第二十三話
薄暗い部屋に鎖に繋がれた淑女が一人。
それは、お茶会の会場だと案内された場所で、護衛だと思っていた兵士たちに拐かされた王太子妃・玉葉だった。
「(……碧雲さま……っ……)」
王太子・碧雲から贈られた玉の簪を奪われ、羽織っていた衣も奪われた。
日の光も差さない廃墟のような部屋は寒く、少しでも暖を取ろうと己の身体を抱き締める。
「っ……」
次に奪われるのは……命だろうか?
そんな絶望感に苛まれ、俯く玉葉。
「…………」
お茶会の約束を交わした書簡すら偽物だと気付くことの無かった……己の愚かさに歯噛みする。
「…………あ……どこ、から……」
そんな時に、ひらひら……と何処からともなく現れた黒揚羽。
場違いだが美しい蝶の羽に誘われるように、玉葉の瞳は釘付けになってしまう。
「っ…………?」
思わず自由な指先を黒揚羽に伸ばせば……一枚の符だけを残し、光の粒子となって消え去った。
「…………黎深、殿……?」
残された符を中心に暖かさが広がっていく。
その暖かさに、何故かいつかの幼い黎深の笑顔が浮かんだ。
「……あたたかい……」
不安に苛まれていた心が希望の灯火を取り戻すように。
「…………お待ち、しています……!」
玉葉は、再び助けが来ると信じる心を取り戻す事ができたのだった。
北の離宮の一室。
「おいおい、お前さー……案外、賢い奴だな。」
「(……そうでも無いよ。
何かの本でね、他人が作った符でも、魔力を込めれば発動できる物語があったから、ね。
もしかしたら、僕にも出来るかもしれないっていう駄目で元々の博打だよ。)」
黄河より受け取った一枚の符。
黎深が魔力を込めれば、黒揚羽に姿を変えて手元を離れていった。
そして……黎深が目を付けていた"場所"までひらひらと飛び、辿り着いた先には攫われた玉葉の姿。
「それだけじゃないだろ。
心が読める俺でも有るまいし、何で居場所の目星が付いてたんだよ?
王太子とかいう人間どもは、未だに目星の一つも付かなくて右往左往してるぜ?」
馬鹿だよなーと鼻で嗤う黒龍。
「(……思い込み……って、怖いよね。
最初っから一人を疑ってると、気付け無い違和感ってあるんだと思うよ。)」
「あのなー……お前、人が良すぎだろ。
居なくなった女は、王太子妃だったか?
自分の女くらい、番の男に自分で探させろよ」
「(でも、手遅れになってしまったら……それに……義姉上も、守るって……約束したから……)」
「……ホント、損なヤツ」
呆れたようにため息をつく黒龍に、黎深は心の中で苦笑する。
「(……たぶん……次の狙いは、僕かな?
不貞がどうのって印象操作しようとしてたみたいだし。
僕……女の人とお付き合いなんてしたことないし……不倫とかは、ちょっと……)」
「いや、そこかよ?!
どっちかってーと、命を狙われていることに騒がねーのっ?!」
黒龍の言葉に、黎深は心の中でニッコリと微笑んだ。
「(僕だけならまだしも、一つ間違えれば黄河くんも疑われていたかもしれないことに…………怒ってるよ)」
「お、おう…………普段、温厚な奴が怒ると怖いって……マジ、だな……」
白龍より怖い……と、黒龍は尻尾を丸くするのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




