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落馬して前世の記憶を取り戻したラスボス第二王子は、死亡フラグを折ったら兄弟妹に執着されました?!〜原作ゲームはもう当てになりません〜  作者: ぶるどっく
第一章 目覚めと蠢く宮廷

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第三十八話



「(……やっぱり……!)」


 冷たい言葉を淑芳へと吐き捨てて立ち去った黎深。


「(やっぱり、あの方の氷のように冷たい心は変わってなどいなかったのだわ……!

 私は……いったい何を期待していたのかしら……!)」


 服が皺になることも構わずに両手で握り締め、唇を引き結ぶ。


 王太子殿下の御前だから、と淑芳は俯き、零れ落ちそうになる涙を耐える。


「……王太子殿下、第二王子殿下は……いえ、もう尋ねても致し方ないこと。

 お時間を頂戴し、申し訳ありま……」


「黎深はね、地獄に落ちる自分の供を淑芳姫にさせたく無いらしい。」


 微かに震えながら俯く娘に気付かないフリをして、早々に退室しようとした徳祐を碧雲の言葉が止めた。


「え……」


「王太子殿下、どういう意味ですか?」


 困ったように微笑む碧雲に、徳祐は真剣な眼差しを返し、俯いていた顔を上げた淑芳の目尻から涙が零れ落ちた。


「……少し前まで誤解していた私が言うのもなんだけどね……」


 困ったように、しかし……何処か嬉しそうな碧雲の表情に徳祐は、己の推測が当たっていたことを確信した。


「黎深は敵も多い……いや、黎深自身が何もしていないにも関わらず穿った見方をされ、誤解されやすい子なんだ。

 ……あの子に関わる噂の数々はデタラメばかりだ。

 調べに調べたが、切っ掛けとなる小さな出来事を過大に誇張したもの。

 もしくは、"そう見えるから"という理由だけの物も有った。」


 流れる噂を否定せず、いや、否定すればより酷くなると学んだことが有るのかもしれない。

 

 どちらにしても、黎深自身ではどうしようも出来ないほどに、宮廷に巣食う悪意が育ち過ぎたのだ。


「黎深はね……冷酷非情な恐ろしい野心家の獣だと噂される自分を見て怯える淑芳姫を、自分から解放したかったみたいだよ」


「……わたくし、を……?」


 淑芳は、碧雲の言葉に目を丸くする。


 冷酷で恐ろしいはずの黎深は、怯える自分を想って婚約破棄してくれたのだ、と突き付けられた。


「……数日前に、婚約の白紙を願い出た理由を私も不思議に思って本人に聞いたからね。」


 だから、それが黎深の本心だよと、碧雲は困ったように微笑む。


「……これは、あくまでも私の意見だけど……王族に生まれた以上は、私も、黎深も、政略結婚など当然だと受け入れる。

 それが、王族として生まれた者の務めの一つだからね。

 私達王族の全ては国のため、民のためにある。」


 それは当たり前のことだと碧雲は、徳祐と淑芳を見詰める。

 

「(……それでも……せめて……黎深を恐れることなく共に生きてくれる相手を選びたいと思うことは……欲深いだろうか……?)」


 悪意に満ちた噂に惑わされることなく、黎深の頑な拒絶の壁を飛び越えてくれるような女性。


「……これもね、私の我儘だが……黎深が妻にするならば、せめて弟に怯えない女性を選びたい。

 ……その方が、お互いに幸せだろうと思うんだ。」


 話は以上だと、席を立つ碧雲を止めることなど……徳祐には、出来なかった。


「(……お互いに幸せ、か……)」


 ……恐らく。

 恐らく、王太子妃の一件を通して、仲違いしていた兄弟の絆は修復されつつ有るのだろう。


 だからこそ……碧雲は、今日この場に同席したのだ。

 誤解されやすい黎深(おとうと)を守るために。


「……淑芳」


 妻に似た目元を涙で濡らした愛娘を呼ぶ。


「……お父様……」


 呆然とした表情で、父を見上げる淑芳の表情が歪んでいく。


「……っ……わたく、しは……」


「……ああ」


「私はっ!

 あの方の何を見ていたのでしょう……!」


 ポロポロと大粒の涙を流す娘を抱き寄せ、徳祐は頭を撫でる。


「……あの方の外見や噂に怯え!

