第四十四話
凌善に口を出すと伝えて、二日ほど経った玉座の間。
「(……ねえ、黒さん)」
「おー?」
「(……何でさ、朝一番の定例会議みたいなやつに、僕が出席しなきゃなのかな……?)」
「あー……どんまい?」
心の中で死んだ魚のような目をした黎深が呟く。
「(何でっ?!
僕なんかやっちゃった?!
迷惑を掛けないように宮廷の端っこにあるオンボロな離宮で、隅っこ暮らしをしてるだけだよっ?!)」
居並ぶ高官達の視線をビシビシと感じながら、何故か素敵な笑顔の王太子・碧雲の横にスタンバイな黎深。
しかも、逃さないとばかりに碧雲が、黎深の服の端を掴んでいる。
「つーか……アレか?
なんか、おっさんおっさん言ってる人間に頼まれたヤツが原因か?
俺、昼寝してたからよくわかんねーけど。」
「(っ……ソレかぁぁぁぁぁっっ!!)」
ヤル気のなさそうな黒龍の指摘に、心の中で頭を抱えて天を仰ぐ黎深。
「(変な仏心を出さなきゃ良かった……!!
僕にはどうしようもないことのオンパレードなんだから、自分から死亡フラグを引き寄せてどーすんのっっ?!)」
心の中で七転八倒の大暴れでも、全く顔面には影響しない黎深の身体。
「マジで、だるっ……。
なんだろーな、お前の記憶にあったけどさー……ジジ臭え校長とか言う奴の、クソ長え話を聞いてて白目で眠る学生な気分。
起承転結も、山も落ちも無い話ほどつまんねーもんって無いよな。」
「(いやいや、黒さん。
比べる相手を間違ってるから。
高校の頃のオジジな校長先生と、一国の王様を比べちゃ駄目な奴だから。
あ……でも、立って白目で眠るのが得意だった田中君、元気かなぁ……)」
「あ……コイツ、現実逃避を始めやがった。」
心の中で遠い目をする黎深の肩に乗った黒龍が、確りしろよとばかりに尻尾で叩く。
「…………して、今回の閣議で最後の議題なのだが……」
黒龍と黎深が会話を交わしている間に、閣議はどんどんと進んでいき、議題は残すところ一つになっていた。
「お!黎深!
なんか、髭を剃ったら絶対に童顔っぽい王冠被ってる奴が最後って言ったぞ!
ぶっちゃけ俺は、あの童顔っぽい奴の隣にいる渦巻き髭が気になる!
アレは天然のヒゲなのか?
それとも、毎朝自分でくるくると巻いてんのか?
いや……あの渦巻き加減は、夜に円柱形の何かにセットして寝てんのか?」
「(ぶふっ……!)」
一瞬、噴き出しそうになった黎深。
「(黒さんぅぅぅぅ!
笑ったり出来ない場面で、笑いそうなことを言わないでぇぇぇぇぇっっ!!)」
「えー……いやだって、気になっちゃったんだもん」
「(キュルンと可愛いお目々で、素敵なポーズで誤魔化そうとしてもダメだからね!)」
「ちえー」
そんな漫才のようなやり取りをしていても、閣議は進んでいたりする。
「……こ…度の…太子妃…一件を通…て、余…痛感し……だ。
王族と……の義……果たそう…、誰……信じ…貰え……も、大切…兄のた……動いた第二王子、いや黎深!」
「(えっ?!何??
ごめんなさいっ!全然、聞いてなかったです!!)」
黒龍とのやり取りに意識が向いていた黎深は、急に国王・法翔から名前を呼ばれ、内心は飛び上がって驚く。
「黎深よ……余は、ずっとそなたのことを誤解しておったのだ。
だが……そなたは、余が想像していたよりもずっと兄思いの良き弟であり、誇り高き王族の一人であった。」
「………………」
え、誰のこと?
良き弟とか、誇り高い王族って……急に何を言ってるの??
黎深の頭を疑問符が埋め尽くす。
「恐れながら、陛下!
先日の一件を通して、私と黎深の間に有りました誤解は解消され、幼き頃のように手を取り合い、仲睦まじく国のために尽くすと誓い合うことが出来ました!」
「(え゛っ?
誰が何時っ?!そんな話をしたっけ?!)」
そうだよね、黎深!とキラキラと輝く笑顔を碧雲に向けられて、心の中で黎深はスンとなる。
「約十年の時を経て、兄弟の絆を取り戻すとは僥倖なり!」
大袈裟な仕草で深く頷き、微笑んだ法翔。
「黎深よ!
余も、王太子も、そなたのことを心より信頼しておる!
そなたは、己が不徳と申しているが、余達にとって、そのような事実は毛頭ない!
ゆえに、謹慎などに及ばず!」
「……陛下の御言葉、有り難く。
しかし、己は王太子殿下と違い、人望が有りませぬ。
行く行くは、大きな問題となる可能性が有るならば、己のような取るに足りぬ存在など、早々に退散する方が国のためでしょう。」
いや、無理があるよね?
そう思うのは、僕だけじゃないよね?!
突っ込みたい部分は多々有れど、玉座の間という場で死亡フラグを量産したくないと黎深は思う。
「なんと……!
国の将来を見据えての自己犠牲に溢れる言葉の数々!
余は、感動した……!」
「(え……すみません。
自己犠牲というよりは、自分の保身が優先の言葉です……)」
「黎深……!
己が傷付いてなお、他者を、国を思いやることが出来るなんて……!
君こそ、真の仁徳の持ち主だよ……!」
「(いや……仁徳の君って言われている人に言われても……。
それに、なんか……大袈裟に言ってるけど、もしかして執務に戻ってほしいだけだったりする……?)」
なに、この混沌。
状況に付いて行けない……と、黎深は明後日の方向を黙って見詰めるのだった。
そして……そんな黎深に視線を向ける主だった貴族の家の当主達。
新たな思惑が、次なる出会いを呼び込もうとしていたのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




