第二話
「落馬の影響で打撲程度は有るかもしれませぬが、頭部に問題はなさそうですな」
内心は茫然自失となっているが、外側は不機嫌そうに眉を顰める完璧な悪役王子。
「無駄なことを。
もう気は済んだな、範。
(心配してくれて有難うございました……)」
「……はい」
「さっさと出て行け。
(でも、ちょっと考えたいことがあるので一人にしてもらえると……)」
全然違うことを口が喋ってる……!
何でぇぇぇっっ?!と泣き叫びたい心境の黎深だったが、外面は完璧な悪役王子。
「お待ち下さい、黎深様」
「……何だ?」
しかし、範は下がることなく静かに黎深を見つめる。
「此度の一件。
王族たる黎深様の乗馬された馬が暴れるなど、決して有ってはならぬこと。
……どんな理由が有っても、許されることではありませぬ。」
感情のない瞳で黎深を見詰める範は、事実だけを口にする。
「此度の一件において、黎深様が乗馬された馬の処分は、許可を頂ければ速やかに処理されるように整っております。
また、馬を躾けた者たち、馬の世話をしていた厩番も纏めて地下牢に入れております。」
「(え……何の、はなし……?
馬の処分、馬のお世話係とかを……ちかろう、地下牢っっ?!)」
淡々とした範の言葉に、黎深は一瞬だけ何を言っているのか分からずに混乱してしまう。
「(え、え……?
処分……処分って殺すってこと?!
それに、何で馬の世話係とかまで……)」
其処まで考えた黎深の記憶がざわめく。
王族が大怪我を、運が悪ければ死んでいたかもしれない……大事故。
それが、"偶然"や"運が悪い"などの言葉で片付けられる筈がない。
……この世界は、そんな生ぬるい世界では無い。
「(第二王子への暗殺を疑われても……仕方が無いってこと……?!
でもでも……!
僕のせいで誰かが死ぬとか……しかも!
蜂が馬の耳に入るなんて……そんなの誰にもわからないじゃん……!)」
内心は動揺する黎深だったが、その表情はピクリとも動かない。
「黎深様、如何なさいますか?
必要ならば、地下牢に収容した者達への拷問はすぐにでも始められるように手配しておりますが……?」
「(ちょっとぉぉぉぉっっ?!
範さんっっ?!拷問ぅぅぅぅっっ?!
そんなのを現代日本で生きて来た僕に求めないでぇぇぇぇっっ!!!)」
心の中は阿鼻叫喚な黎深。
「黎深様?」
「…………だ」
「……なんと?」
「……不要だ、と言っているのが聞こえぬか。」
「っ……?!」
表面上は不機嫌そうな黎深の答えに、範は目を丸くする。
「……宜しいのですか?
いつものように、死んだ方がマシなほどに拷問で責め立てたうえ、首を跳ねて腐り果てるまで晒しておかなくて?」
「要らぬ。
(ちょっと待ってぇぇぇぇぇっっ?!
死んだ方が良いレベルの拷問ってなにぃぃっっ?!
しかもっ!
首を跳ねてから腐り果てるまで晒すって?!
一般人な僕にはハードルが高すぎるんだけどぉぉぉっっ?!)」
「…………」
何かを考えるように無言を返す範に、黎深は怪しまれたかもと慌ててしまう。
「……今宵は、王太子の生誕の宴。
そのような日に血を流すような真似をすれば、人徳の君と名高い王太子が鬱陶しい。
今日は、王太子の相手をする気にはなれぬ。」
「左様で御座いますか……」
微妙に納得したような……していないような、そんな雰囲気を纏って立ち去る範。
「そうで御座いました、黎深様」
しかし、部屋から出るまであと一歩という所で振り返った。
「……なんだ」
「今宵の宴は参加ということで宜しいですね?
いやぁ、数年ぶりの王太子殿下の生誕の宴への出席。
範は、嬉しゅうございます……!」
「……くだらぬ。
(しまったぁぁぁぁっっ!!)」
ニコニコと笑顔の範に、黎深は視線を外して内心では頭を抱えてしまうのだった。
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