第十五話
「……っ……ふ、ざける……な……!」
「黎深……?」
玉葉が不味いと思った時には……もう、遅かった。
「ふざけるなっっ……!!」
「え……」
「黎深殿……!」
大きな瞳から次々と流れ落ちる大粒の涙。
「黎深、どうした……っ」
黎深が泣いた理由が分からずに、戸惑うように伸ばされた碧雲の手が弾かれる。
「五月蝿いっ!
ぼくの名を呼ぶなっっ!!
お前など、お前などっっ……!!」
怒りと絶望に満ちた黎深の心は止まらない。
我慢を重ねていた……負の感情が溢れ出す。
「お前など!
金輪際……兄とは思わぬっっ!!!」
「っ……?!」
それが……碧雲と黎深の決定的な亀裂となった。
「黎深殿……!」
走り去る幼い黎深の背中。
呼び止めても止まることの無かった足。
「…………」
黎深を追いかけた方が良かったかもしれない。
しかし、呆然とした碧雲を一人残す訳にもいかなくて。
次に黎深にあった時……全ては、もう……遅かった。
「……黎深、先日は……」
「これは、これは……王太子殿下。
己のような者に、何か御用ですか?」
「っ……」
周囲の貴族たちの思惑も重なり、どんどん引き離されて行く碧雲と黎深。
王太子に寄り添いながら、壊れてしまった兄弟の絆を思い……玉葉は瞳を伏せる。
「…………」
失った過去の記憶が、関係が……今の、黎深と黄河に重なるのだ。
「……玉葉……私、は……もう一度…………いや、何でもない」
もう一度、黎深と兄弟としてやり直せるだろうか?
碧雲の口から、そんな言葉が零れ落ちそうになる。
「(……だが……もう、すべては……遅いのだ……)」
碧雲と黎深の間には、深い谷のような大きな亀裂が広がっている。
どんなに手を伸ばしても……届くような距離ではないのだ。
「(……碧雲さま…………あの頃の私には、二人の絆が壊れていくのを眺めるだけで、何も出来なかった……)」
瞳を伏せた玉葉は思う。
己に……何か、出来ないだろうか……と。
「(……今の黎深殿ならば……話を聞いてもらえるのではないかしら……?
でも……きっと、碧雲さまをお連れすれば……黎深殿は素直に言葉を交わして下さらない気がします……)」
黎深殿との関係に思い悩む……玉葉の愛しい夫。
己を大切にしてくれる碧雲のために、玉葉は何かをしたいと思考を巡らせる。
「(人目を忍んで会うのは体裁が悪い……。
人目もある場所で、第三王子も巻き込んでお茶会をするのは……どうかしら?)」
何とか碧雲と黎深、二人の仲を取り持ちたい。
そんな玉葉の想いが…………事件の発端だった。
この碧雲と玉葉が夕餉を共にした数日後……。
第二王子のもとを訪れようとした王太子妃・玉葉が行方不明となった。
……そして、犯人は第二王子ではないかと大騒ぎになるのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きも読みたい!」 「面白かった!」「応援したい!」
と感じていただけましたら、ブックマークや評価(★★★★★)で応援していただけると、とても嬉しいです。
一つひとつの応援が、物語を書き続ける力になっています。
最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




