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第9話


 空が裂ける音は、爆発よりも不気味だった。


 “バリッ”という乾いた音と同時に、訓練場の上空が歪む。


 黒い輪が広がり、そこから魔人たちが降りてくる。


 数ではない。


 圧だ。


 それだけで空気が重くなる。


ガルディア「総員!! 陣形を組め!!」


騎士たち「了解!!」


 騎士団が一斉に動く。


 だが、その動きの中に“迷い”が混じっていた。


 恐怖だ。


 相手の格が、すでに常識を超えている。


王「……遅い」


 王が静かに呟く。


 そして一歩前に出た。


王「神代 湊」


湊「何」


王「貴様は“戦況の中心”だ」


 その言葉に、空気が変わる。


 全員の視線が一度、俺に集まる。


王「動くな」


湊「……動いたら?」


王「この国が滅ぶ」


 はっきりと言った。


 冗談ではない。


 その瞬間。


リリアナ「お父様!!」


 リリアナが叫ぶ。


リリアナ「もうやめてください!!この人は――!」


王「黙れ、リリアナ」


 その声は、冷たい。


 親子の会話じゃない。


 命令だ。


 俺はそのやり取りを見ながら、少しだけ視線を落とす。


……なるほど


 ようやく構造が見えてきた。


 この国は一枚岩じゃない。


 “恐怖で統制されたシステム”だ。


 王が恐れているものがあり、

 騎士はそれに従い、

 リリアナだけがそこから外れている。


 そして――


 その“恐れの対象”が俺。


ゼクト「おいおい」


 空から声。


ゼクト「なんか会議してる場合か?」


 黒い輪から、ゼクトが降りてくる。


 ゆっくりと。


 まるで散歩みたいに。


 その背後に、魔人たちが整列している。


ゼクト「王国、思ったより脆いな」


ガルディア「貴様……!!」


 騎士団長が踏み出す。


 だが、その瞬間。


ゼクト「動くな」


 たった一言。


 空気が“固まった”。


 圧じゃない。


 魔力制御だ。


 全員の身体が一瞬だけ重くなる。


ガルディア「ぐっ……!」


 膝が沈む。


 騎士たちも同じだ。


 まるで見えない重力。


ゼクト「で」


 ゼクトの視線が俺に向く。


ゼクト「お前が“解析者”か」


湊「そう見えるならそうなんだろ」


ゼクト「いいね、その余裕」


 楽しそうに笑う。


ゼクト「一つ試したいことがある」


湊「やめとけ」


ゼクト「無理だな」


 次の瞬間。


 ゼクトの周囲の空間が歪む。


 魔力の形が変わる。


 術式が“編まれる”。


《警告》

《未知術式生成》

《解析難度:異常》


 視界にエラーのような文字。


 初めて見る反応だ。


湊「……これ」


 理解が追いつかない。


 “解析できない構造”。


 いや、正確には――


 解析する前に“形が変わる”。


ゼクト「観測者対策ってやつだ」


 ゼクトが笑う。


ゼクト「お前みたいなのはな」


ゼクト「“理解する前に潰す”のが基本だ」


 空気が震える。


 次の瞬間。


 ゼクトの指が軽く動いた。


 その瞬間。


 空間そのものが“折れた”。


湊「っ!!」


 反射的に後ろへ跳ぶ。


 だが遅い。


 俺の左側の空間が“消えた”。


 削り取られたように。


 ガルディアが叫ぶ。


ガルディア「空間切断だと……!?」


 リリアナの顔が青ざめる。


リリアナ「そんなの……魔法の域じゃ……!」


 ゼクトは肩をすくめる。


ゼクト「魔法じゃねぇよ」


ゼクト「“構造操作”だ」


 その言葉が刺さる。


 構造。


 俺と同じ単語。


……こいつ


 視線が交差する。


 理解した。


 こいつも“見ている側”だ。


ゼクト「お前、面白いな」


ゼクト「普通の観測者じゃねぇ」


 ゆっくり歩いてくる。


 距離が縮まる。


 周囲の騎士は動けない。


 いや、“動くという選択肢”を失っている。


ゼクト「お前、どこまで壊せる?」


 その問い。


 意味がわからないのに、妙に核心を突いている。


湊「……知らない」


ゼクト「だろうな」


 笑う。


ゼクト「だから試す」


 その瞬間。


 ゼクトの手が俺の方向へ向いた。


 何かが来る。


《警告》

《構造崩壊攻撃》


 避けられない。


 理解がそう告げる。


リリアナ「神代!!」


 叫び声。


 その瞬間。


 俺の中で“何か”が切り替わった。


湊「――解析」


 世界が静止する。


 さっきとは違う。


 もっと深い層。


 “構造そのものの裏”。


 ゼクトの攻撃が見える。


 ではなく――


 “意味”が見える。


 これは攻撃じゃない。


 試験だ。


 観測者としての。


湊「……ふざけるな」


 無意識に声が漏れる。


 その瞬間。


《深層解析開始》

《制限解除》

《危険機能:起動》


 視界が割れた。


 ゼクトの攻撃が、目の前で“停止”している。


 いや違う。


 止めている。


 俺の認識が、それを“固定”している。


ゼクト「……ほぉ」


 初めて、ゼクトの声に驚きが混じった。


ゼクト「そこまで行くか」


 空気が震える。


 次の瞬間。


 俺とゼクトの間に、“見えない線”が張られた。


 戦闘じゃない。


 これはもう――


 “観測同士の衝突”だった。

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