ義賊を称する白虎団らしい盗みの手口だった。」
黄河の説明を聞きながら、凌善も違和感を覚えていく。
こんなにも、犠牲を出さないように下見を重ね、丁寧に仕事をする盗賊が、逃げるためにと火を放つだろうか?
「……様子が変わったのが、王都に近付いてからです」
王都に入る直前。
一番近場で起こった白虎団の盗み。
「この時に盗みに入られた貴族の屋敷の使用人が、刃物で脅されています。
偶然、夜中に目を覚まして白虎団に出くわしてしまった使用人が、姿を見られたからと殺されそうになりました。」
「それは……今までの白虎団の手口に合わない展開ですね」
「はい。
でも、その使用人を殺そうとした白虎団の団員に、別の団員が声を荒げて止めたそうです。
盗みを働いても、人を傷つけるな!と。」
「……第二王子殿下の言う泥水が混じった。
そして、その泥水は未だに除去されていない。」
凌善は、合点がいったと眉を寄せる。
初期の段階は志が同じ、生まれ故郷も同じ者たちが集まって結成された白虎団。
……だが、王都を目前にして異物が混じった。
その異物は、初期の仲間たちと違って、他者を傷付けることを厭わない。
「しかも、王都に入ってから既に四件の盗みを働いています。
王都に一番近い場所で起こった盗み。
その日付から逆算して、王都に入ったであろう時期から二カ月で四件の盗みを働いたことになります。」
「今までの丁寧な下見をしていないから、手口が荒くなる。
手口が荒くなれば、ボロも出やすくなる。」
丁寧に下見をしていないからこそ、逃げる際に不手際が起こった。
「……その結果が、数日前の付け火ですか」
そして、逃げるためにと付け火という凶悪な手段を用いた。
「今の白虎団の中には、義賊と凶悪犯が一緒にいる。
それは……とても、危険な状態だと思います。」
眉を寄せ、難しい表情を浮かべた黄河は、白虎団の次なる動きを読もうと、地図を見詰めるのだった。
同時刻。
「やっと現れたな、お前らっ!!」
王都に入ってから白虎団が根城にしている古い屋敷。
枯れ木や枯れ草、ヒビ割れた塀。
欠け落ちた瓦屋根にすら、草が生えている。
「あの時に何で火を付けたんだっっ!!」
不貞腐れた雰囲気で現れた三人の男たち。
屋敷にいた頭を含む七人の白虎団員達が、男達へと冷たい視線を向ける。
「何とか言いなっ!」
その三人の男達に向かって、噛み付くように叫ぶのはツリ目をより吊り上げた春だった。
「っ……しょうがなかったんですよ!」
「何がしょうがないだっ!
火を放つなんて、やり過ぎだろっ!!」
「じゃあっ!
仲間の俺たちが捕まっても良かったってことですかっっ!!」
男達の一人が言い返せば、そうだそうだと他の二人も囃し立て始める。
「っ……それは……」
一応なりとも仲間である男達に捕まれば良いとも言えず、春は一瞬だけ怯んでしまう。
「冷てえよなぁ……」
「俺たちのことなんて、どうなっても良いってことかよ!」
「どーせ、元々のお仲間さえ無事ならそれで良いんだろ、おジョー様?」
ゲラゲラと嗤う男達に、春の頭に血が上る。
「おまえっ……」
「おい」
「「「っ?!」」」
低い男の声に、空気が変わる。
「お前ら、俺等が義賊を掲げてんのは分かってんだろうな?」
「っ……じょ、冗談っすよ!」
「そうです、お頭っ!」
「俺たち、自分らが悪かったのも、ちゃんと分かってますって!」
ギロリと睨めつけた頭の声に、嗤っていた男達が背筋を伸ばす。
「今回の仕事で、女を甚振ろうとした野郎がいるらしいじゃねえか。」
筋肉質で大柄な頭が、ズシリズシリと男達へと近付いて行く。
「ひっ……」
「きっ貴族への恨みを晴らしたくて……」
「そっそうなんです、グホぉっっ……ゲぇッ…っ……」
ヘラリと笑って誤魔化そうとする男達の一人の腹に、頭の拳がめり込む。
「恨みを晴らそうとして、仲間を危険に晒すんじゃねえぇっっ!!!」
落雷のような声が轟く。
竦み上がった男達が、数歩後ず去る。
「次はねえぞ、お前ら」
コクコクコクコク……と首振り人形のように頷く男達を、もう一度睨んだ頭は背を向ける。
男達を残して屋敷の中に入って行く頭達の背中を見て、残された男達の目に逆恨みのような光が宿るのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




