第二十一話
「いや〜、第三王子殿下とはお初でしたっけ?
自分は近衛大将軍の夏侯 凌善って言うんだけどな…………ちょっくら、死んでくれるかい?」
「おっさんさぁ……あんま、体力ないんだよね。
ちょっとは、手加減をしてくれよな〜」
「……討たれた陛下、碧雲様には……恩は、ある。
けどな……死んだ人間よりも、俺は生きている妻や娘が大事なんだよ。」
「……分かってんだよ。
おっさんにだって、人間には曲げちゃいけねえモンが有ることくらい!
だけどな、それを曲げてでもっ……!
家族の命を守るためにはっ!
狗にでも、鬼にでも……なるしか無かったんだ……!」
「ぐっ……は、はは……わりぃな、殿下………最期くらいおっさんに、格好つけさせてくれや…………」
愛する妻と娘を人質に取られ、王位を簒奪したラスボス・黎深に従うしか無かった近衛の実力者。
飄々とした雲のように掴みどころのない男、夏侯 凌善。
ゲームの序盤から主人公達の前に立ち塞がり、時には助けるような仕草を見せたおっさんキャラ。
そんな凌善は、ラスボス戦で隙を突かれた主人公を庇って死ぬことになる。
今にも猪突猛進に走り出しそうな黄河を引き留めようとして、黎深の脳裏に浮かんだ"夏侯 凌善"の姿。
「(このままだと黄河くんが暴走しそうだし……役職一覧では、たぶん……王太子殿下の近衛部隊隊長だったはず……)」
黎深は口元に手を当てて、考えを巡らせる。
「(少なくとも……僕のことは信じなくていい。
でも、人徳の君って言われる手前……第三王子に対してまで、王太子殿下は手を出さない。
手を出すつもりならば、僕を捕まえた時に一緒に捕まえたはずだ。)」
「まー……確かになぁ。
近衛大将軍だっけ?
あの男臭いヤローには、お前だけを捕縛させたしな。」
王太子妃と一緒にお茶会したってなってんのに……と、身体を伸ばしながら黒龍が呟く。
「(……そうなんだよ。
つまり、王太子妃殿下の件で疑われているのは……僕だけ。)」
自嘲の笑みすら浮かばない。
今更だと分かっていても、心はズキズキと痛む。
「(……夏侯 凌善さんに力を借りるようにお願いするということは、王太子殿下にも黄河くんのことが伝わる。
一生懸命に僕の無実を証明しようと走る黄河くんは、事件のことを何も知らないという証明になる。)」
「……そうだな」
心の中で黎深は微笑む。
「(そうすれば……黄河くんに、王太子妃殿下の件で嫌疑が掛かる可能性は低くなる。
…………黄河くんは、守ることが出来る。)」
「お前なー…………ハア、運が悪いってゆーか、損な性格だな」
「(損でも何でも、僕のことを信じてくれた弟が……辛い思いをするのは嫌だよ)」
黎深は心を決める。
咎人だと、嫌疑の目が向けられている黎深の側にいるよりも、お優しい王太子殿下の庇護下に入った方が…………きっと、いい。
己を慕ってくれる黄河にもう……会えないかもしれないのは寂しい。
けれど……ゲーム以外の死亡フラグが立っている自分の側よりもマシだろう。
「……黄河」
「はい、兄上っ!」
「……私の嫌疑を晴らすと言うならば……ある男の力を借りるがいい。
そして……その男の力を借りることが出来た暁には、この手紙を渡せ」
黎深の言葉を疑うことなく素直に聞く黄河。
「……もう一つ、呪符を……」
わかりました!と疑うことのない素直な弟に、黎深は心の中で小さく謝罪するのだった。
王太子妃・玉葉が行方不明になって三日目。
「(玉葉……!
何処に、いったい何処にいるんだ……!)」
簪が見つかった東の雑木林を中心に探す王太子。
「……人一人を何の痕跡も、違和感も残すことなく警備の厳重な宮廷から連れ出すなど不可能だ」
だから、玉葉は宮廷内の何処かに囚われていると、王太子は確信していた。
「王太子殿下……」
「っ……もう一度っ!
隅から隅まで調べ尽くせ!」
「…………はっ!」
近衛の大将軍である剛炎の瞳が、最も怪しい第二王子を拷問にかけた方が早いと訴えてくる。
「(っ……第二王子は……第二王子はっ!
偽りなど吐いていないと言っていた……!)」
愛する妻の命。不仲な弟。
玉葉のために黎深の言葉をを信じることなく……拷問にかける。
その道を選んだら……二度と黎深と分かり合えなくなる予感がした。
「っ……ま、ち……!」
「……何だ?」
見落としている物は無いかと、懸命に頭を働かせる王太子。
そんな時に、扉の向こう側が何やら騒がしくなった。
「ですから!
僕が用事があるのは王太子殿下ではありません!
僕は、夏侯 凌善という人を探しているんです……!」
「第三王子殿下、お待ちを……!
その者は、只今は王太子妃殿下の探索に出ておりますので……」
「では、どの辺りに探索に出ているのかだけでも教えて下さい!」
騒がしい声に引き寄せられるように、王太子が扉を開ければ、近衛の兵達に詰め寄る山吹色の頭が見えた。
「第三王子、か……?
ここで、何をしている?」
「あ……王太子殿下!」
現れた王太子に驚いたように目を丸くした黄河が、慌てた様子で平伏する。
「平伏しなくていい。
何を騒いでいるのかを聞いているのだ。」
「はい!
兄上の嫌疑を晴らすために、夏侯 凌善という人物に会いに来ました!」
「…………は?」
真面目な表情で告げられた内容に、王太子達は虚を突かれてしまうのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




