第二十七話
「(うわぁ……僕ってば、範さんに暗殺されかけてたんだった……)」
黒龍の一言が切っ掛けで、芋蔓式で思い出した過去と原作ゲームの記憶。
「(……しかも、原作ゲームでは黎深の忠実なる凶手集団・窮奇の棟梁。
最強と謳われた暗殺者で、主人公に立ちはだかる敵幹部の一人な扱いだった"呂 範")」
「おー……なんか、すんげえ過去が重すぎてオン・タイムで負の感情を喰ってたら、胃もたれしそうだな……」
「(僕の過去を聞いて、胃もたれしそうっていう感想……なんか、違う気がするのは僕だけ?)」
「んあー、そうか?
ぶっちゃけ、過去がどうとかさー……長生きしてりゃ忘れちまうもんさ。
事実、俺は三日も経てば大概のことは忘れるぜ?」
「(……三日前のおやつは?)」
「肉まんだな!
ジューシーな肉汁がたまらない旨さだった!!」
「…………」
おやつは覚えてるじゃん……と、心の中でだけ黎深は苦笑いをする。
「黎深様、お出掛けとのことですが……」
「昔の約束を果たすだけだ。
…………すぐに、戻る。」
「…………左様で御座いますか。」
澄ました顔で頷く範に、黎深は遠い目をする。
「(ねえ、黒さん)」
「あー?」
「(……僕が行くけど……行くけどっ!
範さんにお願いした方が義姉上の身の安全は確実だったりする……かな?)」
「……まー、うん。
速攻で原因諸共、首チョンパでオシマイだな。」
遠い目をした黎深の問い掛けに、黒龍は躊躇うことなく答えた。
「(だよねぇぇっっ!!
僕が動く方が、義姉上の身が危ない気がするんだけど?!)」
「まー……そこは、な?
考えようによっちゃあ……範が攫われた奴のことを気遣うかによるんじゃないか?」
器用に爪で口元を掻きながら、どうでも良さげな黒龍。
「範だったら……どうでもいい野郎の女に対して気遣うなんてしないと思うぜ。
速攻で終わらせてお前の所に帰ることを優先して、女の眼の前でも首をちぎると思うけどなー」
「(ちぎるっ?!)」
「おう。
そこにぶら下がってる奴らだって、やろうと思えば首に鎖とかを巻いて一気に引っ張れば……」
「(やめてぇぇぇぇぇっっ?!
そんなグロいことを想像させないでぇぇぇぇぇっっ!!!)」
自分の想像力が恨めしい……と心の中で悶え泣く黎深。
「黎深様……夕食は範特製のエビチリで御座いますぞ」
吊るされた男達をバックに、にこやかな範の一言。
「……夕餉までには、必ず戻る」
「お!エビチリ?!
俺も食う!
おい、黎深!
俺の分も!俺の分も作るように言っといてくれ!」
「……範。
普段の倍以上は、必ず作っておけ。」
エビチリィィ!と一気に上機嫌になる黒龍。
外見上は分かり辛いが、心の中では花を飛ばして喜んでいる黎深。
「畏まりました。
いってらっしゃいませ、黎深様」
「………………行って来る」
普段通りの笑みを浮かべる範に見送られ、黎深は離宮をあとにするのだった。
「……兄上っっ!!
兄上ぇぇぇぇぇっ!!!」
「ちょっ?!吐くっ!
おっさんの昼飯が全部出てきちゃうぅぅぅぅ!!
落ち着っ、落ち着いてくださっっ!!
おっさんのことも考えてぇぇぇぇぇ!!!」
「待てっ!第三王子!
引き摺っている!
凌善を引き摺っているからっ!!
自称おっさんの凌善がっ!
吐物まみれのおっさんになってしまう!!」
「王太子殿下ぁぁぁぁぁ!
突っ込むべきところは、そこではありませぬぅぅぅぅ!!!」
そんな黎深たちと入れ違うように、離宮へと走り込んで来た者たちがいた。
「おやおや……何事ですかな、黄河様」
シャッシャッ……と箒で床を掃く手を止めた範が、ひょっこりと離宮の入り口より顔を出す。
「範さん!」
「はいはい。
どうなさいましたかな、黄河様」
「兄上はっ!
兄上は、何処にっっ?!」
「黎深様ならば、所用にて席を外されておりますが……?」
ほっほっほっ……といつもの様に笑う範に、黄河は焦ってしまう。
「範さん!
すぐに兄上のもとに行かないと!
兄上を狙ったクソ共の目玉をくり抜いて、酢漬けにして牛のエサにしてやらないと!」
「牛、で御座いますか?
反芻して餌を磨り潰して食する牛に目玉を食べさせたいお気持ちは分かりますが……。
如何せん、牛は草食の生き物に御座います。
其処は……雑食の豚が宜しいのではないでしょうか?」
穏やかに微笑み、真面目に答えた範の言葉に、黄河の瞳が尊敬の念に煌めく。
「流石は、黎深兄上の筆頭侍従たる範さん!
すごく、すっっごく勉強になります!」
「おいぃぃぃっっ!!
何なのっこの二人っっ?!
無害な顔してんのにっ!
滅茶苦茶えげつない会話を交わしてんだけどっっ!!
吐いちゃう三秒前のおっさんの吐物が引っ込む恐ろしい会話を展開しているんだけど?!」
無害そうな微笑みで言葉を交わす内容のえげつなさに、凌善の突っ込みが冴え渡る。
「おや……どちら様ですかな?
ちょうどお湯を沸かしていた所ですので、一緒にお茶など如何ですかな?」
「頂きます……って!
範さん!黎深兄上が!
黎深兄上の身に危険が……!」
「危険……?
離宮の床が所々で腐っておりますので、落とし穴のように踏み抜く危険のことで御座いますかな?」
「えっ?!
そんな場所に僕の大切な麗しい兄上を閉じ込めるなんて……!
…………マジで一回、あのクソ親父の毛根を死滅するまで引き千切ってやるべき案件ですね!」
「…………何故、お前達は突っ込みどころが満載な会話を繰り広げているんだ?
しかも、ボソッと陛下の毛根を死滅させるとか言わなかったか?」
マイペースな範に巻き込まれそうな黄河の言葉に、王太子は頬を引き攣らせる。
「よく分かりませぬが、お客人方……ちょうど良い所にいらっしゃいましたな。
今、先ほど捕らえた獲物を釜茹でにしようとしていた所でして……」
「獲物……?
範さん、木の上に吊るされた蓑虫が湯気に煽られてビッタンビッタンと暴れていますね」
「「「………………」」」
範が指差した先には、離宮の庭の大木に吊るされた蓑虫のような男達が顔面をぐしょぐしょにして暴れていた。
その下には、グラグラと沸騰した大きな鍋が一つ。
「は……はあぁぁぁぁぁっっ?!
ちょっ?!何してんのっっ?!
何で人間を釜茹でにしようとしてんだよっっ?!
え……ちょっと待て?!
ジーさん、アンタ……アレを茹でたお湯で俺達に茶を出そうとしてなかったか?!」
「…………剛炎……アレは、蓑虫は食べ物……」
「王太子殿下ぁぁぁぁぁ?!
違いますぞ!
アレは蓑虫では有りませぬぅぅぅぅ!!」
ほっほっほっ……と笑う範を他所に、阿鼻叫喚となるのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