 婚約者でありながら、あの方の優しさを信じられなかった自分が恥ずかしい……!」


「淑芳よ。

 それは、私も同じだ……」


 噂に惑わされた。

 しかし、噂の真偽を確かめようともしなかった。


「せめて……噂が届かぬようにした上で……」


 第二王子と淑芳を出逢わせたならば…………結末は、変わっていただろうか?


 しかし、全てはもう遅い。

 今更考えても……どうしようも無いことなのだ。




 小会議室を後にした黎深は、北の離宮で布団に潜り込んで丸くなっていた。


「おーい、黎深。

 昼寝でもするのか?」


「(……黒さん……僕は、もう……うぅぅぅぅぅ……!)」


 頭から布団を被ってプルプルと震える塊となっている黎深。


「お前なー……怖がられるのは、いつものことだろ?」


「(……年下の女の子を虐めたみたいで……そんな自分がいやだ……)」


 二十歳の男が中学生くらいの女の子を泣かせるなど……!

 自分の本意では決してないけれど!

 ……それでも……良い気持ちはしないどころか、落ち込む一直線な事案である。


「(もうね……慣れたから、宮廷の人達とかは怖がられても諦めるよ……。

 でもね……僕を拒否していたとしても、婚約者だった子を泣かすのは…………っ……)」


 ……愛して欲しいとは言わない。

 所詮は、王侯貴族の政略結婚……そんなことは、望まない。


 だけど……せめて、怯えずに普通に言葉を交わしたい……。


「(……僕は……欲張り、だね……。

 黒さんや黄河くん、範さんが普通に接してくれるから……もっと、僕のことを平気になってくれる人を増やしたい……なんて……)」

 

 涙すら流れない黎深の身体。

 心の中でだけ、ポロポロと涙を流すけれど……それは、誰にも見えはしない。


「……っ……だーっくそ!!」


「(ぴやっ?!)」


 黎深の心の声を読んでいた黒龍は、何かを耐えるように口を引き結んでいたかと思えば、いきなり黎深の被っていた布団を引き剥がした。


「(く、くくくく、黒さんぅぅぅぅっっ?!)」


 突然の黒龍の荒々しい動きに、黎深は驚きに身体を強張らせる。


「布団の中で丸まって泣くな!

 俺が背中でも、胸でも貸してやる!

 もしくは、普通に大声で泣けっっ!!!」


 ポンっと軽快な音を立てて、縫いぐるみのような姿から、人の形に変化した黒龍。

 その手には、黎深から引っ剥がした布団が握られていた。


「(ふぇ?!

 え、え……?)」


「あーっ!マジで、なんなんだよっ?!

 お前は、なんでこうも世話が焼けるっつーか!

 世話を焼きたくなっちまうっつーか!!」


「(えっ……あの、ごめんね……?)」


 頭を掻き毟りながら、天に向かって叫ぶ黒龍に驚きつつ、取り敢えず謝ってみた黎深。


「………………」


「(……え、えっと……)」


 ジトッとした目で、無言で見詰めてくる黒龍に、黎深はどうして良いか分からずに挙動不審となってしまう。


「……俺さぁ……衆道の気はねえからな。

 あくまでも、家族愛とか、友愛だからな。

 変な勘違いをするんじゃねぇぞ!」


「……意味が分からぬ。

 第一、衆道とはなんだ?

 (……意味わかんないよ、黒さん。

 それに、衆道ってなに?)」


「…………そーかよ。

 分からんなら、分からんままでいい。

 間違っても、人に聞くんじゃねーぞ。」


「………………わかった」


 不思議そうに首を傾げている黎深に、黒龍は深いため息を付く。


「……で?

 お前は泣くのか?」


「(あ…………あれ?

 涙がどっかに行っちゃった)」


 黒龍の問い掛けに、心の中で一瞬だけキョトンとした黎深。


「(よく分からないけど……黒さんのお陰だね。

 えへへ……いつもお世話かけて、ごめんね。

 それと、いつも僕を支えてくれてありがとう。)」


「………………おう」


 泣いた烏がもう笑う。

 ほわほわと花を飛ばしながら穏やかに微笑む黎深に、黒龍は脱力したように苦笑するのだった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」

と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。

一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。

最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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