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第11話


 空間が軋む。


 俺とゼクトの間に張られた“見えない線”が、周囲の空気を歪ませていた。


 騎士たちは動けない。


 いや、近づけない。


 まるで俺たちの周囲だけ、世界のルールが変わっている。


ガルディア「……なんだ、これは」


 騎士団長の額に汗が滲む。


 リリアナも息を呑んでいた。


リリアナ「空間が……震えてる……?」


 違う。


 震えているのは“認識”だ。


 世界が、俺たちを正常に処理できていない。


ゼクト「ははっ」


 ゼクトが楽しそうに笑う。


ゼクト「いいなァ、お前」


ゼクト「やっぱり“器”が違う」


湊「器?」


ゼクト「観測者には段階がある」


 ゆっくりと指を動かす。


 その周囲で、空間が波紋のように揺れた。


ゼクト「普通は“魔法を見る”程度」


ゼクト「だが上位になると、“世界の構造”そのものへ触れる」


 言いながら、俺を見つめる。


ゼクト「お前はもう入口に立ってる」


 その瞬間。


《深層情報接続》

《閲覧権限拡大》


 頭に大量の情報が流れ込む。


 魔法とは何か。

 スキルとは何か。

 この世界の“法則”は何でできているのか。


 脳が焼けそうになる。


湊「っ……!!」


 視界が白く揺れる。


 するとゼクトが眉を上げた。


ゼクト「おいおい、まだ耐性ないのか?」


 軽い口調。


 だが内容は最悪だ。


 つまり、本来ならもっと情報を処理できるってことだ。


 その時。


リリアナ「神代!!」


 リリアナの声。


 その瞬間だけ、頭痛が少し和らいだ。


 視線を向ける。


 彼女は不安そうにこちらを見ていた。


 その顔を見た瞬間。


 俺の中で、妙な感覚が生まれる。


 ……戻ってこれる。


 そう思った。


《精神安定因子を確認》


湊(は……?)


 そんな表示まで出るのか。


 ゼクトがニヤリと笑う。


ゼクト「なるほど」


ゼクト「アンカー付きか」


湊「アンカー?」


ゼクト「観測者はな」


 ゼクトが空を見上げる。


ゼクト「世界を理解しすぎると、“人間側”に戻れなくなる」


 その言葉に、背筋が冷えた。


ゼクト「だから普通は壊れる」


ゼクト「精神がな」


 静かに笑う。


 でも、その目は笑っていない。


 どこか諦めたような色。


ゼクト「だが、お前は違う」


ゼクト「そこに姫さんがいるからな」


 リリアナが目を見開く。


リリアナ「わ、私……?」


ゼクト「本人無自覚かよ」


 呆れたように肩をすくめる。


 俺はその会話を聞きながら、別のことを見ていた。


 ゼクトの“中”。


 今なら、少しだけ深く見える。


【ゼクト】

状態:

・深層侵食

・世界乖離

・観測汚染(重度)


 ……なんだこれ。


 異常だ。


 人間というより、“壊れかけの何か”。


湊「お前……」


ゼクト「ん?」


湊「もうかなりヤバい状態だろ」


 その瞬間。


 ゼクトの笑みが止まった。


 空気が凍る。


 魔人たちがざわつく。


魔人「ゼクト様……?」

魔人「まさか見えて……」


 ゼクトは数秒黙った後、ゆっくり笑った。


ゼクト「……見えるのか」


湊「なんとなくな」


ゼクト「最悪だな、それ」


 そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


ゼクト「じゃあ理解できるだろ」


ゼクト「観測者は、長く保たねぇ」


 静かな声。


 さっきまでの軽さが消えていた。


ゼクト「世界を見すぎる」


ゼクト「理解しすぎる」


ゼクト「すると、世界との境界が壊れる」


 俺は黙って聞く。


 理解したくないのに、理解してしまう。


 この能力は、“万能”じゃない。


 代償がある。


 しかも致命的な。


王「……くだらん」


 その時、王が口を開いた。


 全員の視線が向く。


王「だからこそ管理が必要だ」


ゼクト「まだ言ってんのか」


 ゼクトが呆れたように笑う。


ゼクト「王様、お前もう手遅れだぞ」


王「何?」


 その瞬間。


 ゼクトの指が王へ向いた。


ゼクト「お前、“喰われてる”」


 空気が止まる。


 俺の視界にも、同時に警告が出た。


《王個体再解析》

《深層寄生存在を確認》


 ――寄生?


 次の瞬間。


 王の身体から、黒い線が浮かび上がった。


 まるで血管みたいに。


リリアナ「……っ!?」


ガルディア「陛下!?」


 王が苦しそうに顔を歪める。


王「な……にを……」


 黒い魔力が噴き出す。


 その時。


 俺は“見てしまった”。


 王の中に、“別の何か”がいる。

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