第四十二話
「この者!
双龍天華国を騒がせし、盗賊団一味の頭なり!
義賊などと嘯き、万民を混乱させ、惑わした大罪赦しがたし!」
格子状に作られた木の柵の中。
柵の真ん中に立てられた木の杭に、張り付けにされた一人の男。
「…………」
処刑場の中央で、張り付けにされた男が周囲を見渡せば…………柵の向こうに一人の少女の姿が見えた。
「(…………春)」
「っ……ぅ……」
泣きそうな顔で唇を噛み締め、今にも飛び出しそうな少女を両脇の男達が必死に止めていた。
「(……千と秀が居るなら、大丈夫だ……)」
春を含む三人以外、罠だった貴族の屋敷の庭で斬り殺されるか、拷問の末に死んだ白虎団の仲間たち。
「……よって!
此処に偉大なる陛下の名の下に、残忍極まりない盗賊団の頭を死刑に処す!!」
静かに目を閉じる。
身体を突き抜ける何本もの刃の感触。
口へと迫り上がって来た鉄の味。
最期に見えた光景は…………必死の形相の最愛の娘。
「アタシ達は、強欲な貴族どもに産まれた時から奪われ続けたっ!
腐った貴族の機嫌が悪かった!
ソレだけの理由でアタシを庇って死んだ母!
義賊として貧しい人達に貴族から奪った金をバラ撒いたことで処刑された父!」
短い髪を風に靡かせ、怒りのままに叫ぶ女。
「肥え太った醜い貴族どもから奪って何が悪い!
アタシ達も奪われたんだっ!
だから、今度はアタシ達が奪うのさっ!!」
ゲームの主人公である第三王子に向かって叫ぶのは、二代目白虎団の頭である"春"。
その両脇に従うのは、男が二人だけ。
三人だけの白虎団は、今宵も義賊として欲深い貴族の屋敷を襲い、金をばら撒くのだ。
「(……うわぁ……白虎団って、原作ゲームに登場するヤツじゃん……)」
原作ゲームのサブイベントの一つ。
義賊として欲深い貴族から金銀宝石を盗み、貧民街にバラ撒く三人組の盗賊団。
原作ゲームでは、主人公である第三王子と何度か戦う場面もあった。
一本気気質の気の強い女リーダー、春。
年若い春を支える参謀的な秀。
同じく年若い春を支える力自慢の千。
「(……原作ゲームの終盤で、王子の立場である主人公に春が叫ぶんだよね。)」
『奪われた人は帰って来ない!
だったらっ!奪われた物くらい奪い返しても良いだろうっ!!』
原作ゲームの中での血を吐くような春の叫び。
……しかし、黎深にとって、この世界はもう現実なのだ。
「……黄河、止まれ」
「はいっ!」
呪符を片手にジリジリと凌善を追い詰めようとしていた黄河に対して声をかける。
「……凌善、気が変わった。」
「…………へ?」
「ほう……なかなかの阿呆面ではないか。
王太子殿下の近衛を束ねる長とは思えぬ擬態、見事なものだな。
(そんなに吃驚しないでください、夏侯さん。)」
「……そりゃ、どーも」
長椅子にゆったりと座り、頬杖を付いた黎深の言葉に、凌善の頬が引き攣る。
「(原作ゲームより前ってことは、今の白虎団は一代目が率いているってことだよね?
確か……原作ゲームに登場する白虎団の二代目は、過去の回想で一代目が率いていた白虎団のメンバーの一部が暴走していたって。
仲間割れもした所為で一代目が捕まったから……二代目は今の三人だけで良いとか、なんとか……)」
黎深は思い出した情報の奔流に頭痛を覚える。
「……夏侯 凌善、我が名は貸さぬ」
「っ……」
「……たが、口だけは出してやる」
「えっ……ソレって……」
黎深の言葉に曇り掛けた顔を、凌善は輝かせる。
「……まずは、今までの白虎団とやらの盗みの手口を一覧化しろ。
どんなに美しい清流にも、泥水が混じることがある。
……義賊とやらの矜持に混じった俗物が、足を引っ張るならば……ソレを逆手に取って捕縛の一歩に繋げればいい。」
「……義賊の中で仲間割れがある……って、ことですか?」
「さあな。
……だが、どんなにご立派な組織でも泥は混じる。
ソレを除去することが出来ねば、澄んだ清流に戻ることは出来まい。
(……はっきりとは言えないし……情報源は何処だってなっても困っちゃうし……)」
「…………」
黎深の言葉に、何かを考え込む凌善。
「兄上……義賊とは、善悪どちらの存在でしょうか?」
「……黄河?
(え……急にどうしたの、黄河くん?)」
「……僕は、世間知らずだと自覚が有ります。
兄上の右腕になりたいのに、僕にはまだまだ圧倒的に経験値が足りないと……分かっているんです……」
王太子妃の誘拐の一件に関してもそうだった。
黎深の思考回路を侍従の範は読んで先回りして行動していたのに、黄河にはそれが出来なかった。
「…………足りぬならば、求めればいい。
知らぬならば、学べばいい。」
「兄上……?」
「義賊……王族は、そのような物を認めることは許されぬ。
では何故、許してはならないのか?
正義とは、悪とは、何なのか?
(……平民が義賊を立派だと囃し立てることと、王族が義賊の存在を認めることの重さの違い。
原作ゲームの主人公の"第三王子"も、その壁に直面して悩んでたなぁ……)」
王族としての責任と立場。
その重さを知るのに、義賊という問題は黄河にとっても良い刺激になるかもしれない。
……決して、評判の悪い自分が表立って動きたくないという理由ではないったら無い。
「夏侯 凌善」
「うわー……おっさん、なんかすっごく嫌な予感……」
黎深と黄河の会話を静かに見守っていた凌善が、改めて己の名前が呼ばれたことに嫌そうな表情を浮かべる。
「黄河を連れて行け。
王太子殿下にも、黄河が成人後の道を探すための社会科見学とでも説明しておけ。
(夏侯さん、経験値を積むためにも黄河くんを連れてってもらえますか?
黄河くん一人だと心配ですけど、夏侯さんが居るなら大丈夫かなって)」
「そこで書類の山に囲まれて涙目の碧雲様を巻き込むんですか……」
「書類の山?
ソレがどうした?
そのような物は、矮小な私が執務を辞退した影響ではなかろう。
……王太子殿下の足元にも及ばぬ存在でしかない私の力が及ばぬ分野だ。
(書類の山ですか?
僕一人が執務を辞退したからって、影響は少ないと思いますけど……?)」
「……ほんとーに、いい性格をされてますね」
「(いい性格…………それは、褒め言葉なのかな……?)」
盛大に頬を引き攣らせた凌善に、黎深は下らないとばかりにそっぽを向くのだった。
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