第二十五話
「おや……何で御座いましょう?」
黄河が王太子達を相手に啖呵を切っていた頃。
「ふむ……この離宮には、私と黎深様しか居ないはずですが……?」
朽ちかけた離宮の掃除や修繕をしていた範の耳が物音を拾う。
「玄関の方からのようですし……お客人ですかな?」
物音がした玄関のある方向へ身体を向けた範の背後。
「どうやら……」
近衛兵の服を着た男が、抜き身の剣を振りかぶった。
「っ……!」
護衛の近衛もいない北の離宮。
武術にも通じているという第二王子ならば兎も角、年寄りの侍従一人など相手にもならない。
侵入者である自分たちに気が付かれ、騒がれる前に斬り捨てるつもりだった。
「招かねざるお客人のようですね」
侵入者が凶刃を振り下ろした瞬間に、振り返った範。
その年寄りとは思えぬ深淵のような瞳と目が合う。
「なっっ?!」
振り下ろした抜き身の刃を、人差し指と中指で受け止められたことに、侵入者は驚愕する。
「……驚くことはないでしょう?
黎深様にお仕えする侍従たる者、この程度……当然のことです」
「くそっ……っ?!」
剣を捨て、隠し持っていた短剣を取り出そうとした侵入者。
「遅い」
「ひぎっっ……」
掻き消えたように、瞬時に侵入者の背後を取った範が手刀を振り下ろす。
「……昨今の暗殺者の質は、落ちましたねぇ」
「ふぐぅっ……ぎっ……ぃぎ、ぃ゛ぃぃぃ……?!」
手元に縄もないため、取り敢えず動けないようにと、範は猿轡を噛ませた上で侵入者の四肢の関節を脱臼させた。
「さて、大きな虫が侵入した様子。
害虫駆除と参りましょうか……」
ゆらりと立ち上がった範の眼光が鋭く光る。
「……あちら、ですかね」
離宮の何処かに居るはずの黎深を探し、動き回っている気配や殺意を消せていない侵入者達。
その気配を捕捉した範の姿が掻き消える。
「くっそ……!此処も違うっ!」
「何処に隠れてやがるっっ!」
離宮の中の扉を片っ端から明け放ち、悪態をつく片手の指では足りない男達の群れ。
「チッ!
さっさと自殺に見せ掛けて殺して、褒美をたんまりもらう予定だっつーのにっ!」
「早く酒が飲みてぇ、な゛っ……ッひぎゅ……」
「一人」
音もなく漆黒の影が降り立つ。
「あぎゃっ?!」
「二人」
首を横に貫くように太い針が刺さり倒れた侵入者。
足払いを掛けられ倒れ、四肢を太い針で縫い止められた侵入者。
「なっ?!誰、イギぃっっ」
「三人」
後ろに回り込んだ影が、侵入者の一人の後頭部を掴み、そのまま顔面を壁へと叩き付けた。
「なん、なんだよっっ……?!」
「男一人を自殺に見せ掛けて殺すだけの簡単な仕事だって……!」
「それはそれは、我が唯一無二の主の命を狙うとは…………万死も生ぬるい」
フワリと舞った侍従服。
袖口から飛び出す数多の暗器。
「ひっ……おい、待て……」
縦横無尽に飛び出し、侵入者を捕らえ、吊るし上げていく。
「その、暗器……暗器使い……きゅう、き……のっ……?!」
「おや?
まだまだ……我らも、有名らしい」
「あがっ?!」
「だが……無意味、ですな」
まるで巨大な蜘蛛の巣。
室内に張り巡らされた鋼糸に囚われた、羽虫のような侵入者達。
「ふむ……自害防止のために四肢を潰して、猿轡を噛ませておきましょう。
…………簡単に死なれては、温すぎますからね。」
黎深様に見られる前に処置しておきましょう、と動こうとした……その時。
「範、私は少し出てく…………何をしている?
(範さーん、ちょっとお出かけして来ま……いっぎゃあぁぁぁぁぁぁっっ?!
何っなに、何があったの?!
何で空中に吊り上げられてんのっっ?!)」
離宮内で私室として使っている部屋より出て来た黎深が、室内に広がった光景に眉を寄せる。
「……大変申し訳ありません、黎深様。
お目汚しを致しましたが、すぐに処理を致しますので。」
普段通りの笑顔で、ニコリと微笑んだ範。
「……私の命を狙った刺客、か?
(うわぁ……やっぱり、僕……狙われてるんだ。
犯人の仲間かな……それとも、別口かな……?
そんなに……僕って、邪魔なのかな……?)」
「なんつーか、お前の命を狙った割にはお粗末な連中だな?
ぶっちゃけ、お前の記憶の中に有った凶手集団の方がヤバいヤツ多そうだったけどな。
…………そこに居る範も含めてな。」
「(え……)」
落ち込みかけた黎深の意識を逸らすためか、黒龍が別の話題を振る。
黒龍の言葉に黎深の記憶が刺激され、一人の原作ゲームの登場人物が脳裏に浮かんだ。
「(……あ……あ、あぁぁぁぁぁぁっっ?!)」
そして、思い出した記憶に、心の中で黎深は絶叫するのだった。
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