第5話
◇
その日の夜。
城内は慌ただしかった。
魔族侵入。
しかも王女襲撃未遂。
騎士たちが廊下を走り回り、警備は昼とは比べものにならないほど厳重になっていた。
そんな中、俺は自室の窓際に立っていた。
湊「……どう考えても面倒事だよな」
昼間の出来事を思い返す。
ゼクト。
あいつは明らかに俺の能力を知っていた。
『解析系統』。
『世界を壊せる』。
意味がわからない。
だが一つ確かなのは、この力は普通じゃない。
《神域解析 Lv2》
・術式分解
・魔力視認強化
・危険察知
・情報演算補助
能力まで増えている。
成長速度がおかしい。
その時。
《周囲警戒網を解析しました》
《巡回騎士の死角を表示》
視界に城の簡易地図が浮かぶ。
……親切すぎるだろ。
湊「行けってことか」
俺は小さく息を吐いた。
◇
夜の城は静かだった。
月明かりだけが廊下を照らしている。
だが、騎士の巡回は多い。
普通なら見つかる。
けれど。
《巡回予測》
《右ルート推奨》
頭に地図が流れ込む。
もはやナビだ。
俺は指示通りに進む。
すると本当に誰とも遭遇しない。
湊「チートすぎないか、この能力……」
数分後。
城の奥にある古い塔へ辿り着いた。
普段使われていない場所らしい。
扉を開ける。
中には小さな部屋があった。
机。
本棚。
ランプ。
そして窓際には――リリアナ。
銀髪が月光に照らされていた。
リリアナ「来てくれたのですね」
湊「まあ、一応」
彼女は少し安心したように笑う。
だが、その表情はすぐ真剣なものへ変わった。
リリアナ「まず、謝ります」
湊「?」
リリアナ「あなたたちは、騙されています」
空気が止まる。
湊「……どういう意味?」
リリアナは迷うように目を伏せた。
そして静かに言う。
リリアナ「この国は、あなたたちを“勇者”として召喚しました」
リリアナ「ですが本来の目的は別です」
嫌な予感。
背筋が冷える。
湊「何だよ、それ」
リリアナ「……兵器です」
短い言葉。
だが重かった。
リリアナ「強力な異界人を召喚し、魔族との戦争に利用する」
リリアナ「それが、この国の目的」
予想はしていた。
でも、実際に言われるとキツい。
俺たちは客じゃない。
使い捨ての駒。
湊「帰還方法は?」
リリアナが沈黙する。
それだけで答えだった。
湊「……ないのか」
リリアナ「少なくとも、王国は把握していません」
胸の奥が冷える。
クラスメイトたちは、まだ夢を見ている。
異世界。
勇者。
冒険。
だが実際は違う。
これは戦争だ。
その時。
《感情解析》
《対象:リリアナ》
・罪悪感
・恐怖
・決意
彼女は本気だ。
嘘じゃない。
湊「なんで俺に話した」
リリアナ「あなたなら、気づくと思ったからです」
即答だった。
リリアナ「神代湊。あなたは周囲をよく見ています」
リリアナ「そして、誰より冷静です」
買い被りだ。
そう思った。
だが。
彼女の次の言葉で、その考えは吹き飛んだ。
リリアナ「それに、あなたは“適合者”だから」
湊「……適合者?」
その瞬間。
《特定単語を検知》
《記録情報へアクセスします》
頭に激痛が走る。
湊「ぐっ……!?」
リリアナ「神代!?」
視界が揺れる。
知らない光景が流れ込む。
巨大な魔法陣。
無数の死体。
崩壊した都市。
そして。
黒い空。
《過去記録断片を確認》
《『神域解析』は古代禁忌能力です》
鼓動が跳ねる。
禁忌?
《過去所有者:確認不能》
《危険度:世界災害級》
湊「……は?」
思わず声が漏れた。
世界災害級?
なんだそれ。
リリアナが不安そうに俺を見る。
リリアナ「大丈夫ですか?」
湊「いや、全然大丈夫じゃない」
本気で笑えない。
だが、リリアナはさらに衝撃的なことを言った。
リリアナ「昔、この力を持った者が世界を半壊させました」
沈黙。
思考停止。
湊「……おい」
リリアナ「記録では“観測者”と呼ばれています」
リリアナ「魔法を解析し、分解し、奪い、世界法則すら破壊した存在」
頭がおかしくなりそうだった。
そんなものを俺が持ってる?
ふざけるな。
湊「なんでそんな危険物が俺に」
リリアナ「わかりません」
彼女は首を横に振る。
リリアナ「ですが、魔族があなたを狙った理由はそれです」
ゼクト。
あいつ、知っていた。
つまり。
この力の存在は、過去から伝わっている。
その時。
《警告》
《複数の接近反応》
視界に赤文字。
同時に。
塔の外から怒声が響いた。
騎士「こちらです!!」
騎士「神代湊を発見しろ!!」
……最悪だ。
湊「なんでバレた!?」
《推定:監視継続中》
忘れてた。
俺、監視対象だった。
リリアナが顔を青くする。
リリアナ「まさか、お父様……!」
重い足音。
階段を駆け上がってくる。
そして。
バンッ!!
扉が勢いよく開かれた。
現れたのは、騎士団長ガルディア。
その後ろには武装した騎士たち。
さらに。
王までいた。
王「……やはり貴様か」
冷たい声。
完全に敵を見る目だった。
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