第3話
◇
訓練場の空気が張り詰める。
騎士団長ガルディアは、木剣を握ったまま俺を睨んでいた。
ガルディア「もう一度聞く。今、何をした」
湊「だから、わからないって」
ガルディア「ふざけているのか?」
怒気が混じる。
周囲の騎士たちもざわついていた。
騎士A「団長の威圧を消した……?」
騎士B「あり得ん……」
クラスメイトたちも動揺している。
桐谷「おいおい、なんかヤバくね?」
女子生徒「神代くん、本当に何したの……?」
俺だって聞きたい。
だが、感覚としては理解できていた。
『解析』した瞬間、構造が見えた。
スキルの流れ。
魔力の循環。
発動の仕組み。
そして、“壊せる”と思った。
まるで機械の欠陥を見つけるみたいに。
大臣「陛下へ報告が必要ですな……」
大臣が険しい顔で呟く。
完全に危険人物扱いだった。
その時。
リリアナ「少しよろしいでしょうか?」
凛とした声。
銀髪の王女――リリアナが訓練場へ入ってきた。
騎士たちが一斉に頭を下げる。
騎士「リリアナ殿下!」
リリアナ「訓練の視察に来ました」
そう言いながら、彼女は真っ直ぐこちらへ歩いてくる。
そして。
俺の前で立ち止まった。
リリアナ「神代 湊」
湊「……何?」
リリアナ「あなた、本当に面白い力を持っていますね」
周囲がざわつく。
王女自ら話しかけるなんて、相当特別らしい。
ガルディア「殿下、その者には近づかぬ方が――」
リリアナ「危険だから、ですか?」
リリアナが静かに笑う。
リリアナ「ですが、危険かどうかもまだわかっていないのでしょう?」
ガルディア「それは……」
騎士団長が言葉に詰まる。
リリアナは俺を見つめた。
リリアナ「少しお話ししませんか?」
◇
案内されたのは城の中庭だった。
噴水。
花畑。
白い石畳。
やたら綺麗だ。
護衛騎士はいるが、少し距離を取っている。
リリアナ「まず謝罪を」
湊「?」
リリアナ「父が失礼な態度を取りました」
湊「別に気にしてない」
半分嘘だ。
だが怒っても仕方ない。
この世界じゃ、得体の知れない能力なんて恐怖でしかない。
リリアナ「あなたは冷静ですね」
湊「パニックになっても意味ないし」
リリアナ「普通の方は、もっと感情的になりますよ」
彼女は噴水の水面を見ながら言う。
リリアナ「突然異世界へ連れて来られ、危険視され、それでも落ち着いている」
湊「……そう見えるだけかも」
正直、不安はある。
帰れるのか。
この国は安全なのか。
俺たちはどうなるのか。
わからないことだらけだ。
ただ。
感情を爆発させても、状況は悪くなるだけ。
リリアナ「あなたは頭がいいのですね」
湊「買い被りだよ」
すると彼女は小さく笑った。
その笑顔は年相応だった。
昨日まで『王女』としてしか見えていなかったが、こうして見ると普通の少女にも見える。
……いや、普通ではないか。
【リリアナ・フォン・アルセリア】
Lv41
状態:呪術汚染(微弱)
感情:興味/警戒/孤独
――呪術汚染?
視界に表示された文字に、俺は眉をひそめた。
湊「……」
リリアナ「どうしました?」
解析を深める。
すると、彼女の体に黒い糸のような魔力が絡みついているのが見えた。
かなり薄い。
普通なら気づかないレベル。
だが確実に存在している。
湊「……あんた、体調悪い?」
リリアナ「え?」
湊「たまに頭痛とか、倦怠感とかない?」
リリアナの目が見開かれる。
リリアナ「なぜ、それを……」
当たりか。
しかも反応的に、長期間続いている。
リリアナ「……誰にも話していないのですが」
湊「勘」
さすがに解析スキルとは言えない。
まだ情報は隠すべきだ。
すると、リリアナが少し真剣な顔になる。
リリアナ「神代 湊」
湊「何?」
リリアナ「あなた、本当に何者なのですか?」
その問いに、俺は苦笑した。
湊「ただの高校生」
リリアナ「そんな方が、騎士団長の威圧を無効化しますか?」
まあ、そうなるよな。
だがその時。
《警告》
《周囲に敵意を感知》
視界に赤い文字。
瞬間。
背筋が冷えた。
湊「っ!」
反射的にリリアナを引き寄せる。
リリアナ「きゃっ――」
次の瞬間。
ズガァンッ!!
さっきまで彼女がいた場所に、黒い槍が突き刺さった。
石畳が砕け散る。
護衛騎士たちが叫ぶ。
騎士「敵襲!!」
騎士「殿下をお守りしろ!!」
空気が一変した。
屋根の上。
黒装束の影が立っていた。
【???】
Lv52
種族:魔人族
スキル:
・隠密
・魔槍術
・毒呪
魔族。
しかもかなり強い。
魔人「へぇ……避けるか」
低い声。
男とも女ともつかない声だった。
リリアナ「な、ぜ……ここに魔族が……!」
護衛騎士たちが前へ出る。
だが。
《警告》
《護衛騎士の生存率:23%》
低すぎる。
つまり。
こいつ、強い。
魔人が槍を構える。
魔人「姫だけ殺せばいい。邪魔するなよ」
殺気。
空気が震える。
騎士たちが動けない。
その時。
俺の視界に文字が浮かんだ。
《対象解析完了》
《スキル構造を一部把握》
《干渉可能》
――またか。
頭に流れ込む情報。
魔力の流れ。
槍の構造。
呪術式。
見える。
全部。
そして理解してしまう。
壊せる、と。




