第10話
◇
空が裂ける音は、爆発よりも不気味だった。
“バリッ”という乾いた音と同時に、訓練場の上空が歪む。
黒い輪が広がり、そこから魔人たちが降りてくる。
数ではない。
圧だ。
それだけで空気が重くなる。
ガルディア「総員!! 陣形を組め!!」
騎士たち「了解!!」
騎士団が一斉に動く。
だが、その動きの中に“迷い”が混じっていた。
恐怖だ。
相手の格が、すでに常識を超えている。
王「……遅い」
王が静かに呟く。
そして一歩前に出た。
王「神代 湊」
湊「何」
王「貴様は“戦況の中心”だ」
その言葉に、空気が変わる。
全員の視線が一度、俺に集まる。
王「動くな」
湊「……動いたら?」
王「この国が滅ぶ」
はっきりと言った。
冗談ではない。
その瞬間。
リリアナ「お父様!!」
リリアナが叫ぶ。
リリアナ「もうやめてください!!この人は――!」
王「黙れ、リリアナ」
その声は、冷たい。
親子の会話じゃない。
命令だ。
俺はそのやり取りを見ながら、少しだけ視線を落とす。
湊
ようやく構造が見えてきた。
この国は一枚岩じゃない。
“恐怖で統制されたシステム”だ。
王が恐れているものがあり、
騎士はそれに従い、
リリアナだけがそこから外れている。
そして――
その“恐れの対象”が俺。
ゼクト「おいおい」
空から声。
ゼクト「なんか会議してる場合か?」
黒い輪から、ゼクトが降りてくる。
ゆっくりと。
まるで散歩みたいに。
その背後に、魔人たちが整列している。
ゼクト「王国、思ったより脆いな」
ガルディア「貴様……!!」
騎士団長が踏み出す。
だが、その瞬間。
ゼクト「動くな」
たった一言。
空気が“固まった”。
圧じゃない。
魔力制御だ。
全員の身体が一瞬だけ重くなる。
ガルディア「ぐっ……!」
膝が沈む。
騎士たちも同じだ。
まるで見えない重力。
ゼクト「で」
ゼクトの視線が俺に向く。
ゼクト「お前が“解析者”か」
湊「そう見えるならそうなんだろ」
ゼクト「いいね、その余裕」
楽しそうに笑う。
ゼクト「一つ試したいことがある」
湊「やめとけ」
ゼクト「無理だな」
次の瞬間。
ゼクトの周囲の空間が歪む。
魔力の形が変わる。
術式が“編まれる”。
《警告》
《未知術式生成》
《解析難度:異常》
視界にエラーのような文字。
初めて見る反応だ。
湊「……これ」
理解が追いつかない。
“解析できない構造”。
いや、正確には――
解析する前に“形が変わる”。
ゼクト「観測者対策ってやつだ」
ゼクトが笑う。
ゼクト「お前みたいなのはな」
ゼクト「“理解する前に潰す”のが基本だ」
空気が震える。
次の瞬間。
ゼクトの指が軽く動いた。
その瞬間。
空間そのものが“折れた”。
湊「っ!!」
反射的に後ろへ跳ぶ。
だが遅い。
俺の左側の空間が“消えた”。
削り取られたように。
ガルディアが叫ぶ。
ガルディア「空間切断だと……!?」
リリアナの顔が青ざめる。
リリアナ「そんなの……魔法の域じゃ……!」
ゼクトは肩をすくめる。
ゼクト「魔法じゃねぇよ」
ゼクト「“構造操作”だ」
その言葉が刺さる。
構造。
俺と同じ単語。
湊
視線が交差する。
理解した。
こいつも“見ている側”だ。
ゼクト「お前、面白いな」
ゼクト「普通の観測者じゃねぇ」
ゆっくり歩いてくる。
距離が縮まる。
周囲の騎士は動けない。
いや、“動くという選択肢”を失っている。
ゼクト「お前、どこまで壊せる?」
その問い。
意味がわからないのに、妙に核心を突いている。
湊「……知らない」
ゼクト「だろうな」
笑う。
ゼクト「だから試す」
その瞬間。
ゼクトの手が俺の方向へ向いた。
何かが来る。
《警告》
《構造崩壊攻撃》
避けられない。
理解がそう告げる。
リリアナ「神代!!」
叫び声。
その瞬間。
俺の中で“何か”が切り替わった。
湊「――解析」
世界が静止する。
さっきとは違う。
もっと深い層。
“構造そのものの裏”。
ゼクトの攻撃が見える。
ではなく――
“意味”が見える。
これは攻撃じゃない。
試験だ。
観測者としての。
湊「……ふざけるな」
無意識に声が漏れる。
その瞬間。
《深層解析開始》
《制限解除》
《危険機能:起動》
視界が割れた。
ゼクトの攻撃が、目の前で“停止”している。
いや違う。
止めている。
俺の認識が、それを“固定”している。
ゼクト「……ほぉ」
初めて、ゼクトの声に驚きが混じった。
ゼクト「そこまで行くか」
空気が震える。
次の瞬間。
俺とゼクトの間に、“見えない線”が張られた。
戦闘じゃない。
これはもう――
“観測同士の衝突”だった。




