第二十四話
黎深が玉葉の居場所を特定した頃。
「第二王子からの書状?!」
「はい!
夏侯殿の力を借りることが出来た時に渡すように言われました!」
僕もまだ中身を見ていません!と語る黄河に、凌善が王太子へと視線を向ける。
「っ……凌善、読んでくれ」
「はっ!」
黎深からの手紙だと言われ、慎重に開封した凌善が中身に目を通す。
「…………は……?」
「凌善?」
「……王太子殿下……第二王子殿下は、すでに犯人の目星を付けているみたいなんですが……」
「「……は?」」
「流石は、僕の兄上っっ!!」
書状の内容を読んで呆然とした様子の凌善の言葉に、王太子と剛炎は驚愕に目を見開く。
反対に、黄河は驚きだけでなく喜びに満ち溢れた笑みを浮かべる。
「その……王太子妃を攫った奴らの次の狙いは、第二王子殿下の身柄もしくは命だから……勝手に蹴りを付けさせてもらう、と。」
「「…………は?」」
「兄上の命……?!」
呆然とする王太子と剛炎、第二王子の命が狙いと言う言葉に、黄河の顔色が変わる。
「兄上の御命が……!」
「お待ち下さい、第三王子……!」
「っ……離して下さい!
兄上が危ないってことでしょうっ?!」
黎深の命が危ないと知り、北の離宮に走ろうとした黄河。
「第二王子殿下の書状に……!
王太子殿下に向けて、第三王子殿下の安全を確保して欲しいと書かれています……!」
「っ……?!」
「……え……何、を……」
黄河は息を呑み、王太子は愕然とする。
「(……第二王子が……第三王子を守るために、私を頼った……?)」
自分の命が狙われているのに、自分ではなく第三王子の安全を優先した。
「……偽りの可能性が有るのでは?
あの冷酷な第二王子が、自分の罪を隠すために我らの探索を妨害するつもりで第三王子を……」
「っ……剛炎……」
「ふざけるなっっ!!」
第二王子を信じられなかった剛炎が、書状の中身を疑ってかかる。
しかし、剛炎の言葉を王太子は肯定も否定も出来ず、黄河だけが瞬時に反論した。
「貴方達はっ……いったい、黎深兄上の何を知っている!!」
興奮した猫のようにフーッフーッと肩で息をする黄河の瞳が三人を射抜き、王太子へと固定される。
「僕は……僕はまだ、兄上と過ごした時間は半年にも満たないけど!
兄上が誰よりも優しい人だと、僕は知っている!」
「……第三王子……」
「兄上の怖い噂はたくさん有るけど!
そのどれか一つでも、実際に見たんですかっっ?!
兄上の立場に立って噂の真相を調べたことが有るんですか!
何も知らない、何も知ろうともしないくせに!
僕の大切な兄上を侮辱するなっっ!!!」
顔を怒りに真っ赤にして、あまりの悔しさに震える声音。
あの獅子の時と同じように、黎深は黄河を守るために己の身を犠牲にする。
「兄上が、一度でも王太子殿下の御身を傷つけましたか?
口では憎まれ口を叩いても、兄上が一度でも王太子妃殿下を傷つけましたか?
歩くだけで後ろ指を指して噂するクソ野郎共を処罰しましたか?!」
「「「っ……」」」
黄河の叫びに三人は何も返せない。
だって……黎深が王太子や王太子妃、誰かを傷付け嗤っている姿など見たことがないのだから。
「……この冷たい宮廷の中で、僕は一人ぼっちだった。
王子なのに味噌っかす扱いされて、侍従たちも仕事を放棄して、護衛もいない。
勉学も、武術も学ぶ機会がほとんどなくて……。
他の王子の取り巻きに見下されて、暴力を振るわれて、諦め切っていた僕に手を差し伸べてくれたのは黎深兄上だけだった……!」
「第二王子、が……」
「僕に自分の侍従を分けてくれて、もっと学問や武術を学べるように手配してくれて!
一緒に桃饅頭を食べたり、優しく頭を撫でてくれる僕の大切な黎深兄上。」
黄河は黎深の優しさを強さを……時折見せる寂しげな瞳の影を知っている。
「僕が黎深兄上を守る……!
僕は、黎深兄上が好き好んで誰かを傷つけたりしないと知っている。」
不敬罪なんて知らない!
黎深兄上と一緒に処刑されるなら、死出の旅時もきっと楽しい。
でも、兄上の命が狙われて……っ?!
「っ……行かなきゃ……!
黎深兄上が……!」
「第三王子、どうし……」
急に顔色を変えた黄河を王太子が引き留めようと腕を掴む。
「離して下さい!」
「一人では危険だ!」
「危険なのは黎深兄上です!
だって……だって!
黎深兄上には、北の離宮には護衛の兵士は一人もいない!!」
青褪めた黄河の叫びに、王太子達は目を見開くのだった。
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