第一話
「(あー……今日も疲れたなぁ……)」
バイト帰りの夜の大通り。
「(お気に入りのラノベの更新は……あ、二つも更新してる!)」
嬉しそうにスマホをバックに押し込んで、歩き出す青年。
「(明日から二連休だし、バイトも休みだから遅くまで小説を読んでもいいし!
あ、ゲームもやり込みたいな!)」
ウキウキとした様子で足早に歩く青年の足が、信号で止まる。
「(中華風のRPGって良いよねぇ……!
なんか、華やかな感じがするし!
ヒロインたちも可愛いし!)」
大流行しているアプリゲームについて考えながら、信号が青になるのを待つ青年の意識の外。
「(ラスボスがなぁ……三回連続バトルっていうのがキツイけど。
でも、何とか倒してエンディングまで行けたし!)」
フラフラと危うい運転のダンプカー。
横断歩道に向けて速度を落とすことなく向かってくる。
「("私こそ、神に相応しい!"って何処の厨二病とか思っちゃったしさ!)」
信号が青になる。
当たり前のように、横断歩道を渡ろうと数歩……歩いた青年を照らす眩いヘッドライト。
「え……」
気が付いた時には……もう、手遅れだった。
周囲から悲鳴が上がる。
青年の細い身体が……。
道路脇に吹き飛んだバックの中から、スマホが転がり落ちる。
……奇しくも、その画面には大人気アプリゲームの題名が浮かんでいたのだった。
……意識が浮上する。
ズキズキと脈打つように痛む頭と身体。
「っ……こ、こは……」
瞼を開ければ、明るすぎる光に一瞬だけ頭の痛みが強くなる。
「わ、たし……は……っ……」
目を瞬かせ、喉元を抑える。
……今の声は、だれ?
「失礼します、黎深様。
お気付きになられたようですね」
「……範、か?」
「はい。
……お加減は如何で御座いましょう?」
手に持った水桶を置いて、近寄って来た初老の男。
「私は……」
「黎深様のご乗馬されていた馬の耳に蜂が入ったのです。
そのために暴れた馬から落馬され、頭を強く打たれたご様子。」
黒髪混じりの白髪を綺麗に纏め上げ、一部の隙もない侍従服姿。
「(……呂 範……僕の、第二王子の侍従……)」
「黎深様、まだ頭が痛みますか?」
「…………」
「すぐに、典医を呼んで参ります」
範が立ち去ったことを確認し、痛む身体を起こして水桶を覗けば……
「っっ?!」
水面に映るのは悪人顔だが、物凄い美形の青年。
「(うえ゛ぇぇぇぇぇえっっっ?!
ちょっ?!はあぁぁぁぁっっ……?!
僕の平凡な日本人顔は何処いったのぉぉぉっっ……?!)」
内心では大混乱して、慌てふためいているのに、鏡に映った青年の顔は無表情でピクリとも動かない。
「(何で何で何でぇぇぇぇぇぇ?!
僕、死んだ??
死んじゃったのっ?!
誰か嘘だと言ってよ、神様ぁぁぁぁっっ!!)」
そればかりか、言葉にしようとした内容と口から飛び出る言葉は全く違う。
「何がどうなっている?」
意味がわからない!と慌てて走り回りたいのに、身体が全く従わない。
「黎深様、典医を連れて参りました」
「耄碌したか、範。
私が落馬如きでどうにかなるとでも?
(範さん?!
僕は大丈夫だから!
でも、お医者さんを連れて来てくれてありがとう!)」
何言ってんの僕のお口ぃぃぃぃ?!
心配してお医者さんを連れて来てくれた範さんになんてことぉぉぉっっ!!と黎深は泣きたくなる。
「申し訳ございません。
ですが、万が一の場合も御座います」
「ふん……好きにせよ」
何処までも傲岸不遜な自分の口と表情。
「(違うからぁぁ?!
なんで素直に言うことを聞いてくれないの、僕の身体ぁぁっっ?!)」
大人しく典医の診察を受けながら、黎深は頭を巡らせる。
「…………」
周囲を見渡せば、見慣れていないはずなのに……見慣れている中華風の部屋。
「(……僕は……バイトの帰りに……っ……)」
思い出した事故の記憶。
眩いヘッドライトが近付いてきて、跳ね飛ばされた身体の上を……っ……
「っ……」
「殿下……?」
「問題ない。
さっさと終わらせよ」
蘇った死に際の記憶に、黎深の眉間にシワが寄る。
「(駄目だ……思い出したら、気持ちが死ぬ……!
他のことを考えないと……そうだ!)」
水に映った顔。
その顔の持ち主について考えることに意識を集中する。
「(この顔……この顔は、アプリゲームの……あ゛)」
顔の持ち主について思い出した瞬間に、固まってしまう。
「(この顔って"双龍天華国戦記〜我、偽王を打ち倒すもの也〜"の……ラスボス……っ……)」
脳裏な蘇るのは、主人公に打ち倒される人の姿も失った第二王子"黎深"の姿。
「("私こそ、神に相応しい!"って何処の厨二病とか思っちゃったことは謝るからっっ!
誰かっ嘘だと言ってぇぇぇぇぇっっ!!!)」
心の中で頭を抱えて絶叫するのだった。
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