第8話
◇
空の歪みは一瞬で消えた。
だが“何かが来る”という感覚だけは、消えなかった。
訓練場の沈黙は重いままだ。
騎士たちは剣を構えたまま動かない。
王も、ガルディアも、そしてリリアナも。
全員が俺を見ている。
敵として。
危険物として。
あるいは――理解不能な存在として。
ガルディア「……陛下、これ以上は」
王「黙れ」
王の声は低い。
だが、さっきまでの絶対的な余裕は消えていた。
王「神代 湊」
湊「何」
王「今の“領域”は何だ」
簡潔な問い。
でも本質を突いている。
俺は少し間を置いてから答えた。
湊「わからない」
王「またそれか」
湊「本当にわからない」
正確には、“わかってしまう”のが問題だ。
理解が進むたびに、世界の仕組みが剥がれていく。
それは知識じゃない。
“構造そのものの把握”だ。
リリアナ「お父様……もうやめてください」
リリアナが一歩前に出る。
リリアナ「このままでは本当に危険です」
王「危険だからこそ管理する」
即答。
迷いがない。
その瞬間だった。
俺の視界に再び文字が浮かぶ。
《王国中枢再解析》
《呪術リンク検出》
《外部干渉:魔族領域》
湊
この国は単体で動いていない。
どこか“別の意思”が絡んでいる。
そしてその糸は――王に繋がっている。
湊「王様」
王「何だ」
湊「一つ聞く」
湊「魔族って、本当に“敵”なのか?」
空気が止まった。
ガルディアの顔が強張る。
ガルディア「何を言っている!!」
王「黙れと言った」
王は一瞬だけ目を細める。
その沈黙が答えだった。
王「……敵だ」
短い。
だが、作られた答えのようにも聞こえる。
俺の中で、何かが確信に変わる。
湊(やっぱり“単純な戦争じゃない”)
その時。
《遠隔観測》
《魔族領域干渉検知》
視界の端に“赤い座標”。
そこに、ゼクトの反応が再び浮かぶ。
しかも一つじゃない。
複数。
まるで――囲っているように。
リリアナ「神代……顔色が……」
湊「来る」
思わず口に出た。
ガルディア「何がだ」
湊「さっきのやつ」
その瞬間。
遠くの城壁が“音もなく崩れた”。
爆発じゃない。
切断。
空間ごと、断ち切られたような崩壊。
騎士「な、なんだ!?」
騎士「敵襲!!またか!!」
悲鳴が広がる。
次の瞬間。
城の上空に“黒い輪”が浮かんだ。
直径数十メートル。
歪んだ空間。
その中心から、ゆっくりと声が響く。
ゼクト「よォ」
先ほどと同じ声。
だが今度は、空全体に響いている。
ゼクト「試しに見に来たんだが……」
ゼクト「想像以上だな」
空間が軋む。
その輪の中から、複数の影が降りてくる。
全部、魔人。
しかも――さっきより強い。
《個体解析》
《平均Lv68〜72》
訓練場がざわつく。
ガルディア「総員戦闘配置!!」
王「遅い」
王が短く言う。
王「もう侵入されている」
その言葉通り。
城の外側から、次々と爆発音が響き始める。
包囲。
完全な侵攻。
リリアナ「どうして……こんな短時間で……」
震える声。
その横で、ゼクトの声が続く。
ゼクト「王様よォ」
ゼクト「“観測者”を囲ってるつもりか?」
笑っている。
完全に遊んでいる。
ゼクト「そいつはな」
ゼクト「もう“世界側”の存在だぞ」
その瞬間。
俺の中で何かが跳ねた。
《危険領域接続》
《解析対象:世界構造》
――世界側。
その言葉が刺さる。
湊「……俺は」
無意識に呟く。
湊「何なんだよ」
その瞬間だった。
リリアナが俺の袖を掴んだ。
リリアナ「逃げてください」
湊「……は?」
リリアナ「今ならまだ間に合います」
必死な声。
初めて見る“王女じゃない顔”。
リリアナ「あなたがいると、この国は壊れます」
その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
だが――
もう遅い。
ゼクトが笑う。
ゼクト「さあ」
ゼクト「“解析者”」
ゼクト「選べよ」
空が黒く裂ける。
世界が、完全に戦争へ落ちていく。
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