第十二話
「(いっったぁぁぁぁいっっっ!!!
ちょっと、ちょっとぉぉぉっっ……!
何っ!なんなの?!
何でライオン?ライオンだよね?
雷みたいなバチバチを装着してるけどライオンだよねぇぇぇぇっっ?!
何で動物園の折の中から出てきてるのさぁぁぁぁぁっっ?!)」
いつもの時間に現れない第三王子が気になって、範にも命じて探索していた黎深。
人に命じた以上は、自分も探さなければと宛もなく歩き出そうとした黎深を、黒龍が引き止めた。
「(間一髪じゃん!
黒さんが此方から第三王子の気配がするって教えてくれなきゃ、第三王子が怪我をするところだったじゃん……!)」
第三王子を背に庇い、腕で獅子の爪を受けることになった黎深。
服の袖が破け、くっきりと三本線の傷が刻まれた腕から血が滴り落ちる。
「(……てゆーか!
僕も思わず庇っちゃったけど!
庇わなかったら第三王子が大怪我するところだったじゃん……!)」
ズキズキと痛む腕の傷に、黎深の眉が寄る。
「っ……兄、第二王子殿下!
腕から血が出て……!」
「掠り傷だ」
「っ……僕を、庇ったから……!」
「……自惚れるな。
貴様如きを、この私が庇ったりなどせぬ」
気にしないで、大丈夫だよと伝えたくても、黎深の口から飛び出すのは、捻くれた言葉ばかり。
「あー……どーする?
俺が助けた方がいいか?」
「(助けてぇぇぇぇぇっっ!!
……って、言いたい所だけど……)」
黎深の側にいる黒龍に怯えているのか?
一定の距離を保って、近寄ろうしない獅子。
「(……剣も無いし……剣があっても、どうこう出来る相手じゃないかもだけど……!)」
黒龍に助けを求めれば簡単な話だが…………それではいけない、と己の中の何かが暴れる。
「(何か……僕でも、何か出来ることは……っ!)」
考えを巡らせていれば、脳裏に蘇ったゲームのラスボス戦。
ゲームの中のラスボス"黎深"は……主人公パーティを全滅に追いやることで有名だった!
「(駄目で元々!
出来たら儲かりもの!)」
魔力を練るのも、術を構成するのも!
黎深としての身体に染み込んでいる……!
「っ……」
出来る!という確信が黎深を突き動かす。
練り込まれた魔力が、黎深の身体から湯気のように立ち昇る。
「……我が前に平伏せ!」
上下左右。
赤黒い魔力の刃が獅子を貫いた。
「……すごい……」
あまりの破壊力に第三王子は目を見開き、その瞳には尊敬の念が輝く。
「っ……ひ……」
「お、おに……」
「……っ……」
しかし、逆に取り巻き達の瞳には、あんなにも恐ろしかった獅子の化物を一撃で屠った黎深もまた化け物のように映った。
「…………怪我はないな」
断末魔の叫びを残して消え去った獅子。
魔力の名残りである黒い輝きが消えていくなか、振り返った黎深。
「は、い……あの、助けてく……」
「化け物……!」
素直にお礼を伝えようとした第三王子の声に被せて、取り巻き達の一人が震える声で叫んだ。
「あんな……!
あんな、化け物を倒せるなんて……人間じゃないっっ!」
「お……おい、やめろって……!」
恐怖に心が支配された取り巻きの一人が、引き攣った声で狂ったように叫ぶ。
「…………」
怯え切った目に、震える身体。
少しでも黎深から距離を取ろうとする男の股間から漏れ出た物が、地面に黒いシミを作っている。
「(……そう、だよね……怖い、よね……)」
助けたくて、一生懸命だったとは言え……獅子の化物を一撃で倒せてしまう黎深が、恐ろしくないはずが無い。
しかも、極悪非道の冷血漢と噂されるラスボスの第二王子だ。
……その纏う空気も、冷たい表情も……恐ろしい。
「巫山戯るなっっ!!」
「っ?!」
結局……自分は恐ろしい存在なのだ、と。
死亡フラグを断ち切るには、前途多難だと落胆しかけた黎深。
「僕のっ!
僕の尊敬する兄上は化物なんかじゃないっっ!!
誰よりも優しい僕の兄上だっっ!!!」
心の中で目を見開く。
打算込みで接していた第三王子が……黎深のために顔を真っ赤にして叫んでいる。
「(……黒さん……)」
「良かったじゃねーか。
お前の優しさ、伝わってたみたいだぜ。」
「っ……」
少しだけ……泣きたくなる。
心が読める黒龍にしか分かってもらえないと思っていたから。
だが、近付いて来た足音に気が付き、その涙を流す暇などない。
「はっ……はは……化物じゃないか……!
お前のことだって暇潰しで……懐いたお前を拷問して、楽しむつもりなんだ……!」
「(は……?)」
「馬鹿っ!よせっ……!」
恐怖でまともに思考が働いていないのだろう取り巻きの一人。
他の取り巻き達が止めようとするが、暴れて叫び続ける。
「だって……そうじゃないと、可笑しいだろう!
味噌っかす王子を極悪人の第二王子が庇うなんてっ!
それに……味噌っかす王子も何だよ、あの獅子の化物は!
お前から奪った紙から飛び出したぞっっ?!」
「ほう……?
では、お前達は王族を侮辱し、危害を加え、その持ち物を奪ったということで相違ないな?」
「ひっ……王族じゃない!
ただの味噌っかす王子じゃないか!」
冷たく見下す黎深の圧力に耐えられなかったのか、歪んだ笑みを形どった口からは震える声が溢れ出す。
「……聞いたな、範」
黎深の静かだが有無を言わせぬ声音。
「はい、黎深様。
私めだけでなく……皆で聞いておりました。」
「「「「「っ?!」」」」」
その声に、いつの間にか駆け付けていた範を筆頭に、数人の兵士たちが厳しい表情を浮かべていた。
「連れて行け」
冷徹な響きを持った黎深の命令に従い、逃げようとした取り巻き達が次々と捕らえられていく。
「……一つ、訂正をしておいてやる」
「(……伝わるか、分かんないけど……コレだけは、ハッキリと言っておきたい……!)」
連行されて行く取り巻き達に、黎深は呟く。
「……この私が気まぐれや利用するためだけに、第三王子に手を貸す、と?
そのような無駄極まりないことを、この私がすると思うとは片腹痛い。」
「っ……第二王子殿下……」
黎深の言葉に、第三王子が目を見張る。
「この私が手を貸すのは、其奴に価値を見出したからに過ぎぬ。
……必ず、この私を超えるような男に育つ、とな。」
「……ぅ……っ……!」
生まれて初めて、いや母以外に初めて……自分に価値があると言ってくれた……!
まるで名前の通り、黎明の光のような兄の声は第三王子の魂に刻み込まれた瞬間だった。
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