第四話
「第二王子殿下っ……!
どうしてこのような真似ばかりなさるのですかっっ!!
貴方様は……人をっ!
命を何だと思っているのですか……!」
「人?命?
私の役に立たない物に、何の価値がある?
泣くしか能の無い脆いお前も含め、私のために兵を出さぬ馬一族に価値など無い。
ゆえに役に立たぬ塵は掃除された。
ただ……それだけのことだ。」
「巫山戯ないで下さいっ……!
優しさも、思いやりも知らない!
血も涙もない貴方のような冷酷な男など、王の器では有りません!」
「王の器、か……。
お前如きに、私の王としての器は理解できぬ。
私が視線を向けただけで怯え、俯き……私を見ようともしなかったお前が、私を語るな。」
「きゃあっっ?!」
「誰かの背に守られなければ、私に意見も出来ぬ。
容姿以外に取り柄のない仙女のようにお優しい姫君。
お前は、お前に相応しい輩に下げ渡す。
……この私の隣は、お前のような女には相応しくない。」
両親を、兄を殺され。
馬一族の屋敷に仕えていた使用人達も、屋敷その物も蹂躙され。
豚のように肥え太った悪徳貴族に下げ渡されそうになった"淑芳"。
唯一人生き残った幼馴染であり、乳母兄弟である女従者と共に逃げ落ちた淑芳は、主人公の第三王子と出会うのだ。
「(……どうみても……怯えてるよねぇ……)」
黎深の脳裏にゲームの"淑芳"が思い浮かぶ。
「(えー……ゲームの時が十六か、十七歳くらいだったっけ?
僕が今二十歳だから……十五歳くらい?
……中学生じゃんっっ?!)」
ゲームのスチルよりも幼く見えるはずだと頭を抱える。
「(あれ……でも、"黎深"としての記憶の中に、この娘に意地悪をしたような記憶……無いんだけど?
どっちかと言うと……怖がられるから、距離を取って……?)」
過去も、今も含めて、黎深に淑芳が怯えるような真似をした記憶がない。
「(あれ、かな……僕にまつわる悪い噂ばっかり聞いて、怯えてる的な?)」
やれ、第二王子は優しい王太子とは正反対の冷酷非道な野心家だ。
血も涙もない第二王子は、すぐに気に入らない使用人を拷問に掛ける。
眉一つ動かすことなく、部下の首を刎ねる。
「(でも……その噂って……)」
幼い頃から悪意に晒されて、他人に弱みを見せないように固まった顔面の筋肉と皮肉交じりの尊大な口調。
王位などにもともと興味は無かったが、無愛想な顔面に比例して野心家と勝手に憶測される日々。
使用人を拷問に掛けたのは、暗殺されかけたゆえのこと。
……固まった表情筋は、血塗れの部下を前にしても動くことは無かっただけだったり。
「(……詰んでる……誤解されまくってる……!)」
でも……どうすれば誤解は解ける?
どうすれば、黎深を怖がらないでくれるようになる?
「(……どうしようもないじゃん……)」
現時点では、諦めるしかない……。
「(諦めるしかないのは分かったけど……この子を一人にして立ち去る訳にもいかないし……)」
「あ、の……第二王子殿下……」
どうすれば良いんだ……!と、頭を抱える黎深に淑芳が怯えながら様子を伺ってくる。
「…………」
「っ……」
「……馬 徳祐は何処にいる?」
「え……」
黎深の言葉に、淑芳は目を丸くする。
「あ……あちら、に……」
「来い」
「っ……」
淑芳の手を掴み、半分引きずるように歩き出す黎深の身体。
「…………」
「……っ……」
碌な抵抗も出来ずに黎深に連れて行かれる淑芳。
「(ごめんね!怖いよね!
でも!すぐに君のお父さんに預けたら帰るから許してぇぇぇっっ!!)」
早く淑芳を引き渡したい一心で歩く黎深の目が、淑芳の父親を捕らえた。
「……馬 徳祐」
「っ……これは、第二王子殿下……」
抑揚のない低い声音で呼ばれた徳祐が振り返れば、相変わらず不機嫌そうな黎深。
……そして、その手に掴まれた愛娘の姿。
「もしや……淑芳が何か粗相を……」
「さっさと連れて行け。
小娘一人でフラフラさせるとは……余程、惜しくない娘と見える」
「っ……そのようなことは……!」
「では、さっさと連れて行け。」
半ば押し付けるように淑芳を父親に預け、さっさと背中を向ける黎深。
『相変わらず……恐ろしい御方!』
『野心家の獣の婚約者など……可哀想に。』
『馬家の娘と言えば、天女のように心優しいと噂の美姫』
『……その相手が……第二王子殿下とは……』
立ち去る黎深の背中に向けて囁かれる宮廷雀の貴族たちの声。
「…………」
それに、反応することなく黎深は静かに夜の庭園へと歩いて行くのだった。
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