第三十三話
「流石です!黎深兄上っ!!」
まるで憧れの英雄を見るかのように、キラキラと輝く黄河の瞳。
「兄上は、伝説の龍神である黒龍様と契約を交わされたということですね……!」
「……否定はせぬ。
(うーん……普通に契約しただけだよ?
なんだろう……黄河くんは、黒さんに憧れているのかな……?
なんか、すごく目が輝いているんだけど?)」
死亡フラグをへし折るために黒龍と契約した黎深。
原作ゲームの雰囲気を見るに、黄河が憧れの瞳を黎深へと向ける理由が今一つピンと来ない。
「やっぱり!
僕の尊敬する黎深兄上は、凄いです!!
伝説の龍神様の片割れである黒龍様と契約した上に、こんなにも親しくされているなんて……!」
「…………そうか」
どう反応すればいいのか分からず、何となく純粋な尊敬の眼差しを送って来る黄河から黎深は目を逸らしてしまう。
「おー……ちなみにな、黎深は白龍にも気に入られているぜ。
あいつ、興味本位と正の感情を摘むために人間に引っ付いて旅をすることは有ったが、眷属にしたいって言った人間は初めてだからな。」
「待て、黒龍。
この私に関わることを、欠片も報告もしていないとは、どういう了見だ?
(え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ?!
ちょっと黒さんぅぅぅぅっっ?!
眷属って何っ、何の話っっ?!
僕っ!そんなことっ一言も聞いてないよぉぉぉっっ!!!)」
「あれ……?
言ってなかったっけ?」
「聞いておらぬ。
(聞いてないよぉぉぉ……)」
心の中で右往左往しつつ、滂沱の涙を流す黎深は頭を抱えてしまう。
「(え……眷属って何?
眷属になったら、死ぬの?生きるの?)」
「あーまー……人間じゃなくなる……化物になる方向じゃなくて、だけどまぁ……人間ではない存在になるから、人によっては化物なのか?」
「ふむ……龍神の従者、配下……神仙で言えば、仙人になる前の修行を詰んでいる道士のようなものですかな?」
「お!そんな感じ、そんな感じ!」
軽い雰囲気の黒龍に、黎深は遠い目をしてしまう。
「つーか、範は話がわかる奴だなー。
俺のことに気が付いていたことと言い、俺への理解もあるしなー」
紫水晶の瞳を細め、何かを測るように範を見つめる黒龍。
「…………買い被りで御座いますれば。
己など、年の功と言うものに過ぎませぬ」
ほっほっほっ……といつも通りに微笑む範に、黎深の脳裏にふと原作ゲームの登場人物設定が浮かんだ。
「(あれ……原作ゲームのキャラ情報で、"呂 範"は七十歳半ばの老人のフリをしてるけど、本来は四十代半ば?
んん……後半だったかな?
年齢を詐欺ってるって……書いていたはず……)」
「え……範、お前年齢を詐欺ってるのか?」
何の気負いもなく、ポロリと質問した黒龍の肩をグワシッと黒い革手袋を装着した手が掴む。
「おやおや……黒龍様は、何かを勘違いされている御様子。」
「え゛……?」
ギリギリと万力のような握力で、黒龍の肩に喰い込む範の指先。
「私めは、ピチピチの七十五歳の年寄りに御座いますれば。
無害でお茶目な好々爺を捕まえて、年齢詐欺など酷う御座いますな」
「い、や……え?
つーか、年寄りの握力じゃねー……」
ズゴゴゴゴ……と大迫力で詰め寄る範の迫力満点の笑顔に、黒龍の頬が引き攣る。
「…………二度とエビチリを作りませんぞ?」
「すいませんでしたぁぁぁぁぁっっ!!
俺の勘違い!勘違いで変なこと言って悪かったっ!!
だから、エビチリ無しは勘弁してくれっっ!!!」
「ほっほっほっ、分かって頂けて良うございました。」
笑顔の範に頭を食卓にぶつける勢いで謝る黒龍。
「……黎深兄上」
「……何だ」
「伝説の黒龍様よりも、範さんのエビチリの方が凄いのでしょうか?」
「………………否定はせぬ。」
黒龍と範の騒がしいやり取り。
「兄上」
「……何だ」
「……また、兄上と一緒に居られるので……嬉しいです。」
「…………」
「僕は……兄上と離れるくらいなら、兄上と一緒に…………もう、一人は嫌です。
危険でも構いません……だから、僕を、置いて行かないで…………!」
嬉しさと悲しみ。
様々な感情が入り混じり、言葉が出て来ない。
「(……黄河くん……)」
黄河を守るために、黄河だけでも生きて欲しくて。
王太子に預けようとしたのに、黎深の元へと駆け付けて来た黄河。
「……くだらぬ。」
「っ……」
「……茨の道を歩く私と共に来たいなど、酔狂な奴だ。
お前が……黄河と範が共にあるならば、地獄の底も退屈はしまい」
「っ……兄上……!」
黄河の瞳が喜びに満ち溢れ、高揚した頬が赤く染まる。
「この私と食卓を共にしているのだ。
空腹で帰ることは許さぬ。」
「はい!
あ……兄上!
今日は、この離宮に泊まっていっても良いですか!」
「範に聞け。
私は、構わぬ。」
「ほっほっほっ……すぐにご準備を致します」
「おいっ!黎深!
この俺を忘れるとはどういう了見だ!
地獄の底だろうが、契約した以上は俺も連れて行け!」
「……神である龍が人間と共に地獄の底に堕ちるとは、面白いことを言う。
(えぇぇぇぇぇっ?!
だって、黒さんは龍神様なんでしょう?
神様って地獄に落ちるの?
付いて来て貰えるなら…………その、すごく心強いなって思うけど……)」
取り戻した穏やかな日常。
黒龍も、黄河も、範も……みんなが笑っている。
「(黒さん……僕、頑張って良かった……!)」
心の中で嬉し涙を瞳に滲ませる黎深に、黒龍も笑顔を返す。
――そして、王太子妃誘拐事件より数日後の玉座の間。
「黎深よ。此度の働き、見事であった」
再び玉座の間に呼び出された黎深が、父親である王・法翔へと跪拝を返す。
「此度の功労に対し、そなたの望む褒美を取らせよう。」
「……恐れながら、陛下。
褒美とは、どのようなことでも、誠に構いませぬか?」
黎深の問い掛けに、玉座の間に集まった貴族達がざわめく。
「構わぬ、申せ」
「では……」
法翔の許可を得て、黎深は玉座を見据えて口を開くのだった。
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