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第8話


 空の歪みは一瞬で消えた。


 だが“何かが来る”という感覚だけは、消えなかった。


 訓練場の沈黙は重いままだ。


 騎士たちは剣を構えたまま動かない。

 王も、ガルディアも、そしてリリアナも。


 全員が俺を見ている。


 敵として。

 危険物として。

 あるいは――理解不能な存在として。


ガルディア「……陛下、これ以上は」


王「黙れ」


 王の声は低い。


 だが、さっきまでの絶対的な余裕は消えていた。


王「神代 湊」


湊「何」


王「今の“領域”は何だ」


 簡潔な問い。


 でも本質を突いている。


 俺は少し間を置いてから答えた。


湊「わからない」


王「またそれか」


湊「本当にわからない」


 正確には、“わかってしまう”のが問題だ。


 理解が進むたびに、世界の仕組みが剥がれていく。


 それは知識じゃない。


 “構造そのものの把握”だ。


リリアナ「お父様……もうやめてください」


 リリアナが一歩前に出る。


リリアナ「このままでは本当に危険です」


王「危険だからこそ管理する」


 即答。


 迷いがない。


 その瞬間だった。


 俺の視界に再び文字が浮かぶ。


《王国中枢再解析》

《呪術リンク検出》

《外部干渉:魔族領域》


……やっぱりな


 この国は単体で動いていない。


 どこか“別の意思”が絡んでいる。


 そしてその糸は――王に繋がっている。


湊「王様」


王「何だ」


湊「一つ聞く」


湊「魔族って、本当に“敵”なのか?」


 空気が止まった。


 ガルディアの顔が強張る。


ガルディア「何を言っている!!」


王「黙れと言った」


 王は一瞬だけ目を細める。


 その沈黙が答えだった。


王「……敵だ」


 短い。


 だが、作られた答えのようにも聞こえる。


 俺の中で、何かが確信に変わる。


湊(やっぱり“単純な戦争じゃない”)


 その時。


《遠隔観測》

《魔族領域干渉検知》


 視界の端に“赤い座標”。


 そこに、ゼクトの反応が再び浮かぶ。


 しかも一つじゃない。


 複数。


 まるで――囲っているように。


リリアナ「神代……顔色が……」


湊「来る」


 思わず口に出た。


ガルディア「何がだ」


湊「さっきのやつ」


 その瞬間。


 遠くの城壁が“音もなく崩れた”。


 爆発じゃない。


 切断。


 空間ごと、断ち切られたような崩壊。


騎士「な、なんだ!?」

騎士「敵襲!!またか!!」


 悲鳴が広がる。


 次の瞬間。


 城の上空に“黒い輪”が浮かんだ。


 直径数十メートル。


 歪んだ空間。


 その中心から、ゆっくりと声が響く。


ゼクト「よォ」


 先ほどと同じ声。


 だが今度は、空全体に響いている。


ゼクト「試しに見に来たんだが……」


ゼクト「想像以上だな」


 空間が軋む。


 その輪の中から、複数の影が降りてくる。


 全部、魔人。


 しかも――さっきより強い。


《個体解析》

《平均Lv68〜72》


 訓練場がざわつく。


ガルディア「総員戦闘配置!!」


王「遅い」


 王が短く言う。


王「もう侵入されている」


 その言葉通り。


 城の外側から、次々と爆発音が響き始める。


 包囲。


 完全な侵攻。


リリアナ「どうして……こんな短時間で……」


 震える声。


 その横で、ゼクトの声が続く。


ゼクト「王様よォ」


ゼクト「“観測者”を囲ってるつもりか?」


 笑っている。


 完全に遊んでいる。


ゼクト「そいつはな」


ゼクト「もう“世界側”の存在だぞ」


 その瞬間。


 俺の中で何かが跳ねた。


《危険領域接続》

《解析対象:世界構造》


 ――世界側。


 その言葉が刺さる。


湊「……俺は」


 無意識に呟く。


湊「何なんだよ」


 その瞬間だった。


 リリアナが俺の袖を掴んだ。


リリアナ「逃げてください」


湊「……は?」


リリアナ「今ならまだ間に合います」


 必死な声。


 初めて見る“王女じゃない顔”。


リリアナ「あなたがいると、この国は壊れます」


 その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。


 だが――


 もう遅い。


 ゼクトが笑う。


ゼクト「さあ」


ゼクト「“解析者”」


ゼクト「選べよ」


 空が黒く裂ける。


 世界が、完全に戦争へ落ちていく。

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