第四十五話
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玉座の間での閣議のあと。
宮廷のとある一室に、名だたる名家の当主達五人の姿があった。
「此度の閣議、陛下は思い切ったことを為さいましたな」
威風堂々とした佇まいの凪いだ海のような男。
張家当主・玄淵。
碧雲と黎深の生母であり、王妃の兄である。
「そうですねえ。
私も、驚きは致しましたが……妹の、王太子妃の一件を考えれば、不思議ではないかと。」
王太子妃、玉葉の兄であり、孫家当主・景和。
穏やかな春風のような佇まいな柔和な青年が微笑む。
「まったく……!
第三王子の侍従の件は、どうでも良いっ!
だが、この時期に後宮の整理を始めるとはっ!」
とんだ誤算だ!と、苛烈な空気を纏う鋭い目つきの男が、苛立たしそうに吐き捨てる。
火のように激しい気性を持つ一族、麻家当主・炎嶽。
「おやおや……だからこそ、では?
数ヶ月前でしたか?
第三王子相手に大騒ぎを起こした者がいましたから。」
「……何が言いたい、張家当主殿。」
「言わねば分からぬとは…………王家の序列を騒がせないで貰いたいものだ。」
やれやれ、と言った風情の玄淵の言葉に、炎嶽から怒りが立ち上る。
「……序列!
序列を言うならば、我が一族は騒がしてなどおらぬ!
側室は、一族に利益をもたらすことの無い捨て石ぞ!
あのような身の程を弁えぬ捨て石は、我が一族では無いっ!」
「麻家当主殿……!
いくらなんでも、そのような言い方はあまり……」
炎嶽の言葉に、景和の眉間に皺が寄る。
「はっ!
捨て石を捨て石と言って何が悪い?
相変わらず、中立気取りの孫家はお優しいことだ!」
嗜めるような景和の声を弾くように、炎嶽が鼻で嗤った。
「孫家が優しいのではなく、麻家が野蛮なのでは?」
「牛歩な張家に言われる筋合いは無い!」
睨み合う玄淵と炎嶽の様子は、まるで激しい火花が散っているように剣呑極まりないものだった。
「うぅむ、相変わらずよのう……麻家と張家は。
犬猿の仲、水と油と言うか……いい歳をした大人同士、もーちょっと落ち着けんもんかのう。
……そうは、思わんか……馬家よ。」
仙人のような特徴的な眉毛を持った夏侯家当主・雄大が、ふぇふぇふぇっ!と笑う。
「夏侯家当主殿……私に言われましても、困ってしまいますな」
そんな雄大に話を振られ、苦笑するのは淑芳の父である馬家当主・徳祐。
「困る……ああ、困ると言えば、馬家当主殿は御息女の縁談こそ、お困りなのでは?
第二王子殿下に、婚約を白紙に戻したいと衆目の面前で言われておりましたからな」
「そうですな…………ほとほと、困っておりまする。
有難いことに娘を是非にと、次々と縁談の申し込みが舞い込み、どの良縁を選ぶべきかと迷っておりますからな」
雄大に水を向けられた徳祐に対し、炎嶽が嘲笑うように告げる。
だが、徳祐は感情を表に出すことなく受け流す。
「そうじゃ!
馬家の、儂はお主に聞きたいことが有ったのじゃ!」
「聞きたいこと、ですか?」
「うむ!
第二王子殿下と御息女の縁談に関しては、誠に残念であったとは思うのだが……」
長い眉に隠れた目を光らせ、雄大が切り込む。
「……第二王子殿下の女子の好みは知っておるか?」
『っ?!』
雄大の言葉に、徳祐以外の当主達の目も光る。
「女人の好み、ですか……。
それは、何とも分かりませぬ。
私とて、あの御方と言葉を交わす機会は多くありませんでしたので……」
「ふむぅ……此度の閣議での陛下と王太子殿下の御言葉。
どうも、御二人は第二王子殿下の立場を改善させたいようじゃ。
そうなると……我が家も……」
当主達は、その脳裏に第二王子・黎深の姿を思い浮かべる。
近寄るもの全てを冷たく睥睨し、鋼鉄の槍よりも鋭い言葉で心を抉る。
だが、黎深が執務を辞退した途端の宮廷の大混乱を見れば、その能力の高さは一級品以上。
「……王太子殿下の右腕のような存在として辣腕を振るうならば、第二王子殿下の重要性は増すばかり。」
ボソリと呟いた玄淵の言葉、この場にいる当主達全てが頷くものだった。
「……そんな第二王子殿下には、直属の臣下も、婚約者の席さえ空席……」
景和は自分で言葉にした内容に、微かに眉を顰めてしまう。
噂は噂でしかない可能性はある。
だが、野心家だという第二王子の直属の臣下や妻の座を、欲深い者が得たならば……
「くく……第二王子の婚約者の空席は、麻家の娘で埋めさせて貰う」
「いーや、此処は夏侯家の娘を是非にと陛下に進言しておるからの」
現王の王妃は、張家出身。
次期王の王妃になるであろう現在の王太子妃は、孫家出身。
王妃や王太子妃には劣るものの、現王と次期王の信頼厚い重要な人物となる可能性の高い第二王子・黎深の正妻の座。
「(……あの分家筋の愚か者め……!
アヤツが陛下の寵愛を得れぬばかりか、たった一人だけ産んだ麻家の血を引く唯一の王族の立場を悪くさせるなどっ!)」
炎嶽は心の中で荒れ狂う怒りを何とか抑え込む。
王妃や側室が産んだ四人の王子達。
他に妾妃が産んだ子はいるが、女ばかり。
この国の王位継承権は、女より男が優位。
そして、生まれた順番に王位継承権は与えられて行く。
「(……王太子、碧雲殿下の子供が産まれるまでの繋ぎとして、第四王子だけでは心許ない。
宮廷への一定の影響力を確保するためにも、第二王子の正妻と直臣の座は、必ずや確保する必要がある……!)」
そう考えるのは、己だけでは無いだろうが……と、思考を巡らせつつ炎嶽は、今後の動きを頭の中で計算するのだった。
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