第三十九話
双龍天華国の王都、繚蘭。
夜の闇に包まれた貴族街の一角にある屋敷から、喧騒があがる。
「おいっ!そっちに行ったぞっっ!!」
「クソっ!!逃がすなっ!追えっっ!!!」
土煙を上げて何かを追いかける怒号が、夜を切り裂く。
そんな追手を屋根の上から眺める数人の男達がいた。
「ハハッ!
貴族の犬共め、ザマーミロッ!」
「見ろよ、この金貨銀貨の山っ!」
「しこたま溜め込んでやがったなぁっ!」
幾つもの麻袋いっぱいの金貨銀貨、宝石類を担いだ男達。
口元を覆った布で顔を隠し、手首に巻かれた白と黒の糸を結い合わせた組み紐。
「おいっ!お前達!」
「げっ……!お嬢っ?!」
気の強そうな猫目の十代後半くらいの整った容姿の少女が叫ぶ。
「その袋の中身は、貧しい人達に配るためのものだ!
間違っても手を付けるんじゃないぞっ!」
「……へーい、お嬢」
「分かってますよぉ!」
早く貧民街に行くぞ!と背中を向ける少女に、男達は不服そうに口をへの字に曲げる。
「……春」
「あ、親父、じゃなくて、お頭!」
そんな少女の元へと、数人の人影が合流する。
「……行くぞ」
「はい!」
四十代くらいだろうか。
低く渋い声の男に向かって、春と呼ばれた猫目の少女が駆け寄り、貧民街に向かって全員で駆けて行く。
「……手分けして配れ」
『はいっ!』
白と黒の斑模様の布で頭を覆った頭の命令で、夜の貧民街で貴族の屋敷から奪った金貨銀貨、宝石を投げて配っていく男達。
「頭、全部バラ撒き終わりました!」
「コッチもっす!」
頭の命令通りに金貨銀貨を躊躇いなくバラ撒いた男達が、集合場所に戻って来る。
「おい、お前達もちゃんと配っただろうな!」
「へ、へい!」
「こないだみたいに、誤魔化して隠し持っていたら承知しないからなっ!」
「「「…………」」」
一番最後に戻って来た男達に向かって、春が噛み付くように叫ぶ。
「(チっ……頭の娘だが知らんが、跳ねっ返りのジャジャ馬め……!)」
「(コレがなけりゃ、容姿だけは良いんだけどなぁ……)」
「(……身体と容姿は良くても、こんなキツイ女はゴメンだな!)」
誤魔化すように笑った男達は、心の中でだけ春に対して毒づく。
「……今日は、これでお仕舞いだ。
それぞれ散らばって帰るぞ。
警邏隊の奴らに捕まらないように、気を付けるように。」
『へいっ!!』
頭の言葉を合図に、それぞれに男達が夜の闇に散らばっていく。
「親父!
アタシ達も帰ろうぜっ!」
「……春」
若い娘とは思えない言葉遣いに、父親である頭は咎めるような声を出す。
「うっ……しょうがないだろ。
男所帯で育てば、女だって男っぽくなっちまうよ!」
「…………」
深いため息をこぼす頭に、春はバツが悪そうな顔をする。
「……お前も、そろそろ年頃なんだがな」
「ゲッ……ほら、親父!
そんなくだらない話はやめようぜ!
早く帰らないと、警邏隊に見付かっちまうぜ……!」
「…………そうだな」
会話を打ち切った頭と春も、夜の闇へと溶けるように消えていく。
屋敷に押し込まれ、金貨銀貨や宝石類を盗まれた貴族の屋敷から、変わることのない怒号が響き渡る。
そんな貴族の屋敷の壁には、堂々と"義賊・白虎団参上"の文字が書き殴られていた。
黎深の知らないところで、新たな出会いと事件が巻き起ころうとしていたのだった。
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