第十七話
「黎深……何か、申し開きはあるか?」
双龍天華国、玉座の間。
王国の最高権力者として玉座に座す、黎深の父親であり、国王・紫 法翔。
法の番人の如き厳しい顔付き、整えられた立派な顎髭。
「恐れながら、陛下。
申し開きも何も……この矮小な私めには、全く身に覚えのない事態に戸惑いを隠せませんが?
(申し開きって何っっ?!
もう、僕が犯人だって決まっちゃったのっ?!)」
法翔に問い掛けられたものの、その問い掛けはまるで黎深が犯人だと断定されているかのようだった。
「あくまで、知らぬと言うつもりか?」
「何を問われているかも分からぬのに、知らないも何も有りませぬ」
黎深の視界の端で、黄色い小鳥が舞う。
それに気が付いたから……無様な姿は見せたくないと思ってしまった。
「そうか……剛炎」
「はっ!」
法翔が近衛将軍の名を呼べば、ハキハキとした口調で答えて前に出る。
「箝口令を敷いていたゆえ、関わった者たち以外は詳しい事情は知らぬ。
……一から皆に説明せよ。」
「昨日!王太子妃殿下は、貴殿のもとにお尋ねになると書簡を交わした上で、お会いになったはず!
お茶会を第二王子殿下と第三王子殿下とする予定だったとのこと!
しかし!
夕方になっても帰って来られぬ王太子妃殿下を心配した侍女たちが探しに走り回り、雑木林で血の付いた王太子妃殿下の簪を発見した!」
「(え……ちょっと待って?!
僕、王太子妃殿下とお茶なんてしてないよぉぉぉぉ?!
範さんからも……そんな話は聞いてないけど……?!)」
「一晩中探し回り、それ以外の手掛かりは発見に至らず……第二王子殿下を捕縛させて頂くことになり申した!」
以上だと、一歩下がった剛炎に法翔は重々しく頷き、皇太子は無言を貫く。
「……理解出来ませんね。
私は第三王子とならば兎も角、王太子妃殿下とお茶どころか、書簡を交わした覚えも有りませぬが?」
知らない!そんなことしてない!と心の中で叫ぶ黎深を嘲笑うように、周囲の貴族達が次々に囁く。
「怖い怖い……もしや、王位を望んでの凶行か?」
「……皇太子殿下の足元にも及ばぬクセに。」
「王太子妃殿下は、すでにこの世に居ないのでは?」
「あり得る……第二王子殿下が、その手に掛けて第三王子と共に遺体を池にでも沈めたのではないか?」
「遺体を沈めた池から目を逸らすために、わざと東の雑木林に玉の簪を放置したのやも……」
まことしやかに囁く宮廷雀達。
「ほう……?
私が第三王子に、そのような真似をさせると?
……口の硬さを信用できるか分からぬ者に命じるくらいならば、女の遺体など骨も残さず燃やした方が早かろう。」
ちょっと待ってぇぇぇ?!
僕のお口ぃぃぃぃ!!!
「ひっ……流石は血も涙も無い第二王子殿下!
考えることが、我らのような凡人とは一味違いますなぁ!」
「ほんに!
やはり貴方様が王太子妃殿下を拐かしたに違いありませぬ!
……そうそう……王太子妃殿下とは、第二王子殿下も浅からぬ縁だったと聞き及んでおりますぞ?
これで第二王子殿下の自室より、濃紺の衣でも出れば言い逃れはできませぬなぁ」
「下卑た想像力だけは一級品だな。
王太子妃殿下を拐かし、その命を奪って私になんの得がある?
そのような真似をするくらいならば、堂々と王位簒奪を狙うまで。
(うわぁぁん……!
僕、ぼくぅぅぅっっ!
王太子妃殿下を傷付けたりしないのにぃぃぃぃ!!!
……って、あれ……あの人……僕の気の所為、かな……?)」
心の中で滂沱の涙を流していたが、貴族の一人の言葉に黎深は違和感を覚えた。
「王位簒奪などと……!
しかしまぁ……男女の仲とは分からぬもの……だからこそ、王太子殿下が贈った簪を捨てたのでは?
第二王子殿下と王太子妃殿下は……まさか……?」
色とりどりの上等な絹に身を包んだ貴族たち。
その中の一人に黎深は視線を向けるが、玉座の近くから「ガツンッッ!!」と激しい音が響き渡った。
「まさか、何だと言うのだ?」
怒りに満ちた眼差しで、愛剣を鞘に入ったまま大理石の床に叩き付けた王太子。
「ひっ……?!」
「貴様は、我が妻が不貞を働いたと言いたいのか?」
「けっ、決してそのようなことは、申しておりませぬ!」
苛烈な怒気を放つ王太子に、貴族たちは身体を竦ませる。
「第二王子……お前も、本当に我が妻の行方を知らぬと申すのか?」
王太子・碧雲の……兄の苛烈な瞳が、黎深を真っ直ぐに捉えた。
「その問いに、何の意味が?
私が何と答えようとも……王太子殿下の答えは、決まっているでしょうに。
(僕……死んだ……。
兄上は……僕のことを信じてくれるはずがない……よね……)」
黎深の心が急速に萎んでいく。
その心に……"黎深"としての記憶が蘇っていくのだった。
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