第4話
黒い槍が放たれる。
音より速かった。
騎士「殿下ァ!!」
護衛騎士が飛び出す。
だが間に合わない。
その瞬間。
《術式解析完了》
《呪槍術:分解可能》
視界の中で、槍の構造が線になって見えた。
魔力の接続点。
術式の核。
循環経路。
――ここだ。
無意識に手を伸ばす。
湊「壊れろ」
パキンッ。
軽い音。
次の瞬間、黒槍が空中で霧散した。
騎士「なっ……!?」
リリアナ「え……」
静寂。
誰も動けない。
屋根の上の魔人ですら目を見開いていた。
魔人「……は?」
俺自身も驚いていた。
今の感覚。
“魔法を消した”というより、“構造を崩した”。
組み上がった積み木を指一本で崩すみたいに。
《スキル『術式分解』を取得しました》
また文字。
増えていく。
どんどん。
魔人「……なるほど」
魔人が不気味に笑う。
魔人「面白ぇのが召喚されてんなァ」
次の瞬間、奴の周囲に十本以上の黒槍が浮かぶ。
護衛騎士たちの顔が青ざめた。
騎士「まずい……!」
騎士「上級魔槍術だ!!」
リリアナ「下がってください! あなたたちでは――」
だが遅い。
黒槍が一斉に放たれた。
暴雨。
殺意の雨。
普通なら全滅していた。
けれど。
《同時解析開始》
《演算負荷上昇》
《処理可能》
世界が遅くなる。
槍一本一本の構造が見えた。
核。
流れ。
弱点。
全部。
湊「――っ!」
頭痛が走る。
だが、止まれない。
手を振る。
その瞬間。
空中の黒槍が次々と崩壊した。
バキバキバキッ!!
黒い粒子になって消える。
騎士たちが呆然と立ち尽くす。
騎士「全部……消した……?」
ガルディア「馬鹿な……」
いつの間にか騎士団長まで来ていた。
だが、驚いている場合じゃない。
魔人が俺を睨む。
その目に浮かんでいたのは、明確な警戒だった。
魔人「……解析系統か」
湊「?」
魔人「厄介だなァ、それ」
瞬間。
奴の姿が消えた。
速い。
いや、違う。
《隠密術式確認》
《視覚認識阻害》
認識をズラされてる。
右。
反射的に振り向く。
黒槍が目前に迫っていた。
湊「っ!!」
咄嗟に避ける。
頬が切れた。
熱い血が流れる。
リリアナ「神代!!」
魔人がすぐ目の前にいた。
フードの奥。
赤い瞳。
口元だけが笑っている。
魔人「反応できるか」
槍が振り下ろされる。
速い。
だが。
《近接戦闘解析開始》
見える。
筋肉の動き。
重心。
次の軌道。
体が勝手に動いた。
ギリギリで回避。
槍が石畳を粉砕する。
魔人「へぇ」
奴が楽しそうに笑う。
最悪だ。
完全に戦闘狂タイプ。
だが、同時にわかる。
こいつ、本気じゃない。
まだ様子見だ。
《対象解析進行中》
《個体名判明》
【魔人族 幹部級】
名前:ゼクト
幹部級。
つまり、魔王軍の上位存在。
なんでそんな奴が王城にいる。
護衛どうなってるんだ。
その時。
城内に鐘の音が響いた。
ゴォォォン!!
騎士「非常警鐘!!」
騎士「城内に侵入されているぞ!!」
騒然となる。
ゼクトが肩をすくめた。
ゼクト「おっと、時間切れか」
ガルディア「逃がさん!!」
騎士団長が飛び込む。
だが。
ゼクトが軽く槍を振るだけで、衝撃波が発生した。
ガァン!!
ガルディア「ぐっ!?」
騎士団長が吹き飛ばされる。
強い。
レベルが違う。
ゼクトは最後に俺を見た。
ゼクト「神代 湊、だったか」
湊「……」
ゼクト「お前、その力」
赤い瞳が細まる。
ゼクト「世界を壊せるぞ」
ゾッとした。
冗談を言ってる顔じゃない。
そして次の瞬間。
黒い霧が噴き上がる。
騎士「消えた!?」
騎士「転移魔法か!」
ゼクトの姿は消えていた。
残されたのは、破壊された中庭だけ。
そして。
全員の視線。
俺へ向けられる。
恐怖。
警戒。
困惑。
その中で。
リリアナだけが、違う目をしていた。
確信。
何かを決めたような目。
リリアナ「……神代」
湊「何」
リリアナ「今夜、誰にも見つからない場所へ来てください」
湊「は?」
リリアナ「あなたに、話さなければならないことがあります」
彼女は真剣だった。
王女としてではない。
一人の人間として。
そして俺は察する。
この国は、たぶん。
思っていた以上に危険だ。
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