第三話
綺羅びやかな宮廷内。
「(なんで……こんなことに……)」
心の中ではどんよりオーラを纏いつつ、表面上はいつも通りな黎深。
「(……なんだろう……この状況……。
僕には"黎深"として生きた記憶も有る。
"前世の記憶"に上書きされたって感じじゃないのに……心の中は"僕"……なんだよね……」
範を伴って堂々と歩く黎深は、小さくため息をつく。
「(ゲームのラスボスとして……王位を継いだ王太子を殺し、王の座を簒奪した第二王子。
そして……残虐極まりない統治を敷いて、主人公の第三王子に殺される。)」
ラスボスが倒されるゲームの動画を思い出して、黎深は死んだ魚のような目になる。
「(死にたくなぃぃぃぃぃっっ!!
弟に殺されるとかっ……兄を殺すとかっっ?!
兄弟で殺し合うなんてムリぃぃぃぃっっ!!!)」
心の中では泣き叫んでいるのに、実際の表情は一ミリも変化しない。
「…………第二王子」
背後から声が掛かる。
「……これはこれは、王太子殿下」
えっ……あに、王太子殿下?!
「君が……私の誕生祭に出席するなど、どのような風の吹き回しだい?」
サラリと揺れる青みがかった黒髪の美丈夫。
人徳の君と謳われる優しげな顔立ちは、微かに困惑で歪んでいる。
「……折角の誕生祭に、私が参加しては不愉快でしたか?」
……やっぱり、今まで仲の悪かった僕が急に参加したら……嫌だよね……
「そのようなことは言っておらぬ……!」
「……碧雲さま……」
「玉葉……」
微かに動揺して否定の言葉を吐く王太子・碧雲を支えるように、美しい王太子妃・玉葉が寄り添う。
「黎深殿……碧雲さまは、不愉快などとは思っておりません……。
貴殿が落馬したと聞いて、御心を痛めておりました」
「……相変わらずお優しいことですね、王太子妃殿下。
己のような者に声を掛けては、どのような噂を立てられたものか分かりませんよ」
うわぁぁんっっ!!
王太子妃殿下が優しいよぉぉっっ!!
それなのに!
何でこんなに僕の口は捻くれてるのっっ……?!
「っ……」
傷付いたように微かに顔を歪めた玉葉を見た碧雲。
怒りの籠もった瞳を黎深へと向け、玉葉をその背に隠す。
「っ……第二王子!
言って良いことと、悪いことも判断が付かぬかっ!」
「……怖い怖い。
どうやら嫌われ者の私が参加するなど、人徳の君たる王太子殿下はお気に召さない御様子。
…………邪魔者はさっさと退散致しましょう。」
何で僕の口は一々喧嘩を売るのぉぉぉぉっっ?!
お互いの未来ためにも仲良くしときたいのにぃぃぃっっ!!
「っ……」
心の中とは正反対の嘲るような笑みを残して去る黎深。
その背中に悲しげな色を宿した瞳を向ける碧雲と玉葉。
「(……何で……こんなにも僕の言うことを聞いてくれないんだ……この身体は……)」
心の底から落ち込む黎深。
「(……こんな状態じゃあ死亡フラグを潰すとか……ムリだよぉ……)」
心の中では涙を流しながら背中を丸めて歩いているのに。
現実では背筋を真っ直ぐに伸ばし、氷のように冷たい瞳で周囲を睥睨する黎深。
「…………」
「……第二、王子殿下……」
これ以上、最悪な展開を招く前に退散しようと考えた黎深の背中に鈴を転がしたような可憐な声が響いた。
「何用だ……"淑芳"」
長い艷やかな髪を結い上げた白百合のような清廉な美貌の少女。
「……婚約者である殿下に……ご挨拶を、と……」
微かに震えた声。
ゲームに登場するよりも幼い容姿のラスボス第二王子の婚約者だった令嬢が……そこに居たのだった。
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