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第7話


 世界が“静止”したように見えた。


 いや、正確には違う。


 動いているのは俺の認識だけだった。


 振り下ろされる剣。


 踏み込む騎士の足。


 開かれる王の口。


 その全てが、極端に遅い。


湊「……これが、領域?」


 視界が別物になっている。


 空間が線で区切られている。


 人間も武器も魔力も、全部“構造体”として表示されていた。


《領域解析展開中》

《対象:王城内部》

《情報同期率:41%》


 まだ完全じゃない。


 それでも十分だった。


 剣の軌道が見える。


 騎士の重心が見える。


 魔力の流れが、線になって浮かんでいる。


ガルディア「なっ……動きが……!?」


 騎士団長の声が歪む。


 彼の動きも遅い。


 いや、俺が速くなっている。


湊(違う……速度じゃない)


 理解が追いつく。


 これは“時間の支配”じゃない。


 情報処理速度の差だ。


 世界は変わっていない。


 俺の“理解速度”だけが異常に上がっている。


王「……やはり、か」


 王の声だけがはっきり聞こえた。


 遅い世界の中で、そこだけ普通に聞こえる。


王「観測者の領域発現」


 王の目が細くなる。


王「全員、下がれ」


ガルディア「陛下!?」


王「死ぬぞ」


 その言葉と同時に。


 俺の視界に“赤い点”が大量に浮かんだ。


《警告》

《敵性反応:23》

《全員高脅威個体》


 ――全員。


 騎士全員が、敵判定。


 しかも。


《戦闘推奨》


 脳裏に冷たい表示。


湊「……これ、やばいな」


 無意識に呟く。


 その瞬間だった。


リリアナ「神代!!やめてください!!」


 彼女の声だけが“普通の速度”で届いた。


 振り向く。


 リリアナは必死に叫んでいる。


リリアナ「それを使ったら、本当に戻れなくなります!!」


湊「戻れない?」


リリアナ「“観測者”は、世界を“理解しすぎた人間”です!」


リリアナ「理解したものは、壊せるようになる!」


 その言葉で、頭の奥が冷えた。


 壊せる。


 昼間も言われた。


 ゼクトも言っていた。


 “世界を壊せる”。


 その意味が、少しずつ繋がる。


 その時。


ガルディア「陛下!捕縛を!」


王「待て」


 王が静かに手を上げる。


王「神代 湊」


王「今ここで、選べ」


 遅い世界の中で、王だけが明確な意思を持っている。


王「従うか」


王「排除されるか」


 シンプルな二択。


 だが、その瞬間。


《領域解析:王個体》

《構造解析完了》

《内部情報:閲覧可能》


 王の“中身”が見えた。


【王・アルセリア】

状態:呪術依存(重度)

目的:勇者兵器化計画維持

恐怖対象:観測者


……なるほど


 全部繋がった。


 召喚は魔族対策じゃない。


 “戦力確保”じゃない。


 もっと別の目的だ。


 この王は、この世界を守りたいんじゃない。


 “支配構造を維持したい”だけだ。


湊「……従うってのは」


 ゆっくり言葉を選ぶ。


湊「兵器になるってことだろ」


王「そうだ」


 即答。


 隠す気すらない。


 その瞬間、リリアナが震えた。


リリアナ「お父様……っ」


 だが王は見ていない。


 見ているのは俺だけ。


王「貴様の力は危険だ」


王「だから管理する」


 静かな狂気。


 正当性を疑っていない目。


 その時だった。


 俺の中で何かが“ズレた”。


 怖い、という感情ではない。


 むしろ逆。


 理解してしまった。


湊(ああ、そうか)


 この人たちは正しいと思ってる。


 自分たちの中では。


 だから恐れている。


 だから縛ろうとする。


 でも――


湊「……無理だな」


 小さく言った。


王「何?」


湊「それは選べない」


 空気が変わる。


 遅い世界の中で、剣がわずかに震える。


ガルディア「貴様……!」


 その瞬間。


 俺は“見てしまった”。


 王城の構造。


 騎士の配置。


 魔力の流れ。


 そして――


 この場全員の“関係性”。


 鎖みたいに繋がっている。


 支配構造。


 命令系統。


 恐怖の連鎖。


湊「……なるほど」


 気づく。


 これ、全部“解析できる”。


 そして。


 解析できるものは――


湊「壊せる」


 その言葉を口にした瞬間。


《警告》

《領域過負荷》

《制御限界接近》


 世界が揺れた。


 石畳が軋む。


 空間が歪む。


ガルディア「やめろ!!」


リリアナ「神代!!」


 王が一歩下がる。


王「……っ」


 初めて、恐怖が浮かんだ。


 その瞬間。


湊「解除」


 静かに言った。


 次の瞬間。


 “遅い世界”が元に戻る。


 音が一気に押し寄せる。


 剣の軌道が現実の速度に戻る。


 だが――


 誰も、俺に触れていない。


 全員が一歩引いていた。


 さっきまで攻撃していた騎士すら。


ガルディア「……何をした」


 声が震えている。


 俺は答えない。


 ただ、わかったことが一つある。


湊(これは力じゃない)


湊(“認識そのもの”だ)


 その時。


 塔の外。


 空が一瞬だけ黒く歪んだ。


 そして、遠くで声が響く。


ゼクトの声「やっと、開いたか」


 誰も気づいていない。


 だが俺だけが聞こえた。


《新規異常存在接近》


 次は、もっと“上”が来る。

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