第6話
◇
塔の空気が一瞬で凍りついた。
王の視線は、まっすぐ俺に突き刺さっている。
王「リリアナ。そこを退け」
リリアナ「お父様、待ってください」
王「退けと言った」
短い一言。
だが拒否を許さない圧があった。
リリアナの肩がわずかに震える。
それでも彼女は一歩も引かなかった。
リリアナ「彼は危険ではありません」
ガルディア「殿下、その判断は危険です」
騎士団長が低く言う。
ガルディア「昼間の件を忘れましたか。魔族の襲撃、そして“解析”による異常現象」
俺を見る目が完全に敵だ。
いや、もう“人間扱いしていない”に近い。
王「神代 湊」
王が一歩踏み出す。
王「貴様は、何を知っている」
湊「……何も」
王「嘘をつくな」
即答。
空気がさらに重くなる。
周囲の騎士が剣に手をかける。
リリアナが焦ったように振り向く。
リリアナ「神代! 逃げてください!」
湊「……逃げろって言われてもな」
逃げ道は塞がれている。
窓の外には騎士。
階段にはガルディア。
出口は王の後ろ。
完全包囲。
《経路解析》
《脱出成功率:6%》
低い。
かなり低い。
その時。
王「貴様は“観測者”に近い存在だな」
湊「……観測者?」
リリアナがハッとする。
リリアナ「お父様、それは禁じられた――!」
王「黙れ」
王の声が一段低くなる。
王「この世界を壊した存在の名だ」
心臓が跳ねる。
知っている単語が、ここでも出てくる。
王「魔法を解析し、術式を分解し、法則そのものを崩壊させた異界者」
王「その残滓が、お前だ」
ガルディアが剣を抜く。
ガルディア「やはり排除すべきです」
リリアナ「やめて!!」
リリアナが叫ぶ。
だが誰も止まらない。
空気が戦闘に傾く。
その瞬間だった。
《警告》
《強制情報開示》
視界が白く弾けた。
湊「ぐっ……!」
頭の奥に映像が流れ込む。
古代都市。
崩壊する塔。
空を覆う黒い円環。
そして――“誰か”。
顔は見えない。
ただ一つだけわかる。
その人物も、この能力を持っていた。
???「解析は、世界を壊す」
声が響いた瞬間。
現実に戻る。
湊「っ……はぁ……!」
息が荒い。
膝が揺れる。
リリアナが支えるように手を伸ばす。
リリアナ「神代!」
王「今の反応……やはりだな」
王の目が細くなる。
王「記憶干渉まで起こしている」
ガルディア「危険度が想定を超えています」
違う。
これは“記憶干渉”じゃない。
情報が勝手に流れ込んでいるだけだ。
しかも。
俺の意思とは関係なく。
湊
俺は初めて、強い嫌悪感を覚えた。
能力そのものに対して。
王「神代 湊」
王が宣告するように言う。
王「お前を、国家管理対象とする」
リリアナ「そんな……!」
王「拒否権はない」
ガルディアが剣を構える。
ガルディア「抵抗すれば、即刻拘束だ」
騎士たちが一斉に前へ出る。
完全に戦闘態勢。
俺はゆっくり息を吐いた。
湊「……なるほど」
状況は最悪だ。
でも。
わかってきたこともある。
この世界は、俺の力を“知っている”。
そして恐れている。
それはつまり――
湊「俺が何かをできるって、確信してるってことだろ」
小さく呟く。
その瞬間。
リリアナ「神代、やめてください……!」
彼女が必死に言う。
だが。
俺の視界には、別のものが見えていた。
《王国中枢構造解析完了》
《権限階層:表示可能》
《脆弱点:3箇所検出》
――見える。
この城全体の“構造”。
人ではなく、仕組みとして。
まるで巨大な機械だ。
湊(これが……解析)
その時。
王が一歩踏み出した。
王「終わりだ」
剣が抜かれる。
同時に騎士たちも動く。
ガルディア「捕縛開始!」
空気が爆発するように動いた。
その瞬間。
俺の中で、何かが“カチリ”と噛み合った。
《新機能解放》
《領域解析:展開可能》
――領域。
俺は無意識に手を伸ばした。
湊「……展開」
次の瞬間。
世界が変わった。
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